ソムリエ岩須(いわす)のブログ

楽しいメドレー

今日は、最近、楽しかったことをちょっとずつ。・初めていらっしゃったお客さまからシールをいただいた。 自分の飼っている犬の顔の自作のシールで、その犬が好きすぎて色んな人に配っているんだって。そういう愛のあふれ方もあるんだ。・テーブルにご来店頂いた佐藤嘉洋さん(元プロキックボクサー)から手作りマガジン「ぶるーと通信」、それから佐藤さん考案のキャラクター「なにとぞくん」のシールをいただいた。シール続き! おもしろく生きている人の「おもしろ」をわけていただいた気分。・ボクモワイン(通販)をたびたび利用してくださる高知の常連さんから、写真付きのLINEをいただいた。「ゲヴュルツトラミネールと手作りの生春巻きをあわせてみたら美味しかったです」と。 でしょ!そうなんですよ。ゲヴュルツ×パクチー&スイートチリソースは完璧なのよねえ。いつも同封しているペアリング例、実際に試して頂いて嬉しいです。 そういや我が家にもライスペーパーあったな。久しぶりにやってみよう。 ・丸一日の休みがひっさしぶりにあったので、ちょっと贅沢しようと。一人で車を2時間走らせて、岐阜県関市にて鮎のフルコースランチを食す。 甘露煮、から揚げ、魚田(味噌だれ)、塩焼き、雑炊。この時期は子持ち鮎なんだ。夏の鮎独特の胡瓜のような風味はないが、ほろっと崩れるお腹の卵は美味。・その帰り道に書店に寄って、まだ読んだことのなかったアガサ・クリスティの文庫を購入。4時間で一気読み。なるほどこれがミステリーの原型なんだな。贅沢に休めました。・これもあった。カウンターで「私、彼氏ができたんですよ」という常連さんからのご報告。そっかよかったよかった!聞けば、先週かららしい。きっとこれからしばらく楽しいねえ。うまくいくといいなあ。・また別の日のカウンターで「これからワインを覚えたいなと思って」と20代男性が初来店。まずは赤ワインと白ワインとの違いを説明。僕で良ければなんでもお伝えします。嬉しい!・昨日は、常連さんから福岡土産のごまさばをいただく。役得役得。初体験。こりゃうまい。赤ワイン(サンジョヴェーゼ)と完璧にマッチ。魚=白じゃないのよね〜・店から帰る途中、ご近所のフレンチの名店カルナヴァルのオーナーさんとばったり。20分ほど近況報告会。がんばってる先輩が近くにいるのってありがたい。僕が出演したラジオを聴いてくださってたみたい。うれし恥ずかし。以上、最近の僕の楽しかったことメドレーでした。こうして思い出して書いていると、そのときの楽しい気分が蘇ってくるので、二度楽しさが味わえることがわかりました。おとく。

14周年パーティー

日曜日にボクモの14周年パーティーをやりました。本当は7月がオープンの月なのですが、事情により3ヶ月遅れでの開催となりました。当日はおかげさまで満員。楽しそうに過ごしているたくさんの顔を見て、熱気を感じて、やっぱりイベントはいいなあと思いました。楽しげな顔で埋め尽くされるのって、美しい店の姿だな。店というのは、お客さんが盛り上がっていて、はじめて完成するものだと改めて実感しました。新しく加入したスタッフはイベント営業に慣れていないながらも、キビキビと動いてくれて助かりました。スタッフOBもお祝いに駆けつけてくれて嬉しかったなあ。パーティーのハイライトは、後半の催し物、謎の音楽ユニット「喘息キャッツ」のライブでした。まあ、種を明かせば、謎でも何でもなく、喘息キャッツとはボクモのシェフ+シェフの友人(のんちゃん)から成る二人組です。共通点が猫好きの喘息持ちということで、この名前になりました。二人は高校時代の同級生で音楽仲間。以前の周年パーティーでも演奏をしてもらったこともあって、ステージに上がったときには、すでに正体がバレバレでした。でも今回、設定がよかった。本人たちが、謎のユニットという立ち位置を貫いたのが効きました。二人は、人間の形をした猫というテイで、猫のお面を被って登場。ひとしきり挨拶をしたあと、シェフのような外見の猫が、「今日ここに来られなかったシェフからこれを預かっている」と言って、ポケットから手紙を取り出しました。「僕は、今日ここにはじめて来たので、事情はわからないのですが、シェフからの手紙を読みますね。 なになに。『今日パーティーに来ている人は、真のボクモファン「ボクラー」に認定します。ボクモの未来はあなたたちボクラーの活躍にかかっています。もっともっとお友達もいっぱい連れてきてくださいね』」仮面の猫が、そうやって手紙を代読しました(関西弁で)。やるなあ。自分じゃない(という設定の)猫に思いを託すとは、ひねりが利いているじゃないの。演奏は、カバー曲を3曲。のんちゃんは、ワインを6杯飲んでからの演奏だったので、歌詞が飛んだりもしていましたが、それもまた愛嬌。僕もいっしょに歌を口ずさみ、途中、色んなことを思い出してちょっとうるっときてしまいました。やはり音楽っていいです。その後は、私岩須の店パス(店長パスタ)を2種類つくって、皆さんに召し上がって頂きました。久々のボクモでの料理、楽しかったです。そして、会の終わり頃、お客さまからこう言われました。「来年は15周年ですね。また大きいの、やるタイミングですね!」そう。10周年のときは、クラブクアトロを借り切って、割と大きめなパーティーをやりました。たしか参加者は230人くらい。ライブたっぷり、お酒たっぷり。たくさんの方のお助けを頂き、大騒ぎのイベントをつくることができました。15周年はどうする。大きいの、またやろうかな。しかし、問題は15周年まで、ボクモが続くかどうかです。これ、ほんとの問題です。こんなことを言うのは、まあまあダサいことだとわかっているのですが、でも、皆さんが思っているより、夜の飲食店は今、厳しい状況です。理由はお察しのとおり、コロナ前に比べて飲みに行く人が減ったからです。今日はどうかな?お客さん来てくれるかな?シェフと毎日そんな話をしています。そんな僕らの正直な気持ちを、シェフは猫に託した手紙という形でやんわりと(?)伝えてくれました。が、現状を嘆いているだけでは始まりません。僕らは好きでこの仕事を選んだのです。なにをやっても自由。アイデアを出したもん勝ち。それが良くてここまでやってきました。よし、またアイデアの出しどころ、来たぞ。来年みんなと楽しい15周年パーティーができるよう、また魅力ある店作り、一歩ずつやっていくのだ。これまでもボクモは変化してきた。でもこれからはもっとだ。止まることなく、中身を変えていかなくては。もちろん楽しい方向にね。そして目指すのは、楽しい顔で埋め尽くされた、美しい姿の店。これをご覧になっている皆さんには、そうなっているかどうかを確かめるために、たまに遊びに来ていただけると嬉しく思います。そして、好きな飲み屋があるという皆さん。その店に久しぶりに行ったら、きっと喜ばれますよ。なくなってから「あの店いい店だったのに」とならぬよう、好きな店にはたびたびの清き一杯、よろしくお願いします。 飲み屋、踏ん張ろうぞ。

