書く仕事と収益バランス、そしてワイン|特別企画 bar bossa林伸次さん〜後編

奥渋谷の静かな路地裏に佇む、一軒のワインバー「Bar Bossa(バール ボッサ)」。

オーナーの林伸次さんはお店に立つ傍ら、著述業でも活躍する人物です。

webメディアでは複数の連載を持ち、書籍も数多く出版。

そしてその発信力は、bar bossaの経営に大いに役立っています。

バーのマスターならではの観察力を生かした、ユニークな切り口で綴るコラムや恋愛相談は多くの人を惹き付け、大変注目されています。

林伸次|PROFILE

1969年徳島県生まれ。渋谷のワインバー「bar bossa」店主。中古レコード店、ブラジル料理店、ショット・バーで働いた後、1997年「bar bossa」をオープン。
バーを経営する傍ら、著作家としても活躍。cakesで歴代閲覧数No.1の連載「ワイングラスの向こう側」や、note「bar bossa林伸次の毎日更新日記と表では書けない話」、LEON「美人はスーパーカーである」などで多数の連載を持つ。
主な著書に「恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。(幻冬舎)」や「バーのマスターはなぜネクタイをしているのか?」など。

Twitter: @bar_bossa

この記事は、当サイトの運営・監修を勤めるソムリエ岩須と林さんの、対談形式のインタビュー。

前編では林さんの新刊「なぜ、あの飲食店にお客が集まるのか」について、そして飲食店経営について伺いました。

 街とお店、その経営|特別企画 bar bossa林伸次さん〜前編

後編は、「書く仕事」と飲食店との収益バランス、ワインについても触れていきます。

この記事の取材は新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言前の2020年2月6日に行ったものです。

書く仕事とお店の収益バランス

なぜ、あの飲食店にお客が集まるのか

岩須:ここからは林さんの「書く方の仕事」についてお聞きしたいんですけど、どういう経緯で始まって、今どういうバランスでやってらっしゃるのか教えてもらえますか?

林さん:はい。「どういう経緯」ってのはよく話すんですけど、「どういうバランスで」というのは多分初めて話します。ウチはオープンしてずっと、こう言うと偉そうですけど、忙しかったんです。たまたまワインブームにハマったのと、「隠れ家ブーム」があって。当時はこのあたり、何もなくて、真っ暗で「隠れ家」っぽかったんですね。雑誌で「隠れ家特集」が組まれると必ず出てました。あと、ちょうどボサノヴァも流行ったんです。こんな風に、ウチが持ってる要素が全部流行って。飲食店は、フックが多ければ多いほど当たる。引っかかるんですね。例えば「あそこ、メロンパンが美味しいよ」だけだとみんな行かないけど、メロンパンが美味しくて、そこに綺麗なソムリエールがいて、それなのに実は安くて、みたいに条件が多ければ多いほどお客さんが来るんです。

岩須:雑誌の切り口になるような条件ですよね。

林さん:はい。メディアが取り上げやすいものが多ければ多いほど良い。ウチはすごく運よくそれらがハマって、ずっと忙しかったんです。でもリーマンショックの時に、ガツッと駄目になって。当時、ある会社の領収書を、ほぼ毎日書いてたんですよね。すごくありがたかったんです。でも、リーマンショックでその会社の領収書が切れなくなっちゃったらしくて。他にも、音楽のバーだったんで音楽関係のお客さんがすごく多かったんですけど、ご存知のようにCDが売れなくなってしまって、今はもう音楽関係は1社しか領収書を書かないんです。

岩須:ああ、○○○○○(会社名)ですね(笑)

