最近「ボクモ」の料理は、ちょっと変化してきています。
例えば新メニューのこれ。
「魯肉フェットチーネ」です。魯肉は「ルーロー」と読みます。そう、最近よく聞くようになった台湾グルメ「魯肉飯(ルーローハン)」をベースにしたパスタです。
独特なスパイス「五香粉(ウーシャンフェン)」の香りを効かせた肉々しいおつまみで、今週登場して以来、はやくもまあまあの発注をいただいております。ありがたや。
そして、こんなのもあります。
「ソフトシェルシュリンプと馬告(マーガオ)のビーフン」。
殻ごと食べることが出来る海老をメインにしたビーフンです。
馬告というこれまた台湾のスパイスを仕上げに使っています(まぶしていある黒いつぶつぶです)。
この馬告、挽く前のホールの状態でも、挽いたあとでも黒コショウのように見えます。が、コショウほどはピリッとせず、レモングラスみたいな爽やかさがある不思議なスパイスです。
これがナンプラーを使ったビーフンにあうのです。
今日いらっしゃったお客さまは、「こういうアジアっぽいメニューってビールがあうと思うんですが、思い切ってワインをあわせてみたら、意外とイケました」とおっしゃってました。
そう、それです!
それが伝わったなら、ありがたいです。
長らく続く「飲み屋不遇の時代」が、今後ちゃんと終わるとするならば、そのための準備をしておかねば。
これまでと同じやり方ではなく、一歩進んだ提案ができる店でありたい。ここ最近は、そう強く思っています。
そんな中で出てきたアイデアが、この「アジアンテイスト」なのです。
なぜ、ニュージーランドワインの店が、アジアっぽいフードメニューを出すのか。
これには理由があります。
さかのぼること7年。
ニュージーランドを訪れ、ワイナリーを廻っているとき、あるワイナリーのオーナーがこんなことを言ってました。
「このワインは、シンガポールや香港、台湾のレストランで使ってもらうことを想定して作ってるんです。」
へえ!
びっくりしました。
ワインと料理の関係性ってのは、作り手がその場で作ることが出来る最高の味を追求し、そうして出来上がった1本をレストランが受け取って、「じゃあこんな料理とあわせよう」とペアリングを考える。
そういうものだと思っていました。
でも、その生産者の考えは違ったのです。「このワインは、アジアのレストランに訪れる人に喜んでもらいたい」。そう思ってワインを作っていたのです。
なるほど、考えてみたら、これってニュージーランドのワイナリーならではの視点かもな、と思いました。
人口は愛知県よりも少ない500万人。でもワイナリー数は700と日本の倍以上ある。
当然、かなりの割合のワインは輸出用に作っているわけで、そのお客さんは世界中にいます。
そしてニュージーランドは、「ワインというパーティーに遅れて参加した国」(マスター・オブ・ワインのサム・ハロップ談)。
産業が盛んになったのはここ40年くらいで、歴史の長さでいうと、ヨーロッパの100分の1くらいしかない。
だから、すでに出来上がっている世界のワイン市場に食い込もうと思ったら、やはり「ワインが飲まれる場所の食文化に合わせにいく」ことは必要なんだろうと思います。
これ、日本の自動車産業と似てますね。どのメーカーも日本よりも海外の方がたくさん売れるから、それぞれ買ってくれる国のニーズにあわせて車を作ってますもんね。
そう。お客さんの欲しいものをつくる。
当たり前と言えば当たり前ですが、ワインってどうしても「伝統国であるヨーロッパの基準に合わせる」というイメージが強いもの。
こういう「アジアのニーズをキャッチしている」という生産者がニュージーランドにいることは、僕にとっては大発見だったわけです。
そして、地理的に言えば、ニュージーランドにとっての東南アジアは、同じような経度の縦のベルトにある場所。ちょっと北のご近所さんです。
ワインは「長い輸送が苦手な飲み物」なので、近所の東南アジアのみんなに楽しんでもらおう、というのは理に適っています。
そして、その縦のベルトのさらに北にあるのが日本。
その日本の「ニュージーランドワイン専門の飲食店」であるボクモが、ベルト仲間の「ニュージーランド」と「東南アジア」の仲の良さを、日本のお客さんに提示したら面白いんじゃないか。
我々って、NZワインのフルーティーな美味しさも、アジアンフードのスパイシーな美味しさも、キャッチする能力があると思います。だから、このふたつの組み合わせも、楽しんでいただけるのではないか。
そう考えたわけです。どうかな。
具体的なペアリングの話をすると、「魯肉フェットチーネ」は、シラーがあうと思います(例えばこんなワイン)。八角のいい香りが、シラーが持っているスパイス感とマッチします。
ただ、昨日いらっしゃったお客さまは「これはピノでもいけそうですね」とピノ・ノワールとあわせていらっしゃいました。
なるほど、昨日お出ししたネルソン産のピノは濃縮感高めのものなので、香りにパンチのあるお肉料理にもイケるわけですな。お客さまから学ぶこと、多いです。
そして、「ソフトシェルシュリンプと馬告(マーガオ)のビーフン」。
こちらは、パクチーの風味と馬告の爽やかなスパイス感が海老の強烈な旨みに花を添える感じ。
ならば、その上にかける仕上げの柑橘ドレッシングのつもりで、ソーヴィニョン・ブランをあわせるのが吉でしょう。
それから、強めの香りに対抗させるなら、ゲヴュルツトラミネールでも良いです。案外、ピノ・グリの大人しさも食事の引き立て役としては良いかも。
ちなみに、ボクモは「アジアンフードに全振り」するわけではないです。
これまでどおりNZ産のラムチョップステーキをメインに、NZ産のマッスルや、その他いろいろな創作料理もやっていきます。
ニュージーランドワインのパートナーとしてぴったりくるものならなんでもやろう、の精神はそのままで。
その中でアジアンな要素も積極的に取り入れながら、進みたいと思います。
まあ、こんな話をしても、まだまだ飲み屋に行くのは難しいという方も多いことでしょう。職場や家庭などの状況が許さないという方もいらっしゃることと思います。
でも、魯肉は無印良品にレトルトの素が売ってますし、ビーフンは完成品がコンビニやスーパーに並んでます。もちろんケンミンの焼ビーフンも美味しいですよね。
よかったら、アジアンフード×NZワインのペア、おうちでも試してみてください。
そしていつか、外食OKよ、名古屋に行ってみようかしら!
となったら、ボクモのアジアンメニュー、ご賞味いただけたら嬉しいです。
PS 「魯肉フェットチーネ」は、来週くらいにマイナーチェンジして「魯肉リングイネ」になります。シェフがつくる魯肉によりあうのはこっちかな、と思いまして。使っているのはどっちもディチェコの乾麺です。