作品を説明すること

「自分の作品を説明するのって難しいですよね。」カウンターで男性が言いました。その方は、書家として活動している方。近所のギャラリーに作品を掲示した帰りにボクモに立ち寄ってくださいました。「作品名と簡単な説明を書いた紙を、書の横に貼ってきたんですが、その文章、何を書いたら良いか、すごく悩んだんです。」わかる!その気持ち、共感します。芸術って、説明したとたんに面白くなくなってしまうことがあります。たとえば、ミュージシャンのセルフライナーノーツ。自分がつくった曲の誕生秘話、とか、こんな気持ちで書きました、とか。好きな方もいるでしょうが、僕はあんまり見たくないです。なぜかというと、受け取った僕の解釈が、そのミュージシャンの真意とは違ったことを知って、がっかりしたことが何度もあるから。僕はこっちの世界に勝手に落とし込んで感動していた。でも、「その解釈、実は違います」と知ってしまった。その結果、その音楽が持つ奥行きが消えちゃった気がした。勘違いのままの方が幸せだったのです。でもその逆の、作品に説明が加わることで、楽しみ方が広がるパターンもあります。僕は、絵画の場合、その時代背景と画家の人生を知って鑑賞したいタイプです。たとえば、ゴーギャンの代表作『我々はどこから来たのか、我々は何者なのか、我々はどこへ行くのか』。最愛の娘を亡くし、借金を抱え、逃げるように渡ったタヒチ島で絵を描き、完成したら死ぬつもりだった。その背景を知って、僕はあの絵が俄然光り輝いて見えました。生きるってなんなのさ、死ぬってどうなのさ、みたいな苦悩。情報なしで絵を見るだけではわからなかったゴーギャンの心持ちが、闇の力となっておそろしくこちらに迫ってくるのを感じました。ただ、よく考えたら、これもゴーギャン本人が「俺、こんなひどい状況でこの絵を描いてさあ」と教えてくれたわけじゃない。作品が本人の手を離れてから、周りの人が説明を加えた結果、見ているこちらの心に落ちやすくなったわけです。仮に、実際のゴーギャンが、悩んでいる風を装って、実は新しい彼女とよろしくやりながら「闇っぽい演出たのしー!」とか言いながら描いたのだとしたら(そんなわけないと思うけど)、それは知りたくない情報です。やっぱり作家の手を離れたら、もう作品には作家本人が関与しない方が美しい。その方がこちらの想像が膨らむ。気がする。でもなあ、もし自分が作り手なら。自分の思っていることとぜんぜん違う解釈をされたら、むずむずするだろうなあ。ちょっとだけ説明して、想像の膨らむ方向性をアシストしたい気持ち、とてもよくわかります。だから、書家さんが、作品の横に解説を書いておこうというのも共感します。そして、何を書いたら解釈の補助線になるのか、と悩むのもわかります。後日ギャラリーに行って、作品と、その横の説明書きを見て来ました。ほほう、なるほど。それは、説明ではありませんでした。どちらかというとポエムでした。伝えたいことは特に書いていない。この作品を見た一人のお客さんがふと思ったこと、みたいな立ち位置の短文が書かれている。なるほど、作品+作品から想起するポエムか。うまいな。解釈してもらいたい方向性をふんわり示した感じにもなるもんな。書家さんが悩んで到達したというこのやり方、素晴らしいと思いました。これならばさりげない。そうだ。僕も、作品と言えるほど大げさなものではないですが、ラジオの原稿を書く仕事をやっています。たまに見たいという奇特な方に、カウンター越しに放送原稿をお見せすることもあります。今思えば、こういうとき、がっつりセルフ説明をしてしまっていることがあります。やばいです。「その文章は、ええっとね、お客さまの話をタネに、自分の昔の経験とか加えて、最初の前振りを最後に回収する感じで書いてみました。」・・・要らん。どうでもいい。作り手の事情とか、まじで知って得しないし、文章の構造の説明ってダサい。ああ、僕の嫌いなセルフライナーノーツ、やっていたんだなあ。恥ずかしい。反省です。ならば、僕も書家さんみたいな、ポエムっぽい感じで言えば良かったのかも。「人って、あったかさも、つめたさも、持っているよねえ。人間だもの。」・・・ダメだ。みつをっぽすぎる。ポエムの引き出しがスカスカで残念だ。。。やはり僕の場合、黙っていた方がいいってことでしょうな。沈黙は金。教訓。送り出したものには、なるべく触らない。解釈は受け取る方に任せる。喜んでもらえたら、それを励みにする。それが美しい。ちなみに件の書家さんは、万代学さん。奥様と「千華万香」という名前で書道の活動されています。本職は、三重のお酒「作(ざく)」をつくっている清水清三郎商店の蔵人です。書家と蔵人。日本の美を追究する人。一本通っていてかっこいいなあ。

