ニュージーランドワインは、ここ30〜40年で飛躍的な成長を遂げ、近年はアメリカやイギリスを中心に世界の国々で人気を集めています。日本でも少しずつ、スーパーなどでも見かける機会が増えてきました。
そんなNZワインの存在を世界に知らしめたワイナリーであり、現在でもトップクラスの高品質なワインをリリースし続けているのが、今回ご紹介する「クラウディ ベイ(Cloudy Bay)」です。
本記事ではNZワインの歴史を変えたと言っても過言ではない、「クラウディ ベイ」について詳しくお伝えします。
クラウディ ベイは、NZワインを語る上で欠かせない、NZを代表するワイナリーのひとつです。
先日、このワイナリーのテクニカルディレクターのお話を聞く機会がありました。その方から伺ったことを交えながらご紹介していきますね。
クラウディ ベイの魅力とは?
NZワインの代名詞とも言える「ソーヴィニヨン・ブラン(Sauvignon Blanc)」は、キリッとした酸やフルーティーな香りと味わいが特徴です。その産地は南島の「マールボロ(Marlborough)」に集中しており、各ワイナリーは差別化をはかるため、様々な個性をもつソーヴィニヨン・ブランをつくり出しています。
中でも「クラウディ ベイ」は、NZのソーヴィニヨン・ブランのお手本とも言えるような王道のスタイルを守り続け、毎年高品質なワインを安定してリリースしています。
この“クラウディ ベイ”という名前は、マールボロ地方の東側にある大きな湾「クラウディ湾」からつけられているんですよ。
クラウディ ベイの代表作であるソーヴィニヨン・ブランは、グレープフルーツやパッションフルーツなどの果実の風味と、カットグラスと呼ばれる“刈られた青草”のような風味が折り重なり、実に爽快でフレッシュな香りと味わいです。
それは、他の国にはない独自の個性を持った白ワインとして、世界中で愛されています。
僕がクラウディ ベイを知ったのは12年前のこと。
一番最初に好きになったNZワイン「グレイワッキ」のオーナーであるケヴィン・ジュッド氏が、実は長年クラウディ ベイの醸造責任者を務めていたことをインポーターさんに教えて頂いたのがきっかけです。
グレイワッキのソーヴィニヨン・ブランもそうですが、このクラウディ ベイも、他の国のワインとは違う、はっきりとした柑橘類のフルーティーさが印象的です。
さらに、酸味やほろ苦さ、余韻などの、味わい全体のバランスの良さには、風格すら感じられます。
クラウディ ベイの歴史
クラウディ ベイは、マールボロにおけるワインづくりの初期(1980年代)に設立されたワイナリーの一つであり、現在ではNZのワイン産業を牽引する存在ですが、実はその誕生のきっかけは、隣国オーストラリアにあります。
それは1983年のこと。マールボロの小規模生産者たちが、自分たちのつくったワインをオーストラリアの有名ワイナリー「ケープ メンテル」のデイヴィッド・ホーネン氏に評価してもらおうと、何種類かのワインを持ち込んだことがきっかけでした。
当時のオーナーで醸造責任者だったホーネン氏は、そのワインの中でも特にソーヴィニヨン・ブランに衝撃を受けます。そして、このワインが持つ素晴らしいポテンシャルを見抜き、すぐさまマールボロへの進出を決断しました。
彼の予想は的中し、1985年に「クラウディ ベイ」名義でリリースしたソーヴィニヨン・ブランは、いきなりイギリス市場で高い評価を得ます。この成功を受け、同年8月、正式にワイナリーを設立したのでした。ワインの世界において、イギリスでの評価はとても重要で、大きな影響力があると言えるのです。
これまでなかったような個性的な味わいは、世界中のワインのプロたちに瞬く間に知られるようになり、クラウディ ベイは「世界が白に目覚めた一本」と称されました。
1990年には、シャンパーニュの大手「ヴーヴ・クリコ」とパートナーシップを結び、一気に国際的な市場へ進出。現在は、「LVMH モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン」傘下のブランドとなっています。
すでに、マールボロは「ぶどうに適した土地はもう残っていない」と言われるほど開墾が進んでいますが、この土地に早く目をつけたクラウディ ベイは、ぶどう栽培に適した土地を1980年代から取得している為、大きなアドバンテージがあります。
