
休業している間に、ボクモの店内をちょっとずつ改装しています。改装をしようと思ったいちばんの理由はこうです。
たぶん僕は、あとから人生を振り返ったときに、きっと「コロナ前、コロナ後」に分けて話すと思います。今、それくらい大きな変化が起きている実感があります。
ただ、その変化の渦中にいながら、コロナ前からやってきた飲食店を、コロナ後もまだやろうとしています。
自分の価値観もこの2年でけっこう変わったし、世の中も、コロナの境目を機に、いろいろ変わった。そしてもっと変わっていくだろうと思います。
ならば飲食店も、これからの方向性を見据えて、店の機能をアフターコロナ仕様に変えなければならない。
機能チェンジ、すなわちそれは、内装を変えること。そういうわけです。
ただ、改装をする前に、もともとボクモの内装って、どんな気持ちでつくったんだっけ。そこをおさらいしておく必要があります。
ボクモは2009年にオープンして、今年で13年目。
それまで飲食店なんてアルバイトすらやったことがなかった僕が、30歳を過ぎてから急に思い立ち、完全に勢いでつくったのがボクモです。
当時は飲食店開業のための指南書がけっこう出ていたので、その手の本を片っ端から読みました。100冊くらいは読んだと思います。
東京の飲食店でアルバイト生活も経験しました。
名古屋に戻って、不動産屋さんに半年以上通い、よし、ここしかない、と思って場所を矢場町に決めました。ここまでほぼ、勘です。
当然、僕には実績も実力もお金もない。飲食業界の常識なんて、本に載ってること以外はまるでわかりませんでした。
ただ生意気にも、ひとつ強く思っていたのは、「他のお店といっしょじゃ駄目だろうな」ということ。
ラジオ番組を作っていたとき、他と同じような番組だけは、絶対につくらないぞと思っていました。だいぶわがままです。
ラジオ番組には、一応、時間や選曲やトークにおいて、この範囲でやってねという縛りはありますが、飲食店ははるかに自由。保健所と消防署の許可をもらえば、あとはどんなことをやってもいい。もう、アイデアのっけ放題。
僕がつくりたかったのは自分なりのアイデアがのっかった、「必要だけど、まだない店」でした。
そして開業前、シェフとふたりで1週間くらい、ニューヨークを旅しました。食べて、歩いて、食べて、歩いての繰り返し。たくさんの飲食店に行きました。朝はベーグル、昼はピザ、夜はステーキ、夜中はチーズケーキ。経験値も脂肪もたまりました。
中でも印象的だったのは、ブロードウェイにある、役者の卵が歌いながら料理を運ぶ店。それから、スタンダップコメディアンがお客を笑わせながらご飯を食べさせる店。
どっちもとても楽しかった。飲食店に「ご飯とお酒以外の機能がついてる」って、めちゃくちゃいいなと思いました。
「お店の姿グラフ」があるとするならば、それまでは、x軸:美味しさ、y軸:値段、くらいの二次元グラフしか描けていませんでしたが、そこにz軸:楽しさが加わって、一気にグラフが立体的になった気がしました。
こうして「基本はワインとビールと洋食の飲食店で、そこにたまに面白そうなイベントがのっかる」、こんなコンセプトができあがったわけです。
そして、そんなちょっと変わった店の内装は・・・
プレーンじゃだめ。ごちゃごちゃがいい。何かしら、面白そうなことが起きそうな匂いがする、いわば「空間力」が必要だと思いました。そんな話をデザイナーさんにして、出来上がったのが今のボクモです。
そこから12年半。ボクモはどうなったか。
イベント、いろんなのをやってきました。ここ5,6年くらいは民族音楽のライブや、大学や研究機関の先生のトークイベントが中心になりました(でもこの2年はコロナでできていませんが)。
一方、通常営業の飲食店のスタイルは、どんどん変わってここまできました。
僕もシェフも年と経験を重ねて、少しずつ、自分たちはこれだよね、というやり方をみつけていった感じ。僕は、ニュージーランドワイン。シェフはそのワインにあわせるために工夫した創作料理。今は最初よりだいぶ専門性が出てきたんじゃないかと思います。
そして、カウンターにいらっしゃる方が増え、常連さんを中心とした、ちょっとしたコミュニティみたいなものができてきました。
そこにコロナがやってきた、そんな流れです。
さあ、ここからどうする。
x軸:美味しさ、y軸:値段。
これは、コロナ関係なく、飲食の肝なので、変わらず追求すべき値です。なるべく美味しく。なるべくお値打ちに。これからもしっかり取り組みます。
ただ、z軸:楽しさ。今後は、僕らのような小さな飲食店にとって、この部分が担う役割が、もっと大きくなると僕は思っています。
美味しい、お値打ち、だけでは競争力にはなりにくい。だからこそ、飲食店は、「他にはない楽しさがある」場所である必要がある。
じゃあ、その他にはない楽しさっていったい何?
