コロナ禍。僕ら飲食店は厳しいです。どこの飲食店もそうです。席を減らしながら、なかなか戻らないお客さんを待っています。
でも、そんな中でも、ごくごく一部ですが「あの店はびくともしていないよ」という声も聞きます。なぜこのデッドボールを集中的に当てられている状況でびくともしないのか。衣笠祥雄か。とんでもなく凄い店もあります。
そんなストロングな店って、どんな店なのか、頭ではわかります。
それは、シンプルに言えば「独自のアイデアを持っている店」です。悔しいけど、素晴らしい。自分には足りていない部分なので、とても尊敬します。
そのアイデアは、非常に研ぎ澄まされていて、誰も追いつけない独自性を持っている。そして、その独自性が支持されている。世の中がどうであれやっていける飲食店の特徴は「その店に圧倒的な独自性があり、その独自性は代替不可能だというファンが、その店を支えている」。これが衣笠な店です。
ミシュランの星つきだろうが社員食堂だろうが、ファンにとって、唯一の愛される存在であること。星つきは、星が好きな人にとってワン&オンリー。社員食堂は、その会社に務める人とってワン&オンリー。
また、東京で流行っているもののモロパクリの流行店であっても、名古屋という土地でそのパクリフードが価値になっているならば、それはまったく否定されるべきではない。土地が違えば消費者が違う。場所をずらして、その地のファンを獲得し、ちゃんと成立させたら、それはもうワン&オンリーです(僕はやらんけど)。
そもそも著作権の概念が及ばないのが飲食店の世界で、パクリつパクられつ、新しいアイデアが生まれ、ブームが起きては萎み、また次のブームで一儲けする人がいる。そんな下世話な面があるから、飲食業界は魅力的なんだと思います。
またその一方で、スタイルを変えないことで老舗となり、それがワン&オンリーになっている非常に美しい例もある。おでん、焼き鳥、うなぎ、うどん、定食。老舗はめちゃくちゃ格好いいですね。憧れます。でも、44歳で今から老舗で丁稚はハードコアすぎます。かといって、これから20~30年かけて自分の店が老舗になるには、社会が荒波すぎます。
だから、僕らのような後から土足で飲食業界にやってきた人間は、どうしても流れを意識する必要があります。つまり、新しいアイデアを生み出し、それを買っていただくしかない。新しいやり方でワン&オンリーになるしかないのです。
立地、提供するもの、接客、空間、イベント、その他いろんな要素。
それらがお客さんにとって「他の店とは完全に差別化された、ナイスなアイデアが含まれていること」。
それこそが、僕らが生き残る唯一の道だと思っています。
だから、厳しい環境の今、ごちゃごちゃ言ってないで、他ではやっていない斬新な差別化のアイデアをたくさん出さなきゃいけない。そしてその中から、これからの新しい生活様式に合うかどうか、お客さんの行動パターンに馴染むかどうか、さまざまな角度で吟味する。そして、いけると思ったら、即実行していく。これが今、極めて大事だと思います。
しかし。
偉そうにそんな講釈を垂れておきながら、実際はなかなかこの「アイデア出し」というのは、難しいものです。当然、毎日の仕事があり(飲食店の仕事時間は長く長ーくなりがち)、僕の場合、他にもラジオの仕事をやっていたりするので、どうしても後回しになってしまう。猛烈に意識をそっちに向かわせて、アイデア出しタイムを確保する必要がある。
なので、思いたったが吉日。
僕は今、水曜日だけはラジオ原稿の執筆デーにしていて、店には立っていません。いつも、だいたい2~3本原稿を書きます。で、さっき1本目が終わりました。よし、この原稿の合間の時間をアイデア出しタイムにしよう。毎週のルーティン作業として入れてしまおう。そうしよう。
で、このブログで「今週のアイデア」としてアウトプットしていけば、思考の整理になる。そこから選抜して、スタッフミーティングにかけ、実現可能なものをやっていく。
もしかして、自分が実現できなくても、これを見ている飲食店の人がモロパクリしてくれるかもしれない。それはそれでいいです。実行力のある人は素直に尊敬しますので(でも、できたらパクるよって教えてね)。
週に1個アイデアがあれば、月に4~5個、年に52個は貯まる。さすがにそれくらいあれば、どれか1個くらいは使えるものがでるでしょう。いや、1年もかかってては遅いので、もうちょっとハイペースで出さなきゃいかんですね。
というわけで、前置きはこれくらいにして、さっそく第1週目、「今週のアイデア」を考えたいと思います。