そして、マールボロの土地に根ざし、培ってきた栽培や醸造の技術は高く、毎年、安定した品質のワインをつくり続けています。現在、クラウディ ベイのワインは、その品質の高さと安定した供給量を生かし、世界60カ国以上に輸出されています。また、各国の主要都市のレストランでも提供されている為、世界での知名度の高さはNZワインの中でもトップクラスです。
特にアメリカやイギリス、オーストラリアのショップやレストランでは、定番のワインになっています。
まさに「NZの代表選手」的なワインと言えるでしょうね。
ヴィンヤード(ぶどう畑)の特徴
画像引用元:クラウディ ベイ公式サイト
現在、クラウディ ベイの所有するヴィンヤード(ぶどう畑)は、創業の地「マールボロ」のワイラウバレーが中心です。
NZワインの一大産地「マールボロ」についての詳しい解説はこちら
沖積土壌が中心で水はけが良いワイラウバレーは、冷涼ながら日照量が豊富で、ぶどう栽培にはたいへん適した条件を持った場所。クラウディ ベイの広大な畑では、「ソーヴィニヨン・ブラン(白)」「ピノ・ノワール(赤)」、「シャルドネ(白)」、「ペロリュス(スパークリング)」、「テココ(白)」に使用されるぶどうを栽培しています。
また近年では、「セントラル・オタゴ」にも進出し、2つの異なるエリアの畑のピノ・ノワールを栽培しています。これらをブレンドし、品質が高く、長期熟成が可能な赤ワイン「テワヒ」をつくり出しています。
それでは、全部で計6種類リリースされているワインの特徴をみていきましょう。
クラウディ ベイ ソーヴィニヨン・ブラン
まずは、クラウディ ベイのフラグシップワインであり、圧倒的な知名度を誇る「ソーヴィニヨン・ブラン」からご紹介致します。
NZワインをまだ飲んだことがないという人や、クラウディ ベイ未体験の方にも、ぜひ一度は味わって頂きたい銘柄です!
ワイン名 | クラウディベイ ソーヴィニヨン・ブラン (Cloudy Bay Sauvignon Blanc) |
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地域 | マールボロ |
品種 | ソーヴィニヨン・ブラン |
収穫年 | 2020 |
アルコール度数 | 13.5% |
希望小売価格 | 4,257円(税込) |
NZのソーヴィニヨン・ブランの王道を行くような「柑橘のフルーティーさ」「青草やハーブの爽やかさ」を同居させた香りと味わいです。近年は、フルーツ感をやや抑え気味にし、食事に寄り添うスタイルへと進化しているように感じます。
クラウディ ベイのテクニカルディレクター、ジム・ホワイトさんによると、まず、自社の畑で育てたぶどうを区画別に仕込み、90種類ものワインをつくるとのこと。その中で基準を満たしたものだけを選び、それらを慎重にブレンドしてその年の味をつくっているそうです。
自社で使用されるワインは、仕込んだワインの7割程度で、基準を満たさなかった3割程度のワインは、他社に販売されているんだそうです。
醸造ではほとんどがステンレスタンクで仕込まれますが、一部フレンチオーク樽を使用し、味わいに奥行きをつくり出しています。
本来であれば、NZのソーヴィニヨン・ブランは、早いうちに消費することが好ましいとされていますが、クラウディ・ベイのソーヴィニヨン・ブランの場合は、6〜7年熟成させると味わいが発展し、お食事との相性が更に良くなるのでは、とジム・ホワイトさんは提案しています。
また、こちらのソーヴィニヨン・ブランは、2018年に新しく制定された「アペラシオン・マールボロ・ワイン(AMW)」の認証を受けています。
AMWは、サステイナブルな環境など厳しい基準をクリアしたマールボロのソーヴィニヨン・ブランを100%使用したワインに与えられる認証です。
クラウディ ベイ ピノ・ノワール
ワイン名 | クラウディ ベイ ピノ・ノワール (Cloudy Bay Pinot Noir) |
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地域 | マールボロ |
品種 | ピノ・ノワール |
収穫年 | 2019 |
アルコール度数 | 13.5% |
希望小売価格 | 5,038円(税込) |
クラウディ ベイは、マールボロで初めてピノ・ノワールを植樹したワイナリーの一つです。
先程も少し触れましたが、クラウディ ベイのピノ・ノワールの畑はマールボロとセントラル・オタゴの2箇所あります。その2つのエリアでピノ・ノワールをつくることで、クラウディ ベイは産地の違いを表現しようとしています。