これまでは、イベントで楽しさをつくろうと思っていました。もちろんこれからも、それは継続します。
しかし、一方で、これまでより個人にスポットをあてる感じに進みたいと思うのです。なぜなら僕は、これからは、個人の活動が盛んになる時代になると思うから。
テレワークって、おそらくある程度は継続しますよね。だから、仕事の延長線上での会食はコロナ前と比べてガクンと減るでしょう。逆に、仕事とは切り離された「自分だけの楽しい飲食店」がもっと必要になるんだろうと思います。
それを踏まえ、ネクストボクモが目指したいのは、こんな感じの店です。
・「会社の飲み会の会場」ではなくて、「それを回避して開催するひとり飲み会の会場」。
・「合コンをやる店」ではなくて、「こないだ合コン行ってきたんだけどさあ、ちょっと聞いてよ〜」と、常連さんに愚痴れる店。
・「ワイン飲みたいけど、緊張するワインバーはちょっと苦手だなあ。どこかグラスでいろいろ飲めるところないかなあ。」という方に喜んでもらえる店。
・ふらっと来て、ワイン3杯、おつまみ3品で5,000円くらい、ほろ酔いで満足、な店。
・「新メニュー食べに来たよ」と言ってひとりで座ると、隣の常連さんから、「これも食べる?」という流れになる店。
・「ニュージーランドワインが飲みたくなって」を導入にしつつ、「別れた元彼から突然連絡が来たんですよ!どう思います?」が本題の女子が来やすい店。
・お酒飲みながらの生演奏で、思わず踊っちゃう店。
・イベントに参加した記念に「新しい価値観」をお持ち帰りできる店。
・店主とワインの楽しさを語りあえる店。
・ニュージーランド好きのたまり場。
・・・とまあ、今のところ、こんな感じ。
ざっくり言うと、今よりもうちょっと「ひとりで来やすい場所」にしたいな、と。「ゆるいコミュニティの中にいる楽しさ」をもう少し追求したいと思っています。
これを、改装の打ち合わせしているデザイナーさんに話しました。
すると・・・
「そりゃ、ワインバーと言うより、スナックですね」
え?ええええ??僕がやりたいのって、スナック?
違いますよ。断じてスナックじゃない。
カラオケはないし、ボトルキープもない。僕は、酒焼け声のママさんじゃない。
シェフのおいしい料理があるし、こだわりのNZワインがある。そこに、ゆるいコミュニティに属しているような楽しさもある。良いことがあったり、嫌なことがあったり、誰かに会いたくなったり、そういうときにふらっと立ち寄りたくなる。それが目指す方向性なんです。
「だからね、岩須さん。そういう機能を持った店って、飲食の用語で「スナック」って言うんですよ。」
ええ・・・12年以上かけてたどり着いた新しいスタイルって、スナックなの?
そうかあ、そうだとしてもなあ、もうちょっと別の言い方、ないもんかなあ。ぶつぶつ。
・・・とまあ、そんなこんなで、今、デザイナーさんは、「スナックボクモ」というコンセプトで、図面を引いています。
それを横目で見ていたら、あらま・・・!これは、楽しそうかも!?
これからの時代に「必要だけど、まだない店」になれる?といいなあ。
(スタッフみんなで塗装しました)
今週のペアリング
皆さん、お好きなブルボンスイーツってありますよね。
「ルマンド」に「エリーゼ」、「アルフォート」、「ホワイトロリータ」。
そんな中から今日は、マイ・フェイバリット・ブルボンスイーツとワインのペアリングをば。
これ、まじで美味しいです。
チョコレート菓子の「シルベーヌ」。
の、ミニバージョンの「ミニシルベーヌ」。
の、いちごバージョンの「ミニシルベーヌ いちご×チョコレート」です。
知らなかったでしょう、こんなのがあるんですよ、奥さん。
サイズ感、チョコとスポンジの割合、そしていちごの甘酸っぱさのバランスがたまりませんのです。

ネットで調べたら、もうほとんど売り切れ。冬季限定らしいです(買ってきてくれる奥さん情報)。
これが、カジュアルなスパークリングワインとめちゃくちゃ合うんです。
たとえばこのワイン。
マンスフィールド&マルシュ メトード トラディショネル NV
ミニシルベーヌ いちご×チョコレートのベリー感が、たいへん引き立つナイスペアです。
僕の手元には、今シーズンの残り1個だけ。
ゆく冬を惜しみながらいただくとしましょう。