今回はNZワインの比較的新しい動きである「アペラシオン・マールボロ・ワイン(AMW)」という認証制度についてお話しします。 ちょっとディープな話題ですが、できるだけ分かりやすく解説をしてみたいと思います。
はい!頑張ってついていきます!
これは、NZ最大の産地である「マールボロ地方」のワインを保護する目的で新しく2018年に作られた制度。この認証を受けたワインは「マールボロ地方でつくられたぶどうを100%使用している」ことなどが証明されます。
マールボロ地方は豊富な日照量や、1日の中の寒暖差、土壌のタイプなどワイン用ぶどうを栽培するのに適した条件が揃う地域です。NZワインの7割以上はマールボロ地方で生産されており、収穫されるワイン用ぶどうの総量は、年間約34万トンにもなります。(2020年)
日本全体のワイン用ぶどうの収穫量が年間約2万トンなので、いかに大きな産地であるかが分かりますね!
そんなマールボロ地方で生産されるワインの中でも、とりわけ注目されているのが白ワイン用ぶどう品種の「ソーヴィニヨン・ブラン」。
マールボロ地方のソーヴィニヨン・ブランは、フランスなど他の産地のものと比べて“フルーティーでフレッシュ”であり、そのユニークな香りや味わいはマールボロでしか出せない個性であると考えられています。生産量も圧倒的で、NZ国内の7割以上をソーヴィニヨン・ブランが占めています。
もはやNZワインの代名詞のような「マールボロ地方のソーヴィニヨン・ブラン」ですが、急成長する市場の傍らで、その品質を保護する明確なルールが整っていないことが課題としてありました。そんな“品質がまちまちである”という状況を打壊すべく出来たのが「アペラシオン・マールボロ」だったのです。
では、その内容を詳しくみていきましょう。
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なっちゃん
Web系の会社に勤める29歳。もっとワインを楽しめるといいな、とワイン勉強中。
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岩須
このサイトの監修を担当する、ソムリエ。自身が名古屋で営むバーでは、ニュージーランドワインを豊富に取り揃える。
アペラシオン・マールボロとは?
「アペラシオン・マールボロ」のポイントを簡単にまとめてみます!
- マールボロ地方のワインを守るための認証制度(商標)
- 現在ある「GI(地理的表示)」よりも、厳格な基準が定められている
- 大量生産品と“手作りワイン”を区別する目的でつくられた
▶Appellation Marlborough Wine公式サイト
あのー、本題に入る前に1つ質問してもいいですか…?「アペラシオン」ってたまに聞くんですが、どういう意味なんでしょうか?
「アペラシオン」とはフランスなどで使われている「原産地を示す呼称」です。
農作物やチーズ、ワインなどが、間違いなくその土地で生産され、厳しいルールを守りつくられた優良品であることを証明する為のものなんですよ。
「アペラシオン・マールボロ」も、これにちなんで付けられた名前というわけです。
「A.O.P(原産地特定認可呼称)」という制度があり、ワインは地域や畑、ワイナリーごとにランク付けがされるなど厳格に管理されています。 このA.O.Pによって、現地の優良なワインが守られているのです。そして、専門知識を持たない一般の消費者にとっても、ラベルに記されているA.O.Pという表示を参考にして良質なワインを安心して購入することができるというメリットがあります。
一方、NZでは恵まれた気候と土壌のもとでつくられるワインの人気が年々高まっていますが、ここ40年ほどで急成長したという背景もあり、ワインに関するルールがまだきちんと整っていません。
2017年にはGI(地理的表示)という制度もスタートしましたが、その内容はややざっくりしたものでした。例えば、マールボロ地方を産地として表記したい場合「GI」では
ということになっています。つまりルールに従えば、他の産地のぶどうをブレンドをすることが認められているのです。また「GI」ではその他の栽培方法に関するルールも無いに等しい状況です。
これまで、NZではワイナリーの多くは家族経営の小規模生産者ばかりだったので、他の地域から仕入れたぶどう混ぜることはほとんどありませんでした。しかし、ワイン産業が盛んになるにつれ効率化を優先して、他の産地のぶどうを混ぜてワインをつくる大規模なワイナリーも現れました。
そうすると、結果的にマールボロの個性が100%発揮されていないワインも出てきます。しかし、GIのルールでは規定さえ満たせば「マールボロ産」と表記できるのです。
「GI」というややゆるい制度だけでは、品質の高いマールボロ産のワインとそうでないものが混在し、その違いが分かりにくくなっていました。
そんな状況の中で「マールボロ地方」という土地にこだわる、“手作りの本格派”の生産者達はジレンマを抱えていました。自分達のつくるワインが「混ぜものが入っている廉価版ワインではなく、真のマールボロのワイン」であることを証明できる制度が必要だったのです。
例えば日本を例に挙げると、山梨県産ワインの証である「GI Yamanashi」という認証制度は、100%山梨県産のぶどうを使っていないと取得することができません。もしこれが仮に、他の県のぶどうを15%までなら混ぜても良い制度だとしたら、真面目に100%山梨県産ぶどうでやっているワイナリーは、違和感を感じてしまうでしょう。
「アペラシオン・マールボロ」もそれと同じです。こだわりを持つ生産者たちが、差別化をはかりたいと声を上げたのは、ある意味自然な流れだと言えるかもしれないですね。
なるほど〜。認証が出来たことによって、その違いが分かりやすくなったんですね!
