一粒で二度美味しい

好きな言葉は「一粒で二度美味しい」。

機内でビーフorチキンと聞かれたら、本音は「どっちも」と言いたい。

「両A面シングル」ってのもいい響き。

どうしても一回の経験でたくさんのお得を求めてしまいがちなのです。

先日も、うどん屋さんで「大盛無料ですよ」と言われて、思わず「じゃあお願いします」と言ってしまい、10分後にしっかり後悔しました。

もうそんなに食べられる年じゃないってわかってるのに。

そんな僕なので、新しく始める趣味「低山登り」についても、どうしても欲張りたいと思ってしまいます。

普通の人にとっての山登りは、「運動」+「登った達成感」で、二つ美味しさがあるのでしょう。

いや、いずれはね。僕もそっち側の人になりたいとは思っているのですよ。ゆくゆくはニュージーランドでトレッキングをやって、いっぱい体を使って絶景を全身で感じたいという野望はあるのです。

でも、まだ今は生まれたてのトレッカー。甘えたい時期なのです。モチベーションをぐんと上げる飴が欲しいのです。だって、現在のわたくしは、筋金入りの運動苦手おじさんなんだももん。

昔はテニスとか草野球とかやっていたのが、自分でも信じられません。今の僕にとって、山登りそのものだけを愛する筋肉なんて、とてもとても備わっていないのです。

だから軟弱な僕が山に向かうには、もっとこう、ウキウキするようなサムシングが必要なのです。

そう、そのサムシングさえあれば、錆び付いた車輪がごろんと動き出しそうな気はしているのです。動いたその先にはニュージーランドの山々があるとわかっているのです。

と思って飴を探していたところ、発見!!しました!

カウンターで「初心者が登るのにちょうど良い山があるよ」と教えて頂いた山のすぐふもとに、それはありました。

みんな大好き、僕も大好き、温泉&岩盤浴!です!

汗をかいたあとのご褒美、こんな魅力的なものがあれば頑張れるに違いない。車輪ごろごろごろごろ・・・

と言うわけで、行ってまいりました。

岐阜県可児市の鳩吹山。そして、登山道入り口のすぐ近くにある湯の華アイランド。

鳩吹山の標高は300メートル。低山です。初心者向けって聞いていたし、ネットで調べてもそう書いてありました。

甘ちゃんな僕でもなんとかなるでしょうと高をくくっていました。

しかし、甘ちゃん岩須、甘過ぎでした。

まず、最初の分岐を間違えました。進んでも進んでも登り坂にならない。山の主のような近所のおじさんが「登りたいならこっちの道じゃないよ」と教えてくれなかったら、僕は山登りすらできずに帰っていたことでしょう。

主おじさん、ありがとう。

「ちょっと急だけど、頑張ってね」と言われて、分岐点まで戻り、いざ登山開始。そして、すぐに気付きました。

ちょっとじゃない!めちゃくちゃ急斜面じゃないかい!

途中、崖のような悪路に垂れ下がったロープをたぐり寄せて登らなきゃいけない場所も。

急すぎる!あと岩だらけで歩きにくい!

最初の休憩所に着いた頃には、すでに汗だくで息も上がり、頭がくらくらしていました。

こりゃあかん。低血糖になったと思い、飴(比喩でなくぶどう味のおいしい飴)をなめて、10分ほど休憩。なんとか息を整えました。

休んでいるうちに、続々と休憩所に人が集まってきます。

75歳を超えているだろうと思われる元気な人生の先輩2人組。

山好きな両親に連れられてきたと思われる小学校低学年の子どもたち。

みんな元気にスニーカーで登っています。すごいなあ。そして、僕、トレッキングシューズでぜいぜい。すごくないなあ。

結局、普通の人なら1時間半で行けるコースを、2時間ちょっとかけて登って下りました。最後は膝が笑っていました。

がくがくと笑う膝を「頑張れ」と励まし、なんとか下山できたのは、やはり両A面のもう1曲のおかげです。

そう、湯の華アイランド♪

ジェット風呂!電気風呂!塩サウナ!岩盤浴!!!

ジェット水流で脚をマッサージして、岩盤浴で汗をいっぱいかいて、めちゃくちゃ気持ちよかった。天国って地上にあったのねと思いました。Heaven is a place on Earth(ベリンダ・カーライル)ですよ。

足の疲れもしっかりとれて、帰りの名鉄広見線ではウトウト。ああ、楽しかった。こんなに充実感を感じた休みの日は久しぶりだなと幸せな気持ちになりました。

ただ問題なのは。

こんな一粒で二度ウルトラ美味しい体験を、初回からしてしまったことです。

次回の低山登りも、最高な温泉がセットじゃなきゃ嫌な、わがままボディになってしまったじゃないか。どうするよ。近場でそんなところ他にないんじゃないの。

まあ、しばらくは飽きるまで、鳩吹山&湯の華アイランドの両A面をこすりますかね。

そうしているうちに山登りだけの魅力がわかってくるかもしれないし。

いや待てよ。もしかしたら山はまあいいや、となって、湯の華アイランドだけに通うようになったりして。

いかんいかん。それはこのトレッキングシューズが可愛そう過ぎる。あくまで1曲目は山。山あっての湯。

本末転倒したら、山の神様に叱られそうな気がするし、ニュージートレッキングなんて夢のまた夢だ。いかんいかん。

そんなことを思いながら、ベランダで土のついたシューズを洗っております。

次はいつ行こう。

この記事の筆者

岩須
岩須 直紀
ニュージーランドワインが好きすぎるソムリエ。
ニュージーランドワインと多国籍料理の店「ボクモ」(名古屋市中区)を経営。ラジオの原稿書きの仕事はかれこれ29年。好きな音楽はRADWIMPSと民族音楽。

一般社団法人日本ソムリエ協会 認定ソムリエ

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