林さん:そうですね(笑)さすが業界人(笑)それですごく売り上げが落ちて、どうしようかなって思ってた時に、3.11が来て。当時はタバコ吸いながら朝まで営業するのがおしゃれと言うか、それが多分この辺の普通のことで、ウチも朝4時までやってたんです。例えば午前2時に仕事を終えて、2時半にシラフでいらっしゃって、そこから1万円のボトル開ける人たちがいっぱいいたんですよ。そんな夜中に「シャンパンいきましょうか!」っていう世界で。それが3.11でなくなっちゃったんです。当然売上がすごく落ちて、その時周りの友達もガンガンお店閉めだして。

barbossa林さん

林さん:そんな時、ちょうどFacebookが店舗のページを作れるようになったんです。お客さんから「あれやった方がいいですよ」って言ってもらって。実は、それまでネットでレコードを売ってたものの、SNSはそんなにやってなかったんですね。でも背に腹は変えられないと思って始めました。とは言っても書けるのはワインの話と、レコードの話だけ。何を書いても全然いいねがつかないし、全然フォロワーつかないし、ほんとダメで。でもそれをやめて「飲食店をやっていて困った話」とか、「こうやったら儲かる」とか、あと恋愛の話を書いたら、「いいね」がバーッてついて、フォロワーがどんどんどんどん増えていったんです。

岩須:それって何かきっかけがあると思うんですけど、どこかで誰かにシェアしてもらったとかありますか?

林さん:一番大きいのは、加藤さんですね。cakesとかnoteの会社(株式会社ピースオブケイク)の社長の、加藤貞顕さんていう人がいるんですけど、ウチの十数年前からの常連さんなんです。加藤さん、すごくワインが好きで。有名な方だから「ほら、あの人が「もしドラ」の…」ってみんな言ってて。でも僕は全然喋ったことなかった(笑)加藤さん、多分Twitterでフォローしてくださってて、シェアしてくれたのが始まりだったと思います。そんな事もあってフォロワーが増えてきて、ある会社から「本出さないか」って言われたんですよね。と同時期に、ある日突然加藤さんからも「cakesで書きません?」って。まだ全然話したことないのに(笑)僕は「えーーーー、あんなプロ集団が書いてるのに大丈夫ですか?」って言ったんですけど、「いやいや、大丈夫です。書きましょう」って言ってくださって。そういうのがきっかけで、どんどんフォロワーやいいねが増えていったんです。

岩須:cakesは報酬が発生しているんですか?

林さん:はい、PVに応じて報酬が発生しますね。完全に成果報酬で。だからもうその時はcakesに賭けてて。当時売上がすごく少なかったんで、何とかPVを稼ごうと思って研究したんですね。どうやったら読んでくれるんだろうって。それがさっきおっしゃってた「お客さんのニーズに合わせる」ということで、そこで初めて知ったんですよ(笑)それまでは小説を書きたい文学青年のつもりだったんですけど、読む人は不倫の話や口説き方の話を求めるんだ、って(笑)そういうのを試行錯誤して、お店のお客さんにも「浮気ってしてますか?」「どうやって口説いてるんですか?」「この話書いていいですか?」って聞いて、いいよって言っていただいて、書いてます(笑)だから、「PVを稼ぐ」っていう発想がなければ、ああいう話は書かなかったですね。

岩須:そうか、単純に原稿料だったら、今みたいになってないかもしれないんですね!

林さん:そうです、そうです。あとやっぱり、3.11が来なかったらやってなかったでしょうね。本当は音楽ライターと、小説の二本立てにしたかったんですよね。音楽ライターも、実は一時期すごく忙しかったんです。 CDのライナー書いたり選曲したり、イベントには必ず呼ばれたりとか。音楽のボサノヴァ特集があったら必ず発注があったんですけど、ご存知のようにCDが売れなくなって、音楽雑誌がどんどんなくなって、という状況もあって本当にちょうど、っていう感じですね。

岩須:Facebookやcakesで書かれるようになって、お店の業績は戻りましたか?

林さん:お店の業績はFacebookやりだしてちょっとずつ、ちょっとずつ戻りました。あとcakesと、その時一冊目の本を出して、それでお客さんやっと増えて。「ああ、よかったな」って。もうお店やめようかなって冗談抜きで思ってたんですよね。どうしようもなかったから、一時期ランチやったりもしてたんです。

岩須:言える範囲でいいんですけど、書く方とお店、収入のバランスは今どんな感じですか。それと、それぞれの時間配分も教えて下さい。あと…魂ですね(笑)魂のバランスってどんな感じですか?

