ワインって、フランスやイタリアとか"海外のもの"っていうイメージが強くないですか? でも実は、日本でも本格的なワインがつくられているんです。この映画を見ればそれがよく分かりますよ。
そうなんですね!そういえば日本のワインのことって全然知らなかったです。日本の映画なら、なんとなく身近にも感じますね。
今回ご紹介するのは、実話をもとにした「ウスケボーイズ」という日本のワインづくりの革命を描いた映画です。
一昔前まで、日本の気候や土壌はワイン用のぶどうを栽培するのに不向きであるというのが大方の見方で、“世界に通用するような本格的なワインは、日本ではつくれない”と言われていました。
しかし、麻井宇介(あさいうすけ)という一人の人物がその常識を変えました。本作はそんな麻井さんを師と仰ぎ、その意志を引き継ぐ者として自らを「ウスケボーイズ」と名乗る若者たちのお話です。彼らは、一心不乱に品質の高いワインづくりを追求し続け、日本ワインに革命を起こしました。【この記事の登場人物】
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みかさん
アパレル会社に勤務する35歳。ワインにハマり始めてる今、ワイングラスが気になってしょうがない。
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岩須
このサイトの監修を担当する、ソムリエ。自身が名古屋で営むバーでは、ニュージーランドワインを豊富に取り揃える。
映画「ウスケボーイズ」詳細
ウスケボーイズは、河合香織のノンフィクション小説「ウスケボーイズ 日本ワインの革命児たち」(小学館)を原作とした映画。マドリード国際映画祭などヨーロッパで数々の賞を受賞しました。
制作年/国 | 2018年/日本 |
時間 | 102分 |
監督 | 柿崎ゆうじ |
公式サイト | http://usukeboys.jp/ |
登場人物紹介
登場人物は、実在する人物をモデルにしています。岡村秀史役:渡辺大
ボーペイサージュ(BEAU PAYSAGE)の岡本英史さんがモデルです。
城山(内藤)正人役:出合正幸
Kidoワイナリーの城戸(きど)亜紀人さんがモデルです。
高山義彦役:内野謙太
小布施ワイナリーの曽我彰彦さんがモデルです。
麻井宇介役:橋爪功
ワインコンサルタントの麻井宇介(あさい うすけ)さんがモデルです。
ストーリー
ある夜、フランスと肩を並べるような日本のワインは存在しないと口論になり、「日本」VS「フランス」のブラインドテイスティングをしようということに。
その中で予想に反し、上位になったのが「桔梗ヶ原(ききょうがはら)メルロー」であった。
メンバーはそれをつくった「麻井宇介」という人物を知り、次第に憧れを抱くようになる。大学院卒業後それぞれの道に進んだが、偶然が重なり、麻井からワインの思想や哲学を直接学ぶ機会に恵まれた。
麻井のワインづくりに対する姿勢に心を動かされ、それぞれが自分たちのワインをつくることを決意していく。しかし、それは困難の連続であった。仲間との決裂、経済的な困窮、ぶどうの病気など、様々な問題が彼らの前に立ちふさがる。
そんな中でも、麻井の言葉を信じ、仲間と支え合いながら、それぞれが自分にしかつくれないワインを追求していく。
この映画の見どころ
ワインが好きな人にとっては、興味深いシーンが数多くあります。その中から見どころをご紹介します。麻井宇介の数々の名言
映画の中では、麻井宇介さんが"ウスケボーイズ"たちにワインづくりの思想を語りかけるシーンが多くあり、
「教科書は破り捨てなさい」
「テロワールは人がつくる」
など、麻井さんが若者に託した貴重なメッセージを聞くことができます。
麻井さんは、何度も困難にぶつかる若者たちにワインづくりの哲学を教え、励まし続けました。その結果、その意思を引き継ぐ若者たちが日本のワインを大きく変えていくことになったのです。
ワインづくりの詳細が記録されている