こちらの「クラウディ ベイ ピノ・ノワール」では、マールボロで栽培したぶどうが使用されており、ミディアムボディで、ラズベリーなどの赤いフルーツとブラックベリーなどの黒いフルーツの混ざった香りが特徴です。そして、しっかりとした旨味に加え、シナモンやクローブなどのスパイシーさも感じられます。
醸造は、オープントップファーメント(タンクの蓋を開けておく醸造法)で、24〜28日間醸し発酵し、その後11ヶ月間樽熟成を行います。その樽のうち、3分の1はフレンチオークの新樽を使用し、3分の2は古樽で仕込まれます。
このワインは、ブルゴーニュのピノ・ノワールと比べると、やや濃厚な外観と味わいと言えるでしょう。
買ってすぐ飲むのも良いですが、リリース後5〜10年寝かせておいても良いと思います。熟成したワインならではの旨みとシルキーな舌触りが楽しめますよ。
クラウディ ベイ シャルドネ
ワイン名 | クラウディベイ シャルドネ (Cloudy Bay Chardonnay) |
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地域 | マールボロ |
品種 | シャルドネ |
収穫年 | 2019 |
アルコール度数 | 13.5% |
希望小売価格 | 4,367円(税込) |
シャルドネは、世界中で栽培されている順応力の高い人気のぶどう品種で、NZでも国内生産量は第2位となっています。
クラウディ ベイのラインナップの中では、やや陰に隠れがちな銘柄ですが、毎年完成度の高い仕上がりで、ヴィンテージの差もほとんどなく、安定した味わいでリリースし続けています。
シャルドネは、NZのソーヴィニヨン・ブランのように香りや味わいの個性が強いわけではありませんが、おしとやかな味わいで、オールラウンダーであり、料理を打ち負かすことがありません。
こちらのシャルドネは樽発酵で複雑さも加わっていますが、決して押しが強いわけではなく、様々な食事に寄り添う能力が高いワインだと言えます。
野菜から、魚、チキンやポークを使ったお料理まで幅広くマッチすると思います。和食の中では、すこし油分のある料理、例えば天ぷらはとても相性が良いですね。
ペロリュス
ワイン名 | クラウディベイ ペロリュス NV (Cloudy Bay Pelorus) |
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地域 | マールボロ |
品種 | シャルドネ60%、ピノ・ノワール40% |
収穫年 | ノンヴィンテージ |
アルコール度数 | 12.5% |
希望小売価格 | 4,257円(税込) |
ペロリュスは、1997年にリリースされた、本格派のスパークリングワイン。ちなみに「ペロリュス」とは100年ほど前に、クラウディ湾に住み着いていたイルカの愛称です。
クラウディ ベイは前述の通り、フランス・シャンパーニュのメゾン、ヴーヴ・クリコとパートナーシップを結んでおり、このペロリュスにはヴーヴ・クリコがシャンパーニュで培った技術がしっかりと継承されています。
その一つが、シャンパーニュの伝統的な醸造法である
さらに、リザーブワイン(前年までのワイン)を使いながら、毎年安定した味を生み出すという高い技術もシャンパーニュ譲り。ペロリュスに使用されるぶどうのうち70%はその年に収穫されたもので、残り30%はリザーブワインを使用しバランスを整えています。
また、瓶に詰めてからの熟成期間は実に36ヶ月。その後、デゴルジュマン(澱引き作業)をして出荷されています。製法はシャンパーニュと同じですが、味わいはシャンパーニュと比べて、より「フレッシュ感」「果実感」があるのがこのペロリュスの特徴で、やはりそこにはマールボロらしい土地柄が反映されています。
香りは、シャンパーニュにも共通する香りである「ブリオッシュ」の香ばしさがあり、そこに爽やかなレモン、リンゴ、そして、ピノ・ノワール由来のいちごのニュアンスが加わります。
繊細な泡立ちなので、口当たりも実に滑らかです。お祝いや記念日にはぴったりな一本でしょう。
クラウディ ベイのテクニカルディレクター、ジム・ホワイトさんは、日本を訪れる時には、築地のお寿司屋さんに、ペロリュスを持ち込んで、寿司と合わせるのがいちばんの楽しみとおっしゃっていました。
なんとも贅沢な楽しみ方!特に、鯛やヒラメなどの白身魚や海老の寿司との相性は素晴らしいんじゃないかなと思います。
テココ
ワイン名 | クラウディベイ テココ (Cloudy Bay Te Koko) |
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地域 | マールボロ |