思い出してもらえる店

久しぶりにいらっしゃったお客さまからこんなことを言われました。「このところずっと来られてなかったので、なんだか来づらくなってしまったんです。すみません。」いやいや、すみませんはやめてください。謝る必要なんてこれっぽっちもありません。でも「来づらくなる」という気持ちは、ちょっとわかります。昔住んでいたところの近くに行きつけの中華料理屋さんがありました。餃子と肉モヤシ炒めがめちゃくちゃ美味しかった。ママさんが優しくしてくれて、色々おまけをしてくれたり、旅先のお土産をくれたりしていました。が、あるとき生活サイクルが変わり、なんとなく足が遠のいてしまいました。店の前を通っても、なんだかちょっと入りづらい。でも、餃子と肉モヤシ炒めがどうしても食べたくなって、久しぶりに行ったとき。あのとき、たしかに「間が空いちゃってすみません」が僕の心にもあった気がします。考えるに、「すみません」というのは、「本当は行くべき場所だと思っているのに」という気持ちが入っている気がします。あの店がなくなったら困る。餃子も肉モヤシ炒めも美味しいから。自分は店のファンだとは思っている。でも来店するという形で店を応援できてない。すみません。そういうことなのかもな。でもやっぱり、店をやっている立場からすると、すみませんなんて、全然思わないで欲しいです。自分が気が向いたときに行く。それが健全な活動です。来店するきっかけがないのならば、きっかけをつくることができていない店の問題なんだろうと思います。よし、きっかけ、もっとつくるぞ。まずは新メニュー。コロナ前に好評だった「ラムしゃぶ」を冬メニューで復活しようと思います。前と同じでなくてしっかりブラッシュアップだ。これから試作。乞うご期待。看板のラムチョップステーキ、とんでもなく原価が高騰していますが、なんとか工夫して踏みとどまっています。はっきり言ってお得なので、もうちょっとそのへんをアピールせねば。NZワインも新しいものを続々投入しています。最近めちゃくちゃ美味しいロゼスパークリングに出会ったので、グラスで出していこう。それから、長らくお休みしていたイベント活動、ぼちぼち再開しています。そう、飲食+イベントがボクモの元来のスタイルなのだ。・10/8(日)ボクモ14周年 NZワイン飲み放題&ビュッフェ+ライブ「my-go-to」・・・ご予約あと数名分受付中・11/3(金/祝)独身ワイン会 2023 秋・11/4(土)名古屋大学主催 あいちサイエンスフェスティバル2023 トークイベント「地図にも載っていない!都市計画がない都市の研究」 出演:小野悠(豊橋技術科学大学 准教授)・11/ 5(日)トークイベント 路上観察学の極北(!?)「片手袋とは運動であり悲しさであり優しさであり都市であり我々自身である!」出演:石井公二(片手袋研究家)楽しそうでしょ。それから、通販のボクモワインは、「ちょっと目を離した隙にこんなに新商品が増えてる!」となるように、ガシガシとニューアイテムを入荷しています(中でもスカウトのピノ、やばいくらい美味しい)。増えた分、もっと伝えなきゃと思い、最近は週1の商品紹介メルマガを書いています。反応があるとやっぱり嬉しいもんですね。通販って飲食店と違って、おそらく「間が空いちゃってすみません現象」は起きにくい距離感ですよね。なので久々のご利用、大歓迎です。こちら、久しぶりの方からの注文伝票を発見するたびに、やったー!と小躍りしております。たまに思い出してもらえる店になるには、飲食も通販も、もっと「なんだか楽しそう」をつくって発信せねば、です。アフターコロナの店経営はそんなに簡単じゃないですが、やれることはまだいっぱいあるぞ。今年もあと3ヶ月。2023年を悔いなく、ね。

深夜バスで上高地へ

長野県の上高地に行ってきました。朝もやがかかる透明な梓川、朝日に輝く急峻な穂高連峰、嘘みたいに美しい明神池。どれも初体験で、時間がたつのも忘れて見入ってしまいました。ハイキング終盤で温泉に浸かることができたのもたまらなかった。露天風呂で目をつぶると、そこまで見てきた景色、そしてたどり着くまでの気持ちが鮮やかに蘇りました。・・・ああ、今、とんでもなく贅沢な時間の使い方をしている。もしかしたら今が人生のピークじゃなかろうか、なんて思いました(ちなみに僕は年に数回は人生のピークを感じるタチです)。しかし、そんな幸せな気持ちに至るまでの道のりは、平坦ではありませんでした。上高地で歩いた道も平坦ではなかったのですが、当日の朝を迎えるまでの道もまた、なかなか険しかったのです。旅の発案者はSさん。ボクモの元スタッフでもあり、20年以上の友人でもあるSさんは旅の達人です。「ねえ、今度みんなで上高地に行かない?」ボクモ同窓生が集まった今年の春、そんな話になり、上高地マスターでもあるSさんがあれよあれよという間にスケジュールを組んでくれて、旅が実現することになりました。達人曰く、「上高地って自家用車では入れないから、車で行っても結局最後はバスに乗ることになるし、ハイキングで疲れたあとに長距離を運転するのはちょっと危ない。便利さとむこうでの滞在時間を考えると、深夜バスで行って、夕方のバスで帰ってくるのがベスト」とのこと。もちろん達人の計画に身を委ねることに。しかし、そんな計画をボクモのカウンターでしていたら、皆さん一様に「岩須さん、深夜バスなんて若いですね〜」とか「私なら早朝から歩くとか無理だなあ」とか、しまいには「体バキバキで1週間は体調不良を引きずるでしょう」とか、恐いことを言う。僕の中では、昔からのメンバーが集まって旅できるのが嬉しい、その一心で「行きましょう」となったのですが、そうか、言われてみたら、深夜バスで行ってからの長距離ハイキングって、47歳のおっさんには厳しいのかも、と不安になってきました。そして、わくわく半分、びくびく半分で迎えた夜11時の名古屋駅。乗り込んだバスは4列シート。発進してすぐにこれはマズいかもと思いました。運転が荒い。揺れる揺れる。もちろん、車内で寝る気満々で当日は早起きしておきました。が、この揺れはどうも。。。酔ったら負けだ、なんとか眠ろう。しかし、思えば思うほど、目が冴えてしまう。とそのとき、ふと思い出しました。そうだ、大学時代、よく深夜バスでスキーに行っていた。あのときも車酔い問題で悩まされていた。しかし、僕は当時、我流の解決方法を編み出したのだった。それは頭を思いっきり横にして(ちょっと首は痛いが我慢)、体は座っているけれど頭はふとんの中に近い状態にする、という戦法だ。これだと、僕の激弱の三半規管がなぜかちょっと強くなる。気がする。結果、今回、25年ぶりに思い出した首横作戦のおかげで、寝不足ではあったものの、見事「ちょい酔い」くらいで早朝の上高地にたどり着くことができたのでした。体調を崩して他のメンバーに迷惑をかけるんじゃないかという不安を脱して、心底ホッとしました。そして、安堵をじんわり噛みしめているところに、飛び込んできたあの雄大な自然の景色。緊張からの緩和。しゃがんでからのジャンプ。山、木々、川、そして池。すべてが沁みました。感動に次ぐ感動。歩いて足が棒になりかけても、夢中で何枚も写真を撮りました。しかし。やはり目の前の雄大なパノラマと、iPhoneの中に収まった景色には、あまりにギャップがあるなあ、と思いました。手元のこれは、ほんの一部。目の前の景色はもっともっと多くのものを含んでいる。例えば、そこにたどり着くまでの心の動き。友といっしょに同じ風景を見て、感動を共有している嬉しさ。そういった、再現不可能な、今しかない気持ちが、目の前の景色をより鮮やかにしてくれているんだろうな。そんなことを思いながら、なだらかな山道をてくてく歩きました。1日で歩いた歩数は、合計3万歩。正直、膝と腰に不安を抱える軟弱な僕がこんなに歩けると思わなかったです。きっとメンバー、景色、温泉(足の疲れがふっとんだ)、いろいろ良いことが揃ったから歩けたのだろうと思います。また来よう、上高地。とってもとっても良いところでした。Sさん、最高のコーディネート、ありがとうございました。東京からバスで参加のEさん、帰りの渋滞、お疲れ様でした。どうやらバスの中でVIVANTの最終回を見たようですね。僕は翌朝見ました。またみんなで感想を言いあいたいですね。さて次はどこに行こう。人生のピークと思える瞬間に、また出会えたらいいなあ。