本作中の、リアルなワインづくりの風景にも是非注目して下さい。
まず、ぶどう畑。主人公たちの「ぶどう畑」が、三者三様で全く違うのです。原作を読み確認しましたが、それぞれの畑の特徴が映画で見事に再現されています。
昔から日本で行われてきた棚栽培の畑や、ヨーロッパで主流とされる垣根栽培の畑、あえて雑草を生やしたままにしている畑など、それぞれの畑によって外観も様々でした。
また、ワインの醸造を写したシーンでは、発酵途中のぶどうが"プチプチ"となっている音も、しっかりと収録されています。
普段なかなか見る機会のないワインづくりの風景が見られることも、この映画の魅力の1つです。
実際に映画を見た感想
この映画は「ワイン友の会」のメンバーである、3人の人物にスポットが当てられています。
彼らのワインづくりは様々で、亜硫酸塩の添加や農薬を極限まで使用しないストイックな姿勢でぶどうを栽培する者、共に人生を歩む家族を大切にしながら柔軟な方法でぶどうを栽培する者など、「その人」の考え方がワインづくりに反映されていることが分かりました。
"ワインづくり"と一口に言っても、ぶどうの育て方や醸造の方法も千差万別なんだなと思いました。
「ワイン友の会」のメンバーが麻井さんに初めて会った時に、ワインの感想を求められ否定的なコメントばかりを言うことに対し、なぜ否定ばかりするのか?と問うシーンも印象的でした。「どのワインにも良いところはある」という言葉が素敵でした。
今、美味しい日本ワインが飲めるのも、日本のワインを変えよう!とした人たちのおかげなんですね。
そうですね。今でこそ、日本でも海外に肩を並べる高品質なワインが珍しくないですが、 それは麻井宇介さんという日本ワイン界の偉人がいて、その麻井さんに薫陶を受けた若者たちがいたからなんですよね。
彼らが切磋琢磨して日本のワインのレベルを上げる努力をしてきたということが、この映画にはしっかり描かれていると思いますよ。
書籍版「ウスケボーイズ」の魅力
冒頭でも触れましたが、映画は「ウスケボーイズ 日本ワインの革命児たち」河合香織(著)をもとにして描かれています。
原作では、ウスケボーイズのワインづくりについて更に詳しく記されています。
「ワインづくりとは何か」をリアルに学べる
この本では、麻井さんに影響を受け「ウスケボーイズ」と名乗る人たちを、長期にわたって取材しています。
断片的な情報の羅列ではなく、日本のワインがどのように変わっていったのか、ワインづくりに真剣に取り組む主人公たちのリアルな心情とともに描かれています。
「ワインづくりとは何か」というとても抽象的なことも、麻井さんの言葉や主人公たちから、うかがい知ることができます。
また、麻井さんの書籍の解析であったり、ワインづくりの実情にもきちんと触れているので、ワインづくりのことを学べるだけでなく、読み物としても楽しむことができる一冊です。
原作に登場するNZワイン「プロヴィダンス」とは?
残念ながら映画中には出てこないのですが、実はこの原作の中には、ニュージーランドのワインが重要な鍵として度々出てくるんです。それは「プロヴィダンス」というワインです。
麻井さんは当時は珍しかった亜硫酸塩無添加でつくられた「プロヴィダンス」のワインを飲み、感銘を受けました。フランスなどと比べると歴史の浅い土地でも、気候や土壌を活かした素晴らしいぶどうをつくることで、人の手を極力加えないワインづくりが可能であることを知ったのです。
麻井さんは、実際にプロヴィダンスのワイナリーを訪れ、そのワインづくりを自分の目で確かめました。そして、岡本さんをはじめとする若手にも、プロヴィダンスのワインを何度も語るのです。
プロヴィダンスはリリース後すぐに世界でも高い評価を得たため、「シンデレラワイン」と呼ばれています。
また、"土地の可能性を信じよう"というメッセージでマールボロ地方のワインも紹介されています。
NZのワインが、今日の日本のワインづくりにも少なからず影響を与えているというわけですね。
現代日本ワインの父「麻井宇介」とは?
