言い得て妙

「寒すぎて、冷凍餃子が耳にくっついている気分になる。」

とある本でこの表現を発見して、腹を抱えた。

わかる!わかります!そして、羨ましい。

こんなぴったりな気分を表す言葉はなかなかない。だって、耳の形は餃子みたいだし、極寒の中では耳がもの凄く冷たくなる。そして、冷凍餃子は今や誰もが知っていて触ったことがあるやつだ。

自分のものじゃない、冷たい耳状の物体がついている。感覚の麻痺具合まで伝わってきて、まさに言い得て妙。

膝を打ちまくりだ。こんな言葉を自分も生み出してみたい。そう思った。

ワインの界隈でも、先日似たような感動があった。それはニュージーランドのワインメーカーの話を聞く機会があったときのこと。

彼はこう言った。「僕らがつくるシラーは、【ダブルショット ピノ・ノワール】だ」と。

膝、連打!!!

マニアでない方に補足しておくと、今、ワイン界隈ではクール・クライメート・シラーというのが流行っていて、いわゆる昔のぼってりこってり濃厚なシラー(シラーズ)ではなく、冷涼な気候のもとでつくられる、エレガントで爽やかなシラーが受けてきているのだ。

そのスタイルは、エレガント界のトップランナーであるピノ・ノワールほどは薄くない。されど、エレガントを持ちながらも濃い。それはピノを2倍濃くしたイメージ。

だからエスプレッソのダブルショット(倍のコーヒー豆を使って入れた濃い味)という比喩を使ったわけだ。

かっこいい!

ダブルショット ピノノワール。これは冷涼シラーの表現の発明だと思う。羨ましいな。到底僕には到底思いつかないワードだ。

きっと、そういう言い得て妙な発明ができる人は、想像力が豊かで、普段から例え癖がついているんだろう。

僕も想像力を鍛えたい。

よし、では練習だ。先週登った東谷山の紅葉。あの感動的な景色をなにかに例えてみるとしよう。

「山頂のモミジは、青空に向かって燃える炎のようだった。」

・・・つまらん。使い古されている。独創性ゼロだ。

では、趣向を変えて、

「その景色はまるで、焼き肉のタレが激しく飛び散った水色のTシャツだった。」

・・・台無しだ。誰も共感できないものになってしまった。きれいな秋の空と紅葉を見て、タレで汚れたシャツくらいしか思いつかないところが恥ずかしい。

引き出しが少なすぎるのだ。ワインばっかり飲んでないで、本を読もう。そうしよう。

この記事の筆者

岩須
岩須 直紀
ニュージーランドワインが好きすぎるソムリエ。
ニュージーランドワインと多国籍料理の店「ボクモ」(名古屋市中区)を経営。ラジオの原稿書きの仕事はかれこれ29年。好きな音楽はRADWIMPSと民族音楽。

一般社団法人日本ソムリエ協会 認定ソムリエ

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ボクモワイン代表 岩須直紀

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