林さん:魂…(笑)本当にお店は今でも毎日辞めようと思ってるんですけど、 今…どのくらいだったかな…えーっと…。書く方が6で…、お店の方が4ぐらいですね。

岩須:すごい。超えちゃってるんですね!

林さん:正直に言うと、時間がなくて断ってる仕事があるんですね。書く方で。本当は断らずに、書く方に集中したいんです。ノンフィクションとかインタビューしてルポみたいなものもやりたいんです。でもお店があるとそんな時間なくて考えられないから、お店を辞めてしまいたい。ずっとそうしたいなって思ってるんですけど、それ言うたびに全員が「絶対お店辞めない方がいい」って(笑)奥さんも含めて、全員(笑)みんなが「お前村上春樹じゃないから」って(笑)

岩須:(笑)

お店があるからこそ生まれる機会

林さん:それとやっぱり思うのは、今日みたいな感じで「お店」という取材場所があると、みなさんが使いやすいんですよね。例えばこの取材をホテルですると、お金もかかってくるし、この話もなかったと思います。もちろん自分の家でやるのも嫌ですし(笑)場所があるからこそいろんな話ができていて、例えばレオンで「美人インタビュー」というのをやってるんですけど、それもここがあるから可能で。あと岩須さんも昨日、お客さんでいらしてくださいましたけど、そうすると取材の前にすごく打ち解けられますよね。多少なりとも酔ってる状態なので、それがすごくいいきっかけになる。例えばこれが、喫茶店で「はじめまして」ってしてたら、いきなり打ち解けられないと思うんです。お酒の力がマジックになってくれて「なんか林さんいい人だね」って勝手に思ってくれるんです(笑)それがあるから、お店、続けようかなって思っています(笑)

barbossa林さん2

岩須さんも感じてるかもしれないんですけど、ウチってすごく古いお店で、もうトレンドキャッチできてないんですよね。ただ、3.11の時もリーマンショックの時も、トレンドについて考えました。若いシェフを入れて、今っぽい木のお皿とか石のお皿でお料理をザクザク出して、ほぼビオワインにしたほうが、お客さんが入るのかな、とか。例えばこの本に出てる「オルガン」の紺野さん。僕、この方大好きなんですけど、彼すごくいろんなところに行ってるんですよね。ニューヨークやフランスにも行ってるんです。そうして新しい事をキャッチアップしたほうが当然いいって思うんですけど、もうなんか無理で(笑)もちろんこんな店じゃよくないなとは思ってるんですけど(笑)

岩須:でも大概、一人でやってるとそうなりますよね。

林さん:なります、なります。一人でやってると絶対、なります。そこでほとんどの人がそこで1回閉めますよね。あるいは、思い切り気持ちを変えて改装するかのどちらか。この本にも出てくる「かしわビストロ バンバン」をやってる高城さんといいう方がいて、その方曰く「お店の寿命、6年だから」って。

岩須:この方は2年〜3年で回収するっておっしゃってますよね。

林さん:ええ、確かに僕もそう思います。

岩須:特に東京は本当にその辺にシビアでしょうね。

林さん:そう、この本にも書いてありましたけど、東京があまりにもシビアすぎて。「まだあのスタイルでやってるの?」ってすぐに言い出すからもう嫌になって、高城さんは福岡に行っちゃいました。ビオとかも「まだビオなの?」って。今は完全に流れが日本ワインと日本酒ですし。

岩須:僕ら地方都市でやってると、そういったトレンドがあまり分からないんですよね。地方の人でも、もっと東京にいっぱい来てる人は常に情報をキャッチして、持ち帰って応用できそうなことを考えてるんでしょうけど。ただ、ビオワインを名古屋に持ってきても、お客さんが無反応だったりするんですよね。

林さん:わかります。難しいですよね。

メディアの収益とお店の営業日数

岩須:ちなみに、noteは儲かってるんですか?

