シャトー・メルシャン安蔵光弘さんの映画「シグナチャー〜日本を世界の銘醸地に〜」のあらすじと感想

2022年11月4日、映画「シグナチャー〜日本を世界の銘醸地に〜」の公開されました。

本作は“現代日本ワインの父”と呼ばれる麻井宇介(浅井昭吾)さんの意思を引き継ぐ醸造家の安蔵光弘(あんぞう みつひろ)さんが、日本を世界の名醸地にしようと奮闘する様子を描いたドラマです。

シグナチャー

画像引用元:シグナチャー公式サイト

監督は「ウスケボーイズ」でもメガホンを握った柿崎ゆうじさんが務め、今回はオリジナル脚本にも挑戦しています。

また「シグナチャー」は、今年5月に行われた「ニース国際映画祭」では最優秀作品賞を、「パリ国際映画祭」ではヒロインを務めた女優の竹島由夏さんが最優秀女優賞を受賞するなど、高い評価を受けています。

日本ワインのファンのみならず、ワインが好きな人には是非おすすめしたい映画「シグナチャー」。本記事では、映画をより一層お楽しみ頂けるように「シグナチャー」の概要や映画にまつわる豆知識などをご紹介します。

 

そして、この映画にも登場する幻のニュージーランドワイン「プロヴィダンス」についても詳しくお伝えしますね。

映画「シグナチャー」概要

あらすじ

“日本のワイン業界を牽引した麻井宇介(浅井昭吾)の意思を受け継ぎ、日本を世界の銘醸地にするために奮闘する醸造家・安蔵光弘の半生を描いたドラマ。1995年、ワイン造りを志す安蔵光弘は東京大学大学院を卒業後、山梨県勝沼町にあるシャトーメルシャン※に入社。そこで会社の大先輩である麻井宇介と出会い、その見識の高さと人柄に傾倒していく。

仲間たちとワイン造りに携わる中で、のちに妻となる正子との出会いも果たした安蔵は、理想のワイン造りのため奔走。やがて正子と人生をともに歩むこととなり、フランスのボルドーへの赴任も決まるなど、順分満帆なワイン造りの道を歩むが、ある時、尊敬する麻井が病魔に襲われ余命宣告を受けてしまう。

安蔵役を平山浩行、正子役を竹島由夏、麻井役を榎木孝明が演じる。監督は、ワイン造りに情熱を注ぐ若者たちを描いた「ウスケボーイズ」の柿崎ゆうじ。タイトルの「シグナチャー」は、特別なワインに醸造責任者がサインを入れることを指す。”

引用:映画.com

※ただしくは「メルシャン株式会社入社、シャトー・メルシャン配属」

概要

制作年/国 2021年/日本
時間 120分
監督 柿崎ゆうじ
公式サイト https://www.signature-wine.jp/

予告動画

出演者紹介

主演:平山浩行(安蔵光弘役)

数多くのドラマや映画に出演する俳優の平山浩行さん。今回の映画が、初主演作品となります。

竹島由夏(安蔵正子役)

前作「ウスケボーイズ」でも正子さんをモデルとする「上村邦子」役で出演した竹島由夏さん。今回も安蔵さんの妻である正子さんを演じます。

辰巳琢郎(大村春夫役)

丸藤葡萄酒工業の専務・大村春夫役で出演するのは、ワイン好きで有名な辰巳琢郎さんです。

榎木孝明(麻井宇介役)

麻井宇介役を演じるのは、名バイプレイヤーとして活躍する榎木孝明さんです。

その他にも、豪華なキャストに注目!