アペラシオン・マールボロの目印
実際のワインボトルに印字されている「アペラシオン・マールボロ・ワイン(AMW)」のマークはこちらです。
マークは表ラベルではなく、裏ラベルに表示されていることが多いと思います。
アペラシオン・マールボロのぶどう品種と認定済みワイン
次はアペラシオン・マールボロで認められているぶどう品種と、認証済みのワインについてです。
- 品種はソーヴィニヨン・ブランのみ
- 既に100以上のワインが認められている(※2020年8月現在)
現在、アペラシオン・マールボロで認められているぶどう品種は「ソーヴィニヨン・ブラン」のみです。つまり、マールボロ地方で栽培が盛んな他の品種「ピノ・ノワール」や「シャルドネ」などは対象外ということになります。品種の追加も検討されているようですが2018年にはじまったばかりの制度なので、まずはNZワインを代表するソーヴィニヨン・ブランをブランド化し、定着させたいという目的があるようです。
現在、アペラシオン・マールボロで認められているワインは100以上。2018年以降のワインに対してヴィンテージ(ぶどうの収穫年)毎に認証がつくので、同じ名称のワインであってもヴィンテージによっては認証がついていない場合もあります。
詳しくは下記リンクより、ワイン一覧をチェックをしてみて下さい。
ちなみにワイン一覧には、2020ヴィンテージで認証されている銘柄はまだそれほど多くありません。おそらく新型コロナウイルスの影響などで、認証に時間がかかっているのではと推察します。
アペラシオン・マールボロの認定条件
ここで改めて、アペラシオン・マールボロの認定条件を見てみましょう。
- マールボロで育ったぶどうを100%使用すること
- ニュージーランド国内で、ボトリング(瓶詰め作業)がされていること
- サステイナブル認証を受けた畑で育てられたぶどうを使用すること
- ぶどうの作付の条件が守られていること(低収量)
国内で瓶詰めされるって、当たり前ではないんですか?
意外にそうでもないんです。大量生産を行う会社では、輸送コストなどを抑えるために「バルク」という大型のタンクを使ってワインを運び、輸出先の工場などで瓶詰めされることも多いのです。
決して「バルクワイン」=品質が良くない。という意味ではありませんが、ボトリング(瓶詰め)も大切な作業の一つなので、アペラシオン・マールボロではワイナリーが最後まで責任をもって瓶詰めまで行う、ということが定められています。
そして、「サステイナブル認証」を受けた畑で育てられたぶどうを使ってつくられたワインであることも条件の1つです。 それはNZ独自の「サステイナブル・ワイングロース・ニュージーランド」(Sustainable Winegrowing New Zealand【SWNZ】)という認証のこと。厳しい環境保護に対するガイドラインの基準を満たした場合に、その認証が与えられます。
このように環境保全に関する条件があるのは、とってもNZらしいです。この認証ではぶどうやワインの質だけでなく、人や環境に優しい商品であることが証明されているというわけですね。
いかにNZが、環境に対する意識が高いが分かりますね!