林さん:えーとですね、そうなんですよね…(笑)って言うとあれなんですけど…(笑)これは数字は…言っても…。

岩須:あ、具体的な数字はマズイですよね

林さん:そうですね(笑)ご存知のように300円でマガジンをやってて、ありがたいことに割とたくさんの方に読んでいただけています。でも、なぜか購読者が毎月10%減るんですよね。その10%っていうのは有名な数字らしらしくて。はじめは落ち込んでたんですね。なんで10人に1人辞めるんだろうって。なんか変なこと書いちゃったかなって。

barbossa林さんとボクモ岩須さん

林さん:でも、ああいうサブスクの「離脱率10%」っていうのは普通らしいです。社長の加藤さんに「10%なくなるんですよね…」って言ったら「いや、ノートの中ではそれ少ない方っすよ、気にしなくていいですよ」って言っていただいて。だから多分、僕のマガジンを仮に100円にしても変わらないと思います。無料にしてた時は、どんなこと書いても毎日7,000人が読んでくれたんですね。本当につまんない音楽の話書いても。でもその7,000人も、有料になるとやっぱりかなり減っちゃいますね。でも本当に離脱率が多いものだと、1年経って最初の会員は一人もいなくなってるっていうものらしいです。だから「離脱率低いと思いますよ」って。今も購読者が増えることもあるんですけど、それでもちょっとずつちょっとずつ、やっぱり減るんです。今はそのあたりが限界なのかなって思っています。

岩須:でも、収益的にはそこそこ、いい柱にはなってますよね?

林さん:そうですね。おかげさまで助かってます。あと僕、レオンの「美人インタビュー」もcakesと同じく、PV数でお金もらえるんです。これ、すごく読まれる時があって結構良いお金が入ってくるので、割と大きいです。記事の内容はほんと下世話なんですけど、僕もすごく好きでやってるんです(笑)

岩須:出てくる女性って皆さんほんとに美人なんですか?

林さん:これみんな聞くんですよね(笑)特に男性よりも女性が全員(笑)ちなみに、みなさん本当に美人ですよ。書く方の収入はこんな感じと、あとは印税ですね。

岩須:僕も書く仕事はやってるんですけど、正直羨ましいです。僕の場合はラジオの原稿だから、なかなかお店の仕事とリンクできなくて。もちろん自分でネタを探すんですけど、結局は発注された仕事で。たまに僕が書いた原稿をラジオでチェックしてくれる人もいて「あれはどうだった」って感想を下さる方もいますが、まあ稀で。自分の才能をミックスさせて、林さんにしかできないオリジナルのあり方を作ったっていうのは、本当にすごいなーって思います。書く仕事と飲食店の仕事が、相互に補完しあってるなって。林さんは、これからもう少し書く時間を増やすために、バーの営業日数を調整する可能性はありますか?

林さん:実は僕、営業日数を減らそうと思ってます。ただその前に何回も、人を雇うことを考えたことがあるんですね。例えば、僕はチラッとしか出なくて、かわいい女の子の2人組に立ってもらうとか。でも、これを色んな人に「どう思います?」って言うと「いやそんな店いくらでもあるし…」って(笑)

岩須:いや、東京だといくらでもあるかもしれないけど、地方いくと「いいなぁ」ってなりますよね(笑)ただ僕のお店でも、僕がお店にいないと来ていただけないお客様はいらっしゃいますね。

林さん:そうなんですよ。僕が明日から出ないって言ったらみんな「せーの」でこなくなると思うんです(笑)「僕がいないとダメ」っていう店にしてしまった僕が悪いんですけどね(笑)

岩須:じゃあもう営業日を減らすしかないですね。

林さん:あと、移転も考えたんです。すごく安い家賃の店で、例えば月に10日ぐらいしかやってないとか。 会員制だったり、今流行りのサブスクだったり。

岩須:でも今の、全然知らない、意図しないお客さんが来るっていう刺激もありますよね?