ラジオに出演します

10年ぶりに古巣のラジオ局に行ってきました。先月、編成局長さんから「番組にゲスト出演してもらえないか」というメールをもらいまして、僕でいいんかいな、と思いつつも、お受けすることに。事前に送られてきた企画書には、こう書いてありました。「ナビゲーターの鉄平がマスターをつとめる架空のスナックに毎週ゲストを招いて、そのゲストの過去・現在・未来をインタビューする。」あれ、やっぱ、僕じゃダメじゃない?だって、それって有名な人が出演する前提の企画でしょう。案の定、これまでのゲストを見ると、シンガーソングライターのaikoさんとか書いてある。そりゃaikoさんの過去とか未来とか、聞きたいわ。それに引き換え、こちらは全リスナーが知らないおっさん。過去とか未来とか、心底どうでも良い。ははーん、さてはゲストブッキング、行き詰まったな。そうだよな、ゲストありきの番組って、けっこうブッキングが大変だもんな。わかるわかる。それにしても岩須て。まあでも、鉄平さんとはラジオディレクター時代にいっしょに番組をやっていたし、ボクモにもちょくちょく飲みに来てくれる。ボクモの10周年イベントでは司会をしてもらい、大いに会を盛り上げてくれた。お世話になってる人の番組のお役に立てるならば、ここは行くしかない。鉄平さんと二人で話すのも面白そうだし。しばらくぶりにスタジオにお邪魔することにしました。しかし、知らないおっさんの話は興味がない問題は、どうしよう。そうだな。誰だよこのおっさん。まあでもなんとなく聞いていたら、少しは役に立つことを言うから許してやるか。リスナーさんにとってそれくらいを目指せばいいのかな。と思って少々ネタを仕込んで臨むことにしました。収録当日、僕はちょっとだけドキドキしていました。スタジオは、僕が19歳のときにアルバイトのADで働き始めてから13年間通った場所。当然、たくさんの思い出がある。どうだろう、久々に行ったら、思い出がぶわっとよみがえるのかな。いや、10年も経てば、きっとがらっと変わっているだろう。隔世の感を感じこそすれ、センチメンタルな気分にはならないかもな。あ、これって、何かと似ているな。そうだ。同窓会に行くときの心持ちだ。年を取った自分と、年を取った仲間が久々に会う。お互いどう思うんだろう。自分は、あいつは、いい年の重ね方をしているだろうか。そんなことを思いながら、フロアのドアを開けました。すると。あら・・・この感じ・・・時を経た元職場は、驚くほど変わっていませんでした。テーブルの配置、CDライブラリーの場所、3つあるスタジオ、打ち合わせスペース。窓から見える景色。ぜんぶいっしょでした。働いている人は当然若い人が多かったですが、もう30年近くいる重鎮もちらほら。「久しぶり。だけど、ナオキがここにいるの、違和感ないねえ!」先輩方にそう言われました。離れてもう14年経っているのに、そんなふうに言ってくださってありがたいなと思いつつ、そういう先輩方は、昔と変わらない感じで仕事をやっていて、ちょっとタイムスリップした気分にもなりました。しかしなんというか、あまりの変わってなさに、やや拍子抜けしましたが、いやいやこれってすごいことなんじゃないかとも思いました。だって、ラジオ産業が、ほとんど姿を変えずにキープしているってことですもんね。それに比べ、僕はあれこれもがいているな。ころころ姿を変えている。ボクモは最初、ワイン居酒屋みたいな感じだったけど、そのバルと呼ばれるようになって、今はニュージーランドワインバー。2年前からは通販もやって、毎日ああでもない、こうでもない、を繰り返している。キープからはほど遠い。と自分では思っている。いや、待てよ。店は同じ場所で維持はしている。シェフも僕もそこで14年変わらず働いている。これって、端から見たら、キープか。そうかもな。久々のラジオ局も、あの頃と変わらないと思ったのは、たかが1時間ぐらいの滞在だったからかもしれない。きっと中ではいろいろ皆さんもがいているんだろうな。たまたま、僕から見えているのがキープしている一面だったということで。考えてみたら同窓会もそうですね。久しぶりに会って乾杯して、元気?変わらないね〜なんて話してても、実際は仕事や家庭でみんないろいろ抱えているわけで。みんなそれぞれのポジションで、なんとか自分をキープしながら生きている。表面的には変わっていないようでも、細胞は入れ替わり、毎日ちょっとずつ変わっている。そうか。考えてみたら、キープを意識すべきは、目に見えるところじゃないのかも。なんていうか、「ずっと大切にしたい思い」。そこを見るべきだったな。次にスタジオにお呼ばれするときがあったら、ガワじゃなくて、人の思いをちゃんと見ないと。僕にとってその思いは、なんだろうか。「面白いと思うことやる」かな。ラジオって面白そう、からラジオ業界に入り、飲食って楽しそう、で飲食をやっている。今回も久々にスタジオに行くのが面白そう、と思ったから行ったんだもんな。そして、実際に収録はとても面白かった。行って良かったです。ちなみに、今回、出演する番組用に仕込んでいったネタは、「マッチングアプリ必勝法」です。ワインバーのマスターがカウンターで悩める男女の話を考察して導き出したやり方です。詳しくはオンエアをお聴きいただけるとありがたいです(後日ポッドキャストでも聴けるみたい)。2023年9月23日(土)23:30~24:30ZIP-FM「Limelight」ナビゲーター:鉄平ゲスト:岩須直紀深夜とは言え、ちょっと危ないところもありました。鉄平さんガッツリ下ネタ言ってたし。あのへんは全部カットだろうなあ。若きディレクターさん、編集頑張ってください。