ただしゼロからは難しい。僕は、これまでほとんど愛知県から出ないドメスティックな人生を過ごしていて、さらにここ10年は、ほぼ店と家の往復です。実にコンサバな生活を送っています。どう考えても外からの刺激不足なので、ゼロから1のアイデアを生み出す能力は低い。だから、アイデアのきっかけとなるヘルプが必要です。そのヘルプは・・・・やっぱり本です。
僕の部屋には、伝記、小説、実用書、ビジネス書、新書、ワイン関連、あとジャンル分け不能な雑多な本が300冊くらいあります。どれも僕じゃない人が一生懸命考えたことが書いてあります。すごくありがたい。先生が300人いるようなもんです。だから、この「今週のアイデア」では、300人の先生たちが教えてくれることを起点にしてつくってみようと思います。
今日は、「ひらめきスイッチ大全」(サンクチュアリ出版)という7年くらい前に出版された本に載っていたこのページを足がかりにしてみます。
「常識を逆さまにする」
たとえば、辞書は単語の頭から五十音で引く。これは自然の法則に近いぐらい「当たり前」の概念でしたが、それをひっくり返したのが岩波書店の「逆引き広辞苑」。
「らくさ」「らくざき」「らくざは」「らくざばう」
「さくら」を引くために「らくさ」にアクセスすると、桜、黄桜、葉桜、姥桜と、さまざまな桜を一度に見渡すことができます。
(中略)
逆順に並べると類縁関係にある言葉がまとまって一覧できるということでつくられた「逆引き広辞苑」ですが、これがヒットしたのは、なによりも「当たり前」をひっくり返した衝撃によるものが大きかったのではないでしょうか。 なるほど、逆さまね。これは、考えたことのなかった思考法です。よし、飲食店の中にある常識をひっくり返して、新しいアイデアを出してみましょう。
「お客さんが、お金をもらってご飯を食べる」
ものすごく逆さまです。資本主義を逆さまにしたと言ってもいい。
お店は、サービスをして、お金を支払う。どうでしょう。
僕的には、なんだかWで良いことをした気分には、なりそうです。しかし半月で潰れますな。
「お客さんが、ワインを飲むのではなく、吐く」
最悪だ。たまに他の店でしこたま飲んできたものを、うちのトイレでアレする人もいますが、なんだろうか、あれは。お土産ならこちらが喜ぶものにして欲しいです。とにかくダメ。こんなの思いつくんじゃなかった。
「お客さんが、ワインを買うのではなく、ワインを店に売る」
むむ、これなら、ちょっとありかも?
お客さんが不要になったワインを、お店で買い取る。これは新しいかもしれないです。
ちょっと調べたら、酒税法には「販売業免許」の規定はあるが、酒類を購入するための免許規定はない。じゃあ、法律的には良いとして、買い取ったワインをどうする?ちょっとマージンをのっけて、店で売る?
うーむ。すこし問題があるぞ。なんせワインは「保管状態がダメだと確実に味が劣化する飲み物」です。それなら、ワイン以外の、たとえばウイスキーや焼酎なら、どうか。これなら劣化に強い。でも・・・これまで育ててきた、僕のワインの目利き能力はまったく活かせない感じだなあ。ただ、ナシではない。保留フォルダに入れておきましょう。
「ソムリエではなく、お客さんがワインの栓を抜く」
お!これはやったことがある。
うちはカジュアルな業態なので、お客さんとの距離感が近いです。僕がコルクを抜栓している様子を見て、常連さんグループから「どうやったら、そうやってスムーズに抜けるんですか?」と聞かれたときがありました。そのとき、じゃあ、次の1本は抜いてみますか?と持ちかけて、抜栓の注意ポイントをお伝えしながら抜いてもらいました。「おお~!できた!」と拍手パチパチ。
ワインを抜くことは(特殊なワインじゃない限り)そんなに難しくないですが、コツは意外とみなさん知らない。それに家で1本抜いちゃったら、それを飲む必要がある。だから、練習できるチャンスは少ないのが現実。
その希少な抜栓作業を、プロに教わりながら店で体験できたら、そこに価値はあるかもしれない。ただし、これくらいのことでお金をいただくということは無理でしょうね。お店の魅力アップ策としては、今後も、ありかも。
とまあ、最初なので今週はこれくらいにしておきましょうか。最初に頑張りすぎると続かない気がするので。来週も「常識を逆さまにする」について考えてみるか、別のお題を持ってくるのか、またそれは来週考えます。
そうそう、これをご覧の皆さん、なにか面白そうなアイデアが浮かんだら、よかったら岩須まで教えてください。あと、いい本があったら教えてください(連絡はSNS経由がスムーズです)。
というわけで、毎週木曜日更新の「今週のアイデア」、はじめます。
衣笠になるぞ!!!