林さん:そうなんですよ。僕もそれを思って。結局それが一番面白いんですよね。もちろんストレスでもあるんですけど、書くエネルギーにもなるし。

岩須:ですよね。僕もそうなんです。この刺激は飲食店でしか味わえないかも知れない。

林さん:岩須さんは、インターネットで書いたりとかは思わないんですか?

岩須:このサイトを運営してますが、日々の糧を稼ぐためではなく、僕の大好きなNZワインを少しでも広めたい、と思ってやっていて。もちろんこれから利益をだしていかないといけないんですけど、まだそんな段階ではないんですよね。それと、19歳からラジオの原稿書いてて、人に頼まれた文を書く癖がついてて、自分がないんです(笑)

林さん:それ、プロのライターの方がよく言いますね。僕が「noteとかでちょっと売ったりとか、どうですか?」って言っても、「発注されずに1から書くのは、何を書いたらいいのかわからない。林さん発注してよ。」って(笑)

岩須:今「書く仕事」でお金になっている仕事として、Nack 5bayFMニッポン放送の番組で書いてるんです。そのNack5の番組が物語形式で、毎回ゼロからなんですよ。バーのマスターが主人公で、訪れるお客さんがどうのこうのっていうお話を書いてるんですけど、ほんとに書けなくて(笑)

林さん:でもそれって、何度も何度もやってるとパターン的に「こうすればいいのか」ってわかってきますよね?

岩須:そうですね。ただその仕事は月に1本で、ちょっと筋トレが足りないのかもしれない。

林さん:noteやりましょう(笑)

岩須:でもnoteって、その人の顔が見えるような原稿じゃないとだめじゃないですか。

林さん:そうですね。見えれば見えるほど。全部明らかにして、具体的に書けば書くほどいいですね。恥ずかしいところなんかも全部。でも、noteのマガジンって金額を変えられないのがポイントなんですよ。僕も初めすごく悩んで。「人気が出たから値段をあげる」っていうのを抑制してるんです。

岩須:なるほど。でもこうして直接お話を伺うと、どういう気持ちでやってらっしゃるのか分かるし、ちょっと林さんの背中を見て頑張りたいと思います。

林さん:ありがとうございます(笑)

フランスワインのメリット

岩須:次は、ワインについて聞かせてください。bossaはヨーロッパが中心ですよね。

林さん:98%、フランスです。実はワインは、ウチの妻が選んでるんです。以前妻と二人で「アカデミー・デュ・ヴァン」に通って、妻は資格を取ったんですけど、僕は途中で「こんなの覚えられない」と思って諦めたんですね(笑)その時はワインのお店にしようと思ってなかったので。以前バーで修行してたから、カクテル作れるんです。でも例えば女の子って、4人で来たら4つ違うカクテルを頼むんですよ。それをひとつずつシャカシャカシャカってやって。でも日本人って揃ってから乾杯するから、一人目のカクテルが温(ぬる)くなっちゃうんですね。で、これ駄目だなと思ったんですよね。バーテンが2〜3人いたら、全員でシャカシャカシャカってやればいいんですけど、僕一人のお店なので。

barbossa林さん3

林さん:それで、妻がすごくワイン好きだったのもあって、途中からワイン中心の店に変えたんです。ちょうどワインブームが来る直前で、タイミングも良かったですね。フランスを中心にしている理由は、僕も妻もフランスが好きなのがひとつ。あとはフランスワインで通した方が、単価をキープしやすいというのが一番の理由ですね。開店当初、ちょうどチリの安いワインが流行ったんですけど、フランスは高いっていうイメージがあるので、そのまま続けています。

岩須:確かにフランスで安ワインはないっていうイメージ、未だにありますよね。

林さん:勝手に思ってくれてるって言いますか。今でこそカリフォルニアが高いとかみんな知ってますけど、当時は「カリフォルニアやチリは安い」ってみんな勝手に思ってた。まあ実際安かったんですけど。