若いですね

「若いですね」 最近よく言われます。僕が、ではなくて、スタッフが、です。そうなんです。開店から14年。今のボクモは、僕とシェフを除いて、これまででいちばん若いスタッフが働いています。現在のスタッフは4人。4人中20代が2人、10代が2人です。20代はふたりとも社会人で、10代はふたりとも大学生。年長の1人はボクモ歴2年。あとの3人は今年加入しました。しかし、店をはじめたときは、まさか自分の子どもくらいの年齢の人たちと一緒に働くとは思ってもみませんでした。僕がアルバイトでラジオ局のADをはじめたのは19歳。あのとき、今の僕の年齢くらいのプロデューサーとか、とてつもなく遠い世代のおっさんに見えたもんでした。今、働いているうちのスタッフにとっては、僕もそう見えてるんだろうなと思うと、なんだか不思議な気分になります。あのときのおっさんは、僕からしたらギョーカイを隅々まで熟知しているフィクサーに見えました。ところが実際に自分がこの年齢になってみると、とんでもない。まだまだ世の中知らないことだらけです。30を過ぎてから飲食をはじめたので、いまだに経験不足を感じますし、正直まだ迷ってばかりです。若い頃と比べて成長したなと胸を張って言えるのは、ウエストのサイズくらいです。それにしても、最近の若い人、とてもいいです。たまたまボクモに良き人材が来てくれているだけかもしれませんが、今、いっしょにやっているメンバーは、みんな前向きな気持ちを持ち寄って働いてくれています。個性もしっかりある。そして挨拶ができる。ありがたいことです。はたして、若き日の僕がそんなふうに仕事ができていただろうかと思うと甚だ疑問です。「おざーっす」とか言って、スタジオの外でブラックの缶コーヒーとたばこで一服して、いっちょまえの仕事をしてる大人みたいな顔をしていたと思います。ダサい。まあ、でも、そのダサい岩須があって、今の岩須にたどり着いているわけなので、その時代のダサさも今の自分をつくる上で必要だったとも言えるのかもしれませんが。とにかく、ボクモスタッフの若者は素晴らしい。そしてそう思える人たちと一緒に仕事ができてラッキーだなと思います。ラッキーと言えば、ボクモの卒業生からもたらされるラッキーもあります。歴代スタッフの数は20数人くらいになるのですが、その中でも今でもちょくちょく会える人たちが何人かいます。中でも2009年の開店時から手伝ってくれたSさんは、出不精な僕をあちこちに誘ってくれる年上の方。貴重な存在です。最近、店+通販+ラジオの仕事で、頭の中がパンパンになりがちでした。どこかで仕事をなんにも考えない時間をつくりたいなと思っていたところ、「上高地に行こうよ。めちゃくちゃ癒やされるよ。」と誘っていただきまして、今月、長野の上高地にハイキングに行くことになりました。ラッキーです。ちなみに参加メンバーの3人は全員ボクモの元スタッフ。楽しみだなあ。ハイキングなんて何年ぶりだろう。しっかり準備しないと、と思い、今週人生初のアウトドア用シューズを買いました。そしたら妻がひと言。「え?新しい靴で行くの?大丈夫?」あ、そうだ。確かに。履き慣れていない靴で長距離、しかも慣れない山道を歩くのは危ないか。 それに、買った靴、いつも履いている革靴やスニーカーとはだいぶ履き心地が違うもんな。ぴたっとはあわない。こちらから寄せて、慣れていかないと。 よし、これから毎日履いて、体に馴染ませておこう。そう思ったとき、あ、これってあのときに似ている、と気づきました。それは、新しいスタッフが入ったとき。最初はちょっと違和感があっても、徐々に慣れてお互いのことがわかってくると、いい塩梅になっていく、あの感じです。スタッフも、新しい環境は戸惑って当然だし、こちらも新しく入る人がどんな人かは最初はわからない。同じ時間を過ごしていくうちに、「この人ならこう言えばいいな」とか「これが得意そうだから任せてみよう」とか、個別の接し方がわかってくる。スタッフも「この職場ではこうやればいいんだ」という型がわかってくる。そうして、お互い、関係性が体に馴染むわけです。そもそも、最初からうまくぴたっとハマることなんて、ほとんどないです。お互い歩み寄って、馴染んでいくやり方を見つけるのが、うまく進むコツなんだろうな、と。「新人の靴くん、その若さ、いいぞ。こっちも出来る限りあわせていくから、よろしく頼むぞ。」厚めの靴下+中敷きで履き心地を調整をしながら、そんなことを思いました。