「シグナチャー」には、山崎裕太、大鶴義丹、長谷川初範、宮崎美子、黒沢かずこ(森三中)、板尾創路、篠山輝信、堀井新太など豪華なキャストが集結。

さらにソムリエの田邉公一や、「ウスケボーイズ」に出演していた渡辺大、出合正幸、伊藤つかさや和泉元彌も出演しています。

(※敬称略)

 

「シグナチャー」を観に行く前に「ウスケボーイズ」をみておくと、映画がより楽しめると思います。

▶︎「ウスケボーイズ」の詳細とレビューはこちら

 

この映画の見どころ

「シグナチャー」は、ワイン好きにとってはたまらない映画です。ワインを通じてある一人の青年が成長していく姿を見守る物語は、観ていて温かい気持ちになること、間違いないでしょう。

しかし、ワインに興味がない人にとっては少々難しい場面が多いかも知れません。

ワイン用語が説明もなく遠慮なく出てきますし、決してドラマチックな展開はない、ゆっくりと物語が進んでいく映画だからです。

もちろんちょっとしたストーリーの起伏はあるのですが、例えばハリウッドのヒット映画などのダイナミックな展開や伏線の回収などといった要素はほとんどなく、事実をもとに、どちらかと言えば淡々と安蔵さん夫婦の半生を描いていきます。

もしワインが好きで、飲むことだけでなく知識を蓄えることにも楽しみを得ているとしたら、必ず楽しめる映画だと思います。

見逃せないのはニュージーランドの存在

この映画では、「ニュージーランド」という単語が何度も出てきます。

ニュージーランドは日本と同じくワイン新興国ながら非常に質の高いワインを生み出すことで知られていますが、そのことに登場人物が勇気づけられる場面が多く描かれているのです。

「あの新興国ニュージーランドでも、こんなすごいワインが出来るんだ。ならば日本でだって、きっとやれるはずだ。」

そう安蔵さんや浅井さんは、そう心を奮い立たせるのです。

ニュージーランドワイン専門店を営む我々としても、非常に嬉しくなる場面でした。

安蔵光弘さんはどんな人?タイトルの「シグナチャー」とは

さて、ここではこの映画の主人公である「安蔵光弘」さんが、どんな方なのかということを簡単にお伝えします。

安蔵さんは1995年、東京大学大学院を卒業後メルシャン株式会社に入社し、シャトー・メルシャン勝沼ワイナリーに配属されました。そして入社後、会社の大先輩である麻井宇介(浅井昭吾)さんと出会い、ワインづくりをはじめ様々な影響を受けます。その後本社に転勤となりましたが、1998年にワイナリーへ復帰し再びワインづくりに没頭する日々を送りました。

2001年からは、ボルドーのシャトー・レイソンに4年間駐在し、栽培と醸造作業に従事します。その時の様子は、ボルドー駐在期間に安蔵さんが麻井さんに送っていたレポートを元に制作された本「ボルドーでワインを造ってわかったこと 日本ワインの戦略のために」にも詳しく掲載されています。

そして現在安蔵さんは、シャトーメルシャンの製造部長 チーフ・ワインメーカーで、山梨県ワイン酒造組合会長も務めるなど、日本ワイン界の中心的な存在として活躍されています。

またこの映画のタイトル「シグナチャー」は、特別なワインに醸造者自らがサインを書くことを意味し、安蔵さんがラベルにサインを入れた「桔梗ヶ原メルロー シグナチャー1998」にちなんでつけられました。

本作では主題歌「大地のしずく」の歌詞を安蔵さんが担当されているので、映画を観に行かれる方は主題歌の歌詞にも注目して下さい。

麻井宇介(浅井昭吾)さんについて

映画の重要な登場人物でもあり、日本ワインを語る上で欠かせない「麻井宇介(浅井昭吾)」さんについても簡単にお伝えします。

「麻井宇介」は、浅井昭吾(あさいしょうご)さんのペンネーム。長年日本ワインの向上に貢献し、シャトー・メルシャン勝沼ワイナリーの工場長、山梨ワイン酒造組合会長など、日本のワインづくりをリードする役割を担い、晩年はワインコンサルタントとしても活躍されました。

 

麻井さんは、日本のワインづくりに革命を起こした人物なのです。

かつて日本では、巨峰やデラウエアなどの生食用のぶどうが使われることが多く、「ヴィティス・ヴィニフェラ種」と呼ばれるヨーロッパ系ワイン用ぶどうの栽培は難しいと考えられていました。