アペラシオン・マールボロ加盟ワイナリーの紹介
最後にアペラシオン・マールボロの加盟ワイナリーを一覧でご紹介します。2018年の設立当初は36社でしたが、現在51社がメンバーとなっています。 (A→Z順)- Allan Scott(アラン スコット)
- Ant Moore(アント ムーア)
- Astrolabe Wines(アストロラーベ ワインズ)
- Auntsfield Estate(アンツフィールド エステート)
- Awatere River(アワテレ リバー)
- Babich Wines(バビッチ ワインズ)
- Barker's Marque Wines(バーカーズ マーク ワインズ)
- Bladen Wines(ブレイデン ワインズ)
- Blank Canvas(ブランク キャンヴァス)
- Catalina Sounds(カタリナ サウンズ )
- Caythorpe Family Estate(ケイソープ ファミリー エステイト)
- Churton(チャートン)
- Clos Henri(クロ アンリ)
- Clos Marguerite(クロ マルグリッド)
- Cloudy Bay(クラウディ ベイ)
- Dog Point(ドッグ ポイント)
- Eva Pemper Wines(エヴァ パンパー ワインズ)
- Forrest Wines(フォレスト ワインズ)
- Framingham Wines( フラミンガム ワインズ )
- Georges Michel Wine Estate(ジョージズ ミッシェル ワイン エステイト)※現在、リンク切れ
- Greywacke(グレイワッキ)
- Huia Vineyards(フイア ヴィンヤーズ)
- Hunter's Wines(ハンターズ ワイン)
- Indevin(インデヴィン)
- Isabel Estate Vineyard(イザベル エステート ヴィンヤード)
- Jacksone Estate(ジャクソン エステート)
- Jules Taylor Wines(ジュールズ テイラー ワイン)
- Lawson's Dry Hills(ローソンズ ドライ ヒルズ)
- Loveblock(ラブブロック)
- Mahi(マヒ)
- Marisco Vineyards(マリスコ ヴィンヤーズ)
- Mount Riley Wines(マウント ライリー ワインズ)
- Nautilus Estate(ノーティラス エステート)
- Otu Wine(オートゥ ワイン)
- Picton Bay(ピクトン ベイ) ※公式サイトなし
- Rapaura Springs Wines(ラパウラ・スプリングス ワインズ)
- Riverby Estate(リヴァビー エステート)
- Spy Valley Wines(スパイ ヴァレー ワインズ)
- Starborough Wines(スターボロー ワインズ)
- Staete Landt(スタート ラント)
- Sugar Loaf Wines(シュガー ローフ ワインズ)
- Tinpot Hut Wines(ティンポット ハット ワインズ)
- Toi Toi(トイトイ)
- Tupari Wines(チュパリ ワインズ)
- Two Rivers(トゥー リバーズ)
- Villa Maria(ヴィラ マリア)
- Wairau River Wines(ワイラウ リバー ワインズ)
- Walnut Block Wines(ウォールナット ブロック ワインズ)
- Whitehaven Wines(ホワイトヘイヴン ワインズ)
- Yealands Estate(イーランズ エステート)
- Zephyr(ゼファー)
まとめ
今回は新しくNZで生まれたワインの認証制度「アペラシオン・マールボロ」についてお届けしました。
マールボロ地方はNZを代表するワインの巨大産地です。恵まれた気候や土壌の条件はもとより、高い技術と情熱を持つ生産者達のつくるワインは間違いなく、NZの名産品であると言えます。
そのマールボロのワインを保護する目的で誕生した「アペラシオン・マールボロ」の制度は、NZワインの更なる向上を支える取り組みだと言えます。その認証要件の中に、環境保護についての規定もしっかり入っているのが、さすが環境先進国と言われるニュージーランド。各国のワイン業界が見習うべき点もあるように思います。
今後は、この「アペラシオン・マールボロ・ワイン」のAMWマークをワイン市場で定着させるために、イベントやキャンペーンなどの取り組みが行われそうな気がします。
もしかすると、NZワイン全体の「ブランディングの要」になるかもしれないこの取り組み、今後も注目していきたいと思います。