僕なりの名古屋土産

僕は生まれも育ちも愛知県。ちょっとだけ東京に住んでいたこともありますが、人生のほとんどは尾張地方で過ごしています。 今思えば、若い頃に他の地方とか海外とか、自分の生まれたところから遠く離れたところに住む経験をしてみたかったな、と悔やむときもあります。 やっぱり同じところにずっといると視野が広がらないというか。あんまり物事を知らないおじさんになってしまったなあ、と思うこともしばしばです。 ただ、カウンターのある店をやっていると、僕の狭めの視野をぐいっと広げてもらえることもあります。 先日は、たまたま金沢出身の方がいらっしゃって、北陸トークで大盛り上がり。 近江町市場、兼六園、金沢城。 のどぐろ、白海老、寒ブリ、セイズファームのワイン。 魅力的なワードが飛び交います。 「冬になると道路の融雪装置のシャワーが出るので、足にかからないように気をつけないといけないんですよ」 「へー!」 「福井では水羊羹は冬に食べるんですよ」 「へー!(まじか)」 あっちに住んでいた方や、仕事でよく行っていた方の話はリアルで面白いです。 またその日は、ボクモがメインの目的で神奈川から名古屋に旅行で来たという奇特な方もいらっしゃいました。 「普段ラム肉を食べたいと思ったら、スーパーのサミットで買います。ちょっと高いけど肉質はかなり良いんですよ。」 「へー!(サミットこっちにないなあ)」 「珊瑚礁のカレー、神奈川では定番です。」 「へー!(食べてみたい)」 名古屋から一歩も出なくても、あちこちの楽しい話が聞ける。なんて役得。ビバ、カウンター。 ちなみに、そういう「ご当地トーク」で良きアシストをしてくれるのがこの本です。 菅原佳己さん著「日本全国地元食図鑑」 水羊羹も珊瑚礁もここに乗っています。カウンターのある飲食店をやっている皆さん必携の本ですぞ。 やっぱりカウンターはいい。知らない文化を教えてくれる人に会えるんだもの。 そう思うのですが、一方で、こうも思います。 せっかく楽しい話を持って来てくださったのに、僕がお礼に渡すべき「名古屋のおもしろ」が足りていないかも。 名古屋で店をはじめて14年。根を下ろすというと大げさですが、まあ、同じところでずっと商売をさせていただいているわけです。 でも、「名古屋と言えば」というお題になったとき、だいたい、味噌煮込み、味噌かつ、あんかけスパ、手羽先、つけて味噌かけて味噌、坂角のゆかりとか、いつも同じ話ばかりしている気がするのです。てか、ぜんぶ食べ物じゃん。 まあ、初めて会った方との話題として食べ物ってのは悪くないと思うんですが、せっかくボクモにNZワインを飲みに、ラムチョップステーキを食べに来てくださっているのに、他の食べ物の話ばかりもどうよ、と思ったり。 「これが名古屋の今です」と胸を張って紹介できるものが、あと5個くらいは欲しいなあ、と思うわけです。 というか、欲しいなあじゃないよ、ですね。ずっと名古屋にいて視野が狭いなんて嘆いてるなら、せめて、狭い中のものを深掘りしておきなさい、ってことですよね。...

独身ワイン会レポート

こないだ、久しぶりにボクモの店内BGMで「蛍の光」をかけました。 あの曲を「店が閉まる合図」と刷り込まれている人は多いと思います。 特にスーパーなどの商業施設では定番の閉店ソングだと思いますが、ボクモのようなワインバーでかけるのは、かなり違和感があります。あまりにも「はやく帰って欲しい」をストレートに表現しすぎですよね。ムードも何もありゃしないので、当然普段はかけることはありません。 が、違和感を顧みず、かけなければいけないときがあったのです。 それは、先日開催した「独身ワイン会」のとき。 「会の終了時間、20時となりました」とマイクでアナウンスしたのですが、まあ、皆さんおしゃべりがぜんぜん止まらない。席を立つ気配ゼロ。 まあね、考えてみれば、知らない人同士の会って、開始から2時間くららいって、ちょうど打ち解けてくるぐらいの時間ですよね。全員の顔に「名残惜しい」と書いてありました。 しかし、これでは一向に閉め作業ができない。 なので、あえて蛍の光を流しました(ちょっとひねって「栗コーダーカルテット」のバージョンにしました)。 そうしたら、「じゃあみんな2軒目いきますよ!」と参加者のひとりが音頭を取ってくれて、だんだん皆さんも腰を上げてくれました。 そう。 蛍の光をかけなければいけないほど、今回の「独身ワイン会」、盛り上がったのです。 予約があっという間に埋まったときから、きっと盛り上がるだろうな、と思っていましたが、予想を上回りました。 コロナ渦中の僕に教えてやりたいです。 「我慢すれば、ちゃんとイベントもできるようなるぞ。そして男女が出会うイベントはしっかりニーズがあって盛り上がるぞ」と。 こんないい感じになるならば、シリーズ化するしかありません。 次は秋。11月3日(祝)にやります。また詳細決まったらお知らせします。ご興味のある方、カレンダーに仮で入れておいてください。 さて、僕としては、次回を開催するにあたって、今回の振り返りをしておく必要があります。 まず、良かった点。 ・男女比、ぼちぼち整ったこと。 ご予約段階で女性の方がかなり多めでしたが、キャンセルもあって、やや女性多めくらいに落ち着きました。 ・半立食にして、途中で移動して交流していただく形式に。 「どかっと座って、気に入った人とずっと喋ってる」だと他の人が入りにくくなります。なので、適度に席が足りないこの形式が正解だったかなと。 ・ワイン、料理、美味しいと言っていただいたこと。 両方ともしっかりと準備しました。久々にビュッフェ用のウォーマー(ホテルにあるようなステンレスのやつ)も使えて良かった。 ・途中で挟んだクイズ大会。 ワインの品種当てクイズをやりました。「そんなのわかんないよ」なんて言いながらも、皆さん真剣に考えていただきました。ヒントを手がかかりに4択から選んでいただく方式にしたら、正解者が6人。ちょうど良い盛り上がりだったかなと。 ・2時間で終了にしたこと。 やっぱり蛍の光を流してよかったと思います。1軒目で盛り上がったら、小グループにわかれて2軒目へ。帰りたい人は帰る。せっかくの初対面の場で、酔いすぎてしまっては台無しです。そのためにも時間制限は必要だなと。  ...