岩須:あの当時は、安いものしか売れてなかったんですよね。

林さん:だから、フランスワイン以外を高く出してるとちょっと嫌がられるような雰囲気があって。だったらフランスだけで行こうか、という感じで続けてきました。

岩須:あとフランスだけやってると、フランス好きの人と、フランスの話ができるというのはありますよね。地方の特産品が決まってるのもあって。

林さん:そうそう、楽なんですよね。正直言うとフランスが一番楽です。

岩須:昨日、銀座のニュージーランドワインのお店「チーズ&ワインサロン村瀬」さんに行ったんですけど、めちゃくちゃマニアックでした。

林さん:やはりそうですか。銀座でNZやろうとしたら思いっきりマニアックじゃないと。多分ニュージーランド人の偉い人とかも連れてくるお店ですよね?だったらすごくマニアックにしないと駄目ですよね。

岩須:一杯3,000円ぐらいでした。もちろん1,500円のものもありましたけど。

林さん:もちろん銀座だから、それでも全然みんなオッケーで。銀座マジックですね。まあ家賃も高いし仕方ない。

岩須:あそこでやれてるのがすごいなと。

林さん:いや〜本当にあそこだけは別ですよ。景気のいいひとだけがいるんで。例えば今まで経費で落としてた会社が来なくなっても、 Googleの人とかAppleの人たちがいるんで(笑)

岩須:遊ぶ場所っていうか「高いお金を払う場所=銀座」っていうブランドは崩れないっていうことですよね。

林さん:もちろんそういう人たちが、遊ぶ先にクラブを選ばなくなったという変化はあると思うんです。でもワイン好きっていうのはずっといますし。ワインに特化してるとカクテルよりはたぶん、食いっぱぐれない感じはします。あと外国の方はやっぱりワインがちゃんと好きですね。彼らが来てくれると、すごく安いって言ってくれる。お話を聞いたら、ヨーロッパだとグラスで大体1,500円かららしいんですね。だから普通にブルゴーニュルージュがこれで1,100円、シャンパーニュ1,050円って言うと、「えーーーーー安い」ってリピートしてくれます。

ニュージーランドワインの魅力

ボクモ岩須さん

岩須:最後に、このサイトはニュージーランドワインのサイトなので、NZワインについてもお話させてください。NZワイン、どんな印象がありますか?

林さん:そうですね、まず高品質。あと一番思うのは、何を買っても外れない。僕、本当に外したNZ、まだ一本もないです。不思議ですけど。

岩須:そこそこお値段するっていうか、激安価格のものもないですし。フランスに比べると決して高くないけど、やっぱりチリに比べるとやや高い。ただフランスの同じ価格帯のピノと比べたら、お値打ちかもしれないですね。

林さん:そうそう、美味しくないブルゴーニュ・ルージュはいくらでもありますけど、NZのピノで外したことは一回もないです。何でなのか全然わからないんですけど、それが一番安心で(笑)cakesの加藤さんもnoteで「買うんだったらNZ買った方がいいよって」書いてるんです。何も分からないんだったらNZ買うのが一番だって。僕もすごくそう思います。

岩須:東京ってニュージーランドワイン、「普通に売ってる」っていうイメージありますか?名古屋だとあまり売ってないんですよ。売ってるスーパーに行っても3本とか。そもそも売ってる店がほとんど無いんですけど。

林さん:僕らがワイン買うときって、デパートの地下をイメージしてるんです。デパートの地下だとNZが12〜3本はあると思うんですよ。「ワイン買う」って言われた時のイメージが多分デパートの地下なんですよ。紀伊国屋や東急の地下なんかで。

岩須:東京のワイン売り場が全然わかんなくて、「ワイン売り場」ってGoogleで検索するとエノテカさんばっかり出てくるんです。ただエノテカさん、NZはSILENIとか限られたものにっちゃうし(笑)そうですね、デパートですね。ただ名古屋のデパートには少ないですね…。

