暗い店に学ぶ
仕事柄、「おすすめの飲食店は?」と聞かれることがよくある。 名古屋の名物を楽しめる店を教えるのは案外簡単だ。名古屋には、グルメ界で無双の存在・大竹敏之さんというライターがいて、彼の書籍から少しピックアップすれば、名古屋の「らしさ」を堪能できる店を紹介できる。 最近だと、SNSで話題になった「コデランガイド」という一冊が秀逸だ。この小冊子は、名古屋大学病院の小寺教授と、彼の率いる消化器・腫瘍外科の先生方が、学会の際に配るためにつくったグルメ本で、大竹さんも編集に協力している。 名大病院の先生たちが自ら取材した170軒以上の店が載っていて、「地元の人が通う店が一望できる!」と大評判なのだ。無料配布にしてはクオリティが恐ろしいくらい高く、地元民でさえ唸る内容だ。 (ちなみにボクモも載せてもらっている。わざわざ先生方がラムチョップとNZワインをたらふく召し上がりに来てくれて、取材してくれた。感謝しかない。) とはいえ「若者に人気の店」となると、話は別だ。 僕は世間の飲食店事情を把握しておかねばと思ってはいるが、夜はだいたいカウンターに立っているし、そうでない時は原稿を書いている。流行りを追っかける余裕がないのが実情だ。 そこで頼りになるのは、カウンター越しに集まる若いお客さんからの情報だ。外食好きの彼らに「最近、どこか良かった?」と尋ねると、いろいろ教えてくれる。 それを元に先日、思い切って流行の店に行ってみたのだった。 きっかけは、名古屋にやってくるあるインポーターの方から「ボクモワイン×インポーターで、今後の展開の打ち合わせをしませんか?」と誘われたため。 せっかくだから流行りの店でご飯を食べながら打ち合わせをしようと思い、いつもより早めに原稿を片付けた(いつもこうすれば、もっと飲食店に行けるんじゃないの?←正論)。 予約した店は、予想どおり若者だらけ。後ずさりするほどのスタイリッシュさで、とんでもない金額がインテリアに投じられていることがうかがえた。 しかし、僕が何より驚いたのは、店内の暗さだ。 もう、圧倒的に暗いのだ。 まずメニューが読めない。テーブルにあるライトを近づけてもギリギリ。もっと大きな字で書いておくれ。 そして、暗すぎて、運ばれてきた料理もワインも色がまったくわからず。何を口に運んでいるのかわからないのだ。 食べながら、これ何だっけ?と考えて、頼んだ料理をメニューで確認しようと思ったが、またライトを近づけて小さな字を見るのが面倒で、結局見ない。今、自分が何を食べているのか、本当にわからなかった。ワインの色もへったくれもない。 キャンプ用のヘッドライトを持ってくれば良かったぜ! ・・・と、僕は別に悪口を言っているわけではない。 だって、これでちゃんと流行っているんだから。それは実に素晴らしいことだと心から思う。 世の中は、自分の価値観だけでは成立しているわけではまったくない。自分が勝手にどうかな?と思ったやり方だったとしても、お客さんからの需要さえあれば、当然やっていける。誰かのイマイチは、別の誰かのイケてる。世の中そんなことだらけだ。 そしてこういう体験が、僕の勇気に繋がる。 たとえ今週はヒマだなあと思っても、アイデアを出して改善したら、来週は「お客さんの需要があるゾーン」にたどり着けるかもしれない。リーチできていないところに、まだまだお客さんはいるはずなのだから。 飲食だって、通販だって、ひと工夫で未来が変わる。それが楽しいのだ。 店は暗くても、先は明るい。そんなことを感じた一夜だった。