「麻井宇介」は、浅井昭吾(あさいしょうご)さんのペンネームです。
浅井昭吾さん(1930年~2002年)は、現代日本ワインの基礎を作った人物として知られます。シャトー・メルシャン勝沼ワイナリーの工場長、山梨ワイン酒造組合会長など、日本のワインづくりをリードする役割を果たし、晩年はワインコンサルタントとしても活躍されました。
長い間、日本ワインには、巨峰やデラウエアなどの生食用のぶどうが使われることが多く、「ヴィティス・ヴィニフェラ種」と呼ばれるヨーロッパ系ワイン用ぶどうの栽培は難しいと考えられていました。
また、ヨーロッパでは、ぶどうの栽培から醸造までを1つのワイナリーが一貫して行うことが伝統的なつくり方とされていますが、日本ではそのスタイルはほとんどありませんでした。「ぶどうの栽培」と「ワインの醸造」はあくまで別の商売だったわけです。当然、ワインづくりにおいて、原料であるぶどうの品質を自分たちの手で高めていくいう考えは、まだ一般的ではありませんでした。
そんな日本の旧来のワインづくりから脱却しようと声を上げ、研究を進めたのが麻井宇介さんです。麻井さんは、「ワインづくりは、"ぶどう"こそが最も重要な要素である」と考え、その栽培に力を注ぎます。そして、長野県塩尻市桔梗ヶ原(ききょうがはら)で、海外に負けないようなメルローを栽培することに成功し、日本でも高品質なワインがつくれるということを証明しました。
また麻井さんは、日本のワインづくりを志す若者を常に気にかけ、鼓舞し続けました。甲州ワインを製造する際に有効な「シュール・リー」の技術をライバルである他のワイナリーにも惜しみなく開示したり、「ワインづくりの思想」、「ワインづくりの四季」など数々の名著で、自らの知識を後進に伝えています。
映画では、癌で余命がわずかであると言われたあとも、若者にワインづくりのアドバイスをするシーンが印象的でした。
ウスケボーイズのその後
最後に、麻井さんの意思を引き継ぐ"ウスケボーイズ"の現在を簡単にご紹介します。岡本英史
主人公のモデルにもなっている岡本さんは、山梨県北杜市津金(つがね)でワインづくりをしています。
岡本さん一人で営むワイナリー「ボーペイサージュ/BEAU PAYSAGE」は、フランス語で「美しい景色」という意味。農薬を使わず、亜硫酸塩の使用もごくわずかに留め、自然に寄り添いながら、すべて手作業でワインをつくっています。
城戸(きど)亜紀人
城戸さんは、長野県塩尻市宗賀(そうが)にて、家族3人で「Kidoワイナリー」という小さなワイナリーを営んでいます。
ぶどう栽培では、ぶどうの枝を南から北へ一方向に伸ばす「スマートマイヨルガーシステム」という棚栽培を取り入れ、自分たちの理想とするワインを追求しています。
曽我彰彦
曽我さんは、長野県高井郡の小布施でワインづくりをしています。
曽我さんが営む「小布施ワイナリー/ドメイヌ・ソガ」は自社畑のぶどう100%でつくったワインを誇りにする、小さなワイナリー。
有機栽培で化学的なものを一切使わず、可能な限り自然に寄り添ったワインづくりをしています。
彼らのつくるワインは、残念ながらどれも入手困難ですが…。 もし手に入ったら、ぜひこの映画や原作を思い出して味わってみて下さい!
まとめ
「ウスケボーイズ」には、ワインづくりに情熱をかける若者の姿が描かれています。
日本ワイン界における重要人物・麻井宇介さんの影響を受けた若者たち、彼らがどのようにして新しい日本ワインを作り上げていったのか、その出発点となる出来事が、実話ベースで紹介されています。世界に誇る日本ワインを作り出したいという、若者たちの情熱を感じることができる作品です。
また、本物のぶどう畑やワイナリーをロケ地に使っているだけあって、実際のワインづくりの現場がとてもリアルに感じられるのも、魅力のひとつです。
そしてこの映画を見たあとは、きっと日本ワインを飲みたくなってしまうでしょう。
みなさんも是非、日本ワインを手にとってみてくださいね。
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