お盆、繋ぐワイン

今月前半、ボクモワインはサマー・セールと題して、全品15%OFFの特売をやりました。 「今年はお盆休みで帰省する人もきっと多いから、そのときに美味しいニュージーランドワインを使ってもらえると良いね」 そんなことを言いながら、スタッフとともに今回のセールの準備をしましたが、おかげさまで、予想を超えるたくさんのご注文を頂きました。ありがとうございました。 どうでしょう。僕らの手元を離れた素敵なワイン達は、皆さんのお盆の団らんのひとときに役に立ったでしょうか。あるいは、ほっと一息の良きパートナーとなったでしょうか。 なったのならば嬉しいなあ。   「お盆のワイン」と言って思い出すのは、まだ僕のばあちゃんが生きているときのこと。 亡くなってしまった今は、すっかり親戚の集まりもなくなってしまいましたが、生前は、お寿司やすき焼き、岐阜の山菜の煮物などをずらっと机に並べ、お盆のひとときを過ごしていました。 10年くらい前かな。僕がソムリエになりたての頃。 お盆の集まりにワインを持っていったところ、親戚一同、とても珍しがってくれました。 普段は最初から最後までずっとビールという叔父さんも、せっかくならとワインを飲んで「やっぱりソムリエが選んだワインは美味しい」とおだててくれました。 小さい頃はよく遊んでもらった叔父さんですが、こちらが大人になると、久しぶりに集まったときに話すような話題はそうそうない。 そんなときに、新しいワインという話題が登場し、ワインのおかげで盛り上がりました。 フランスワインの瓶にはどうしてぶどうの品種が書いていないのか。暖かいところのワインが濃い味になる理由。すき焼きにあうワインは。そんな話をしたことを覚えています。 今思い返しても、ワインってのは人を繋ぐ飲み物なんだなあ、と思います。   うちのばあちゃんは、普段あまりお酒を飲まない人でしたが、孫がソムリエの資格を取ったと聞いて、少しはワインに興味が沸いたようでした。 僕が「ばあちゃん、ちょっとワイン飲む?」と聞くと、「すこしもうらおうかな」と、持っていったロゼワインを口にしました。 「どう?美味しい?」 「美味しい。これなら飲める。」 当時90歳くらいのばあちゃんが、生まれて初めての体験をしているのを見て、ちょっと感動しました。 人生、何歳でも新しいことがある。生きていると、新しいことに出会う。それって素敵なことだなあと。 以来、毎年お盆が来ると、ばあちゃんがロゼワインを飲む姿が思い出されます。そうか、ワインって、あっちとこっちも繋いでくれるんだな。   あ、でもばあちゃん。 「ロゼワインっていうこのピンク色のワインね、もう世界中で流行っているんだけど、日本はまだなんだよ。でも、いずれ流行るから、ばあちゃん、流行の先取りだね。」 あのとき、そう言ったけど、ごめん。まだ日本でロゼ、流行ってないや。なんでだろうな。笑

マッスル問題

マッスルというと、一般的には筋肉(muscle)のことを言うのでしょうが、ニュージーランド界隈では、マッスル=ムール貝です。 綴りはmussel。ニュージーランドでは貝殻が緑っぽい色をしたグリーンマッスルがよく食べられています。普通のムール貝に比べて実が大きく、食べ応えがあります。 ボクモでは「ニュージーランド産マッスルのパン粉焼き」が定番メニューで、たまに白ワイン蒸しもやります。いずれも白ワインがよき相棒となります。 しかし、そのマッスルが、今、僕を悩ませています。 先日、東京で行われたニュージーランドワイン試飲・商談会で、いろいろな会社のブースが出ていたのですが、その中にワイン以外にニュージーランド産マッスルを輸入している商社のブースがありました。 試食したら、これが旨い。潮の風味がしっかりとあり、食べ応えも申し分ない。ぶりんぶりんです。試飲会場が海辺のシーフードレストランになりました。 「現地で特殊な方法で加熱し、それをチルド(冷蔵)で日本に輸送しているんですよ。」と担当者。 この手の輸入食材は基本的に冷凍ばかりなのですが、なんとチルドとな。道理で風味が強いわけだ。 よし、これまで使っているマッスルからこれに乗り換えよう。 そう思って、名古屋に戻り、商社から卸売業者を紹介してもらい、その卸売業者と新規取引のための手続きをしました。 サンプルを1パックいただいたので、さっそくシェフと一緒に味見&新作メニューの試作に取りかかります。 そこで困ったことが起きたのです。 この新しいマッスル、単体だと潮の風味が強くて美味しいのですが、ワインと全然あわないのです。 「ワインによって生臭さが増強されてしまう」という現象を経験したことがある方も多いと思いますが、まさにあれです。 どんぴしゃの相棒であってほしい白ワイン、特にソーヴィニヨン・ブランを飲むと、絶望的に生臭さがアップしてしまうのです。 これはイカンです。 お客さんは、ニュージーランドのシーフードとニュージーランドのソーヴィニョン・ブラン、いいじゃない、現地に行った気分だねえ、なんて合わせてみたら、全然相性がよくない。喧嘩しまくり。これじゃあ困ります。 せっかくいい食材に出会ったのに、残念ながら不採用か・・・ と、ならないのが、ちょっとワインを知ってる岩須くん。 そう。 実は、このワインが生臭さを引き上げてしまう現象は、すでに理由が解明されており、解決方法はあるのです。 生臭さの発生のメカニズムは、この研究の第一人者であるメルシャンによるとこうです。 魚介類に含まれる過酸化脂質が、ワインの中の二価鉄イオンと反応すると、瞬時に脂質の酸化がはじまり、不快な魚臭のする成分である(E,Z)-2,4-ヘプタジエナールが発生する。 ざっくり言えば、鉄分の多いワインと過酸化脂質が多い食べ物をあわせたときに、生臭い成分が一気に増える、という感じです。 貝類は、過酸化脂質を蓄積しやすく、中でもホタテの干物は代表的な過酸化脂質を多く含む食品として知られています。もし、生臭さを体感したい方は、コンビニなどで売っている乾燥ホタテのおつまみで試してみてください。とんでもないことになりますので。 今回のチルドマッスルも、おそらく過酸化脂質をしっかり含んでいると言うことなのでしょう。そして、NZソーヴィニヨン・ブランには鉄分が入っているのだろうと推測できます。 それを踏まえると、解決方法は二つあります。   (1)鉄分があまり含まれていないワインをあわせる (2)マッスルの調理法を工夫する...