品種 | ソーヴィニヨン・ブラン |
収穫年 | 2016 |
アルコール度数 | 13.0% |
希望小売価格 | 7,722円(税込) |
「テ ココ」は、マオリ語で「クラウディ ベイ」という意味。ソーヴィニヨン・ブランの上級キュヴェで、他ではつくれない緻密なソーヴィニヨン・ブランを目指しています。
このテココに使用されるぶどうは、クラウディ ベイの中でも古い畑で育てられ、通常のソーヴィニヨン・ブランよりもさらに厳しい選果が行われています。
また、発酵には野生酵母のみが使用され、熟成にはオーク樽を使用するなど、手間暇をかけて醸造、熟成されています。その為このワインは、通常のNZのソーヴィニヨン・ブランのような元気ハツラツとした印象ではなく、ひと言では言い表せない複合的な香りが感じられるのが特徴です。
レモンなどの柑橘類や、マンゴーなどの亜熱帯フルーツ、そしてジャスミンやレモングラスのようなハーブの香り、さらに、生姜のニュアンスも感じられ、味わいはとても濃厚です。ゆっくりと時間をかけて飲むことができ、さらに何年も瓶の中で熟成ができるようなスタイルに仕上がっています。
NZのソーヴィニヨン・ブランをある程度飲んだ方の、次のステップとしてぴったりなワインです。きっと「こんなソーヴィニヨン・ブランもあるんだ!」と、驚くでしょう。
そんな「テココ」に合わせるのは、魚や鶏肉、豚肉のバターソテーなど、しっかりとしたコクのあるお料理がおすすめです。
テワヒ
ワイン名 | クラウディベイ テワヒ (Cloudy Bay Te Wahi) |
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地域 | セントラル・オタゴ |
品種 | ピノ・ノワール |
収穫年 | 2016 |
アルコール度数 | 13.5% |
希望小売価格 | 11,330円(税込) |
最後にご紹介するのは、クラウディ ベイの本拠地マールボロから南に700km離れた「セントラル・オタゴ」のぶどうをつかったワイン、「テ ワヒ」です。「テ ワヒ」とは、マオリ語で“その場所”という意味。
セントラル・オタゴは、世界でも有数のピノ・ノワールの産地で、フェルトン ロードやギブストン ヴァレー、サトウ ワインズなど国内外で評価の高い生産者が点在しています。
畑は丘陵地帯にあることが多く、マールボロのように機械での収穫ができないので、収穫されるぶどうの数は多くはありません。しかし、NZのワイン産地では唯一、寒暖差が非常に激しい「半大陸性気候」に属することもあり、たいへん上質なピノ・ノワールが育ちます。
「テ ワヒ」には、異なる性格をもつ2つの畑のぶどうが、バランスよくブレンドされています。ひとつは、「カルバート」というシルト土壌の畑。ここで収穫されるぶどうは、上質なタンニンや繊細でソフトなアロマが特徴です。もうひとつは、ローム土壌の「ノースバーン」。ここでは、パワフルでしっかりとした骨格を持つぶどうが収穫されます。もちろん、収穫はすべて手摘みです。
味わいは、マールボロのぶどうを使用してつくられる「クラウディ ベイ ピノ・ノワール」と比べるとこの「テ ワヒ」はさらに濃厚で、ブラックベリーや、ダークベリー、アメリカンチェリーなどの黒系果実が中心。そこにスターアニス、クローヴなど、強いスパイス感も加わっているのが特徴です。
お肉料理や、濃い味わいのお料理と相性が抜群です。
ちなみに、近年、良いコルクが手に入らずスクリューキャップにしていた時期もあったようですが、今はまたコルク栓に戻っているとのことです。
スクリューキャップ使用率が99%を超えるNZワインの中では珍しい存在ですね。
まとめ
今回はNZワインを代表するワイナリー「クラウディ ベイ」をご紹介しました。
世界60カ国以上に輸出されている、クラウディ ベイのワイン。それは、それだけ多くの人に愛されているということの証です。
マールボロのワイナリーの先駆者であり、NZワインの評判を広めた立役者でもあるクラウディ ベイは、現在もその安定した味わいで「NZワインの顔」的存在であり続けています。
生み出す6種類のワインすべてがプレステージクラスですので、ハレの日の食事やプレゼントにも最適ではないでしょうか。
NZワインのお手本のようなワイン、それがクラウディ ベイです。
ワイン初心者の方や、NZワインを飲んだことがないという方にも、ぜひ試して頂きたいです。きっと、NZワインの魅力を体感して頂けると思います