林さん:僕も、故郷の徳島をイメージすると、やっぱりフランスが強いです。でも東京でワイン買う時ってデパートの地下っていうイメージなので、「それならNZで選んだほうがいいよ」って言える。ブルゴーニュだとどれを選べばいいかわからないとか、イタリアはほんとピンキリで分からないとか。オーストラリアだとシラーズがどうとか、そこで難しくなってハードル高くなるんですけど。そういうことを考えるとNZが一番なんです。東京って、ワインを買って誰かのおうちに持っていって、そこでパーティーをするイメージなんです。で、「その場合どうしたらいいですか」って相談されるんです。シャンパーニュにするのか、クレマンにするのかビオにするのかっていう時に、「だったらNZですよ」って。NZってかぶらないですし。

岩須:この間、僕がブログに書いたことを後押ししていただけるような言葉ですね!最初に思いつくのはやっぱりシャンパーニュだけど、そこにNZっていう選択肢があるといいなって。

林さん:シャンパーニュなんかだと値段がわかっちゃうし、かぶるし、ちょっとダサいんです。モエ・シャンドンとか。でもNZはそんなに流通してないし、外さないし、とってもいいですよね。ニュージーランドワイン、ほんとにおすすめです。

岩須:林さん、ありがとうございました!

ボクモ岩須さん

編集後記

「バーのマスター×執筆者」というオリジナルな掛け算で唯一無二の存在になっている林さん。

接客業を長くやっているだけあって、お話ぶりはとてもソフトな印象でした。
ただその中に、街の流行についてや飲食店の考察など、今の世の中を観る視点の鋭さも垣間見えました。

渋谷という日本の流行の発信地でお店をやっているからこそ大きくなったアンテナと、そのアンテナでキャッチした情報を発信する力、これらこそが林さんのオリジナルなんだなと感じました。

それから、林さんは、このコロナ禍の中でもnoteやcakesで自分の考えを発信したり、読者からのお悩み相談に答え続けています。店をやっていなくても、読者というお客さんとコミュニケーションをとっている。これってすごいことだと思います。「飲食店とはコミュニケーションスペースである」と僕は思っていますが、そのいちばんの進化形が林さんのスタイルだと思います。

今回は対談形式のインタビューでしたが、やはり「聞き上手」な林さん。

普段はカウンターに立ち、お客さんの話を聞く側の岩須も、気取らず遠慮なくお話をさせてもらうことができました。そして、林さんのもつ「発信力」にとても刺激をうけたようです。

「お酒はもう全然ダメ」「お店はやめたほうがいい」と語る林さん。

しかし新刊「なぜ、あの飲食店にお客が集まるのか」にはこのように記されています。

「“お店をやる”ってやっぱり面白いんです。みんなが全員、“飲食店やるの大変だけど楽しいですよ”と言ってくれています。
この本を読み終えた時、あなたが「よし、自分も飲食店やろう! 」と思ってくれることを祈ります。」

―本文より

働き方が多様化する現代、「バーのマスター×執筆者」というスキルの掛け算を活かしたスタイルで、注目を集める林さんですが、なにより林さん自身が、これから飲食店を始めようとしてる人を、応援してくれていると感じました。

たくさんのヒントが詰まった一冊、みなさんも是非読んでみてください!

 なぜ、あの飲食店にお客が集まるのか(Amazon)

そしてみなさんも是非、渋谷の奥まで足を伸ばしてみてください。

bar bossaはこちらです。

 bar bossaってこんなお店です(note)

林さん、素晴らしい機会をありがとうございました!

この記事の筆者

ボクモワイン
ボクモワイン編集部
ボクモワインの編集部です。ソムリエ岩須の監修の元、ニュージーランドやワインについての情報を執筆&編集しています。

この記事の監修

岩須
岩須 直紀
ニュージーランドワインが好きすぎるソムリエ。ラジオの原稿執筆業(ニッポン放送、bayfm、NACK5)。栄5「ボクモ」を経営。毎月第4水曜はジュンク堂名古屋栄店でワイン講師(コロナでお休み中)。好きな音楽はRADWIMPSと民族音楽。最近紅茶が体にあってきた。一般社団法人日本ソムリエ協会 認定ソムリエ。