汗をかく仕事

毎日、ひどく暑い日が続きます。通勤だけでいっぱい汗をかきます。 消臭スプレー業界はきっと景気が良いんだろうなあ。あと、日傘業界とハンディファン業界、それに首に巻くなんか涼しそうなやつ業界も。 ところで「汗をかく」という言葉。 汗腺から液が出る現象以外にも、「一生懸命に仕事をする」という意味でも使われますよね。 昨日はまさにそのダブルミーニングがぴったりな日でした。実際に汗をかき、比喩的にも大いに汗をかきました。 昨日は、たまたまスタッフ不足の日。 ボクモは基本的に3人で店をまわします。シェフと僕、そしてアルバイトスタッフで仕事を分担する仕組みになっています(ちょっと前は4人のときもありましたが、改装して席を減らしてからこうなりました)。 しかし、昨日はたまたまスタッフの予定があわず、僕とシェフのふたり営業に。 シフトはずいぶん前に決まっているので、人手が足りない日になるというのはわかっていました。でも平日だし、まあ難なくやれるだろうと高をくくっていました。しかし甘かった。予想が外れ、昨日は嬉しい悲鳴デーとなりました。 まず、久しぶりの開店準備から汗をかきました。 いつもはスタッフにやってもらっている開店前のルーティンのあれこれを、久々に自分でやってみると、ああ、ここはもうちょっとこうした方がいいな、という発見がいくつもあって、狭い店内をあっちに行ったり、こっちに行ったり。そしてあっという間にオープン時間に。 オープン直後は、東京からいらっしゃったニュージーランドの製品を輸入している貿易会社の方のお出迎え。コース料理+ワインのペアリングなので、割としっかりとテーブルに張り付く必要があります。そこに、ご予約の方、常連さまがどどどっと入ってきて、一気に忙しくなります。 さらに昨日は、ボクモでアルバイトをやってみたいという大学生が、お父さんといっしょに見学がてらご飯を食べに来てくれました。 話したいこともいっぱい。常連さんとも話したい。コースのケアも必要。ペアリングのワインの提案も必要。新規のお客さんもやってくる。ボトルワインのオーダーに何種類か持っていって提案する。グラスワインの注文が入る。カクテルの注文も入る。わーいわーいてんやわんや。もう、大汗です。 ちょっと落ち着いた頃、「今から7人いける?」のお電話。お席が空いていなかったので、ごめんなさいしちゃったのですが、正直ちょっとほっとしたりもしました。経営者としてはアカンですが。 しかし料理もワインもよく出ました。シェフもいろいろとカバーしてくれてありがたかった。 心地よい疲労感とともに、たくさんのワイングラスを残し、終電に飛び乗りました(こういうときは翌日のスタッフがオープン前にグラスを洗浄することになってます)。 車内で思いました。 たまにはこういうのもやらないとな、と。普段は見守り役っぽい感じのポジションで店にいるけれど、プレーヤーになる日も必要なんだな、と思いました。 車内でLINEを確認すると、なんと。 明日入ることになってるスタッフが、手を怪我したと。洗い物、ちょっと厳しいかも、という連絡が入りました。 はいはーい。わたくし、今日もちょっと早めに入ります。昨日のお客さんの顔を思い出しながら、またせっせと開店準備をやるとします。 今日もいい汗をかきたいぞ。 あ、消臭スプレー、買い足しておこう。

ブレンドについて

「ブレンド」と聞いて何を思い浮かべますか? やっぱりコーヒーでしょうか。 小さい頃、喫茶店で大人が「ブレンドで」と注文しているのを聞いたとき、なんかよくわかんないけど格好いい響きだな、と思っていました。 専門用語でオーダーするというのが、大人っぽいと感じたんだろうと思います。 自分がコーヒーを飲むようになって、ブレンドというのは、異なる産地の豆を組み合わせて、バランスを取った味わいにしているもの、という意味を知りました。 でも、若者に人気のコーヒー屋さんから「うちはシングルオリジン(産地ごとの豆の違いを楽しむタイプ)だけの店なのに、年配の方が来るとだいたいブレンドでっておっしゃるので、そのたびに毎回説明しなきゃならないんですよ。」と聞いてから、なるほど、ブレンドってのは、もしかしたら昔の喫茶店用語になりつつあるのかな、と思ったり。 そういえば、うちの店で「とりあえず生」とおっしゃるのは、ある程度の年齢以上の方が多いです。 そうか。そう考えると、あのコーヒー屋さんとうちは似てるかも。 「ビールは3種類ありまして、そのうち2つはクラフトビールです。サイズは2サイズからお選びいただけます。」と、毎回説明してるもんな。 時代が進むと、どのジャンルも細分化、専門化が進むんだろうと思います。   さて、ブレンド。 ワインの世界ではブレンドというのは大変重要な意味を持ちます。 複数のワインをブレンドして、自分たちの味をつくる。これは伝統国フランスではスタンダードな製法です。 生産者は、A品種のワイン、B品種のワイン、C品種のワインなどの、ぶどうの品種ごとにベースのワインをつくります。 そして、それぞれのベースワインのその年の出来具合を考慮して、ブレンダーが比率を決め、大きなタンクの中でワインをブレンドし、その後で瓶詰をします。 こうすることで、ひとつの品種では得られなかった奥深さが出てきます。それに、ブレンドの比率を調整することで、毎年安定した味になりやすい、というメリットもあります。 逆に、無調整の、ブレンドしないワインもいっぱいあります。ワイン新興国では、この単一品種スタイルを採用している生産者が多いです。 なぜか。ブレンドすると確かに複雑な味にすることができる。でも、世界のワイン好きの間では「この品種は、こんな味」という共通認識があります。 なので、ひとつの品種でやってますよ、という印がラベルにあれば、ワイン好きは「あ、この品種は好きだから買ってみようかな」となるわけです。 フランスのブレンドワインは、ぶどう品種がラベルに表記されていないものが多く、品種を見て選びたい人にとっては難しい。 だから、伝統国じゃない自分たちは、わかりやすく単一の品種でつくり、それをしっかり表示して勝負しますよ、という戦略をとっているワイナリーが多いのです(実際には少しなら他の品種を混ぜてもいいというルールもありますが)。 しかし、その「新興国は単一」という傾向を、また逆手にとる人たちもいます。 いやいや、単一じゃあ面白くないぜ。これまでの常識にとらわれない独自のブレンドを編み出して世界唯一のワインをつくっちゃうよ、という新しい生産者もいます。これも面白い。 ブレンドが当たり前。→ならば、私たちはブレンドしない方で勝負だ。→いいや、俺たちは独自のブレンドをやろう。 ワインのこの流れを見ていると、人間の営みというのは、前時代に対するカウンターによって新しいものが生まれているんだなあ、と感じます。 僕らが扱うニュージーランドワインも、圧倒的にわかりやすい単一品種ワインばかりだったのですが、最近は、そうでないものも出てきています。 先日東京で行われた試飲・商談会でも、こんな「よくわからないけどなんだか雰囲気のある」ラベルのワインが出ていました。 いちばん右のヤツ。なんだかお洒落なシャツの模様みたい。モチーフはなんだろう。葉っぱ?ギター? 使ってる品種はピノ・グリ、リースリング、ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・ノワールって書いてあるぞ。うーん、まったく味の想像ができない。...