また、ヨーロッパでは、ぶどうの栽培から醸造までを1つのワイナリーが一貫して行うことが伝統的なつくり方とされていますが、日本ではそのスタイルはほとんどありませんでした。「ぶどうの栽培」と「ワインの醸造」はあくまで別の商売だったわけです。当然、ワインづくりにおいて、原料であるぶどうの品質を自分たちの手で高めていくいう考えは、まだ一般的ではありませんでした。

そんな日本の旧来のワインづくりから脱却しようと声を上げ、研究を進めたのが麻井宇介さんだったのです。

麻井さんは、「ワインづくりは、"ぶどう"こそが最も重要な要素である」と考え、その栽培に力を注ぎます。そして、長野県塩尻市桔梗ヶ原(ききょうがはら)で、海外に負けないようなメルローを栽培することに成功し、日本でも高品質なワインがつくれるということを証明しました。

また麻井さんは、日本のワインづくりを志す若者を常に気にかけ、ワインづくりに関する知識や哲学を教えました。甲州ワインを製造する際に有効な「シュール・リー」の技術をライバルである他のワイナリーにも惜しみなく開示したり、「ワインづくりの思想」、「ワインづくりの四季」など数々の名著で、自らの知識を後進に伝えています。

映画に登場するNZワイン「プロヴィダンス」とは?

そして、実はこの映画では「プロヴィダンス」というニュージーランドワインが登場しています。

プロヴィダンス  ボクモで保管している「プロヴィダンス プライヴェート・リザーヴ1996」

映画で“奇跡のワイン”と紹介されているこのプロヴィダンスは、麻井さんに大きな影響を与えたワイン。

麻井さんは当時は珍しかった亜硫酸塩無添加でつくられた「プロヴィダンス」のワインを飲み、感銘を受けました。フランスなどと比べると歴史の浅い土地でも、気候や土壌を活かした素晴らしいぶどうをつくることで、人の手を極力加えないワインづくりが可能であることを知ったのです。

麻井さんは、実際にニュージーランド北島マタカナにあるプロヴィダンスのワイナリーを訪れ、そのワインづくりを自分の目で確かめました。そして日本に帰国後はプロヴィダンスのワインの魅力を後輩たちに熱心に語り、日本でもこんなワインがつくれるのではないかと若者たちを鼓舞しました。

NZのワインが、今日の日本のワインづくりにも少なからず影響を与えているというわけですね。ちなみに、プロヴィダンスは1996年のリリース後すぐに世界で非常に高く評価されました。NZにおける「シンデレラワイン」の第一号と言えるでしょう。

まとめ

「シグナチャー〜日本を世界の銘醸地に〜」は、日本ワインの父である麻井宇介さんの意思を引き継ぎ、日本ワインに真摯に向き合い続ける安蔵光弘さんの半生を描いたドラマです。

近年、その品質の向上がめざましく、ファンを増やしている日本ワイン。そんな日本ワインにおけるレジェンド的存在の安蔵さんにフォーカスしたこの映画を見れば、きっと「ものづくりに懸ける人たちの情熱」を感じることができると思います。

 

見終わったあとは、もちろん「日本ワインで乾杯!」したいですね。

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この記事の筆者

ボクモワイン
ボクモワイン編集部
ボクモワインの編集部です。ソムリエ岩須の監修の元、ニュージーランドやワインについての情報を執筆&編集しています。

この記事の監修

岩須
岩須 直紀
ニュージーランドワインが好きすぎるソムリエ。ラジオの原稿執筆業(ニッポン放送、bayfm、NACK5)。栄5「ボクモ」を経営。毎月第4水曜はジュンク堂名古屋栄店でワイン講師(コロナでお休み中)。好きな音楽はRADWIMPSと民族音楽。最近紅茶が体にあってきた。一般社団法人日本ソムリエ協会 認定ソムリエ。
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