人 − お節介 − ワイン

今日は、僕が普段どんなことを考えてワインの仕事をしているか、書いてみます。

僕のまわりにはいろんなタイプの人がいます。にこにこ明るくて親しみやすい人もいるし、反対にちょっと表情が読みづらいタイプの人もいます。心がきっちり七三分けの真面目なタイプもいるし、盗んだバイクで走り出しそうなちょっと危なっかしいタイプもいます。

いろんなタイプの人がいて楽しいと思っています。

しかし、考えてみると、このタイプ分けっていうのはけっこう自分勝手な言い草です。「明るい」とか「真面目」とかのラベリングは、その要素が僕から見ると強く出ているように見えるっていう偏見です。当然、人ってもっと多面性がある。

社交的な人は意外と家では無口かもしれないし、人前では常識人でも、ひとりになったらヤバい行動をしているかもしれない。

「あの人は優しいな」と第一印象で思っていた人は、よく顔を合わせるようになると、微妙な表情が汲み取れるようになったりして、「ただ優しいんじゃない。強さもある。幼い頃につらい思いをしたことがあの人の魅力につながっている。時折見せるアンニュイな表情もそれを物語っている」と分析できるようになる。

でしょ?お客さん。

 

「は?別につらい思いなんかしてないし。」

 

・・・あれ。

僕の目は節穴なので、分析がぜんぜん違っていたりもします。

さて、いろんなタイプの人がいるように、ワインにもいろんなタイプがあります。やさしい、シャープな、荒々しい、繊細な、はつらつとしている、熟成している。ひとつのワインにはそれらの要素がいくつか入り混じっている。親しみやすいけど、繊細な、とか。シャープではつらつとしているとか。多面性があります。

ただ、こうやってワインの話になると、途端に「ピンとこない」となる人がほとんどだと思います。だってワインは、飲むのが好きであってもそれほどよく知らないという人が日本では普通だから。

「飲んで美味しい」という瞬間的な喜びと、「産地や品種、ペアリングなどの情報で知識欲を満たし、ワインの文化面も楽しむ」という掘り下げ行為。この間には、大きな隔たりがあります。多くの人にとってワインはめんどくさい世界なので、深掘りするのは骨が折れます。隔たりは隔たりのままでいい、となる。

つまり、ワインという飲み物は、頻繁に顔を合わせて、表情を汲み取るような対象ではないのです。家族でもなければ、職場の仲間でもない。言わば、たまたまカウンターに居合わせた人です。そういう珍しい人とは、その場だけ、一瞬だけのさらっとした関係で大丈夫でしょう。その人の生い立ちとか趣味、仕事でヘマしたとか、深爪しちゃったとか、親の介護どうしようとか、そんな深掘りした情報は邪魔です。

ただし。 カウンターに居合わせたその人がこうだったらどうでしょう。

たまたま同郷。趣味もかぶっている。感性がとても似ている。それをマスターに教えてもらったら、その場のカウンタートーク、めっちゃ弾むと思いませんか。

「まじですか?小牧出身で、昔よく釣りに行ってたんですか。やっぱ入鹿池?俺もです、見晴らし茶屋の田楽ってめっちゃ旨いですよね!」

そしたら、俄然その人に興味がわいて、もっと知りたくなる。もっと話したい。「マスター、なんだよ。二人の共通点知ってるんだったら、もっと早く教えてよ。」「やっぱこういう出会いって楽しいね。」となる。

それーーーーーー!!!!!

僕が目指しているのは、ワインにおけるそのマスターの役です。「人 - 僕 - ワイン」です。

僕はワインのことは普通の人よりも良く知っています。しかし、ワインは自分のことを語りません。難解で口べた。語られるのを待っています(なんか格好つけた表現ですみません)。

たとえば、あるワインを第一印象で「それほど特徴を感じないぞ」と思ったとしても、「溶存酸素が少なくて還元的になっているから、空気に触れさせていくと芳醇な香りが立ち上ってくるはず。デキャンタージュをしたら本領発揮するかな」みたいなことがあります。急に専門的なこと言って申し訳ないですが、でもそういうワインがあるのです。

だから僕は、お客さんの好みを聞き出して、頭の中でいくつかのワインの特徴を思い浮かべ、その共通点を探って、ちょっとお節介かも知れませんが、こんなのどうでしょうとお見合いしてもらう。

お見合いがうまくいったら万歳。良き出会いに乾杯。ビバお節介。

失敗したら「よくもこんな性格の悪いやつを紹介したな」「二度と来るか!」となる(そこまで言われたらさすがにへこむけど)。

つまり、ワインと人がマッチングするために世話を焼くのが僕の仕事なわけです。

そのマッチング率を上げるには、語られるのを待っているワイン(気に入った)を、より深く知り、それをなるべく伝わりやすい簡単な言葉で紹介するという技が重要になってきます。これが難しい。どの分野でも「簡単な言葉で説明する」ってけっこう高度な技です。全体を知り、細部を知り、どの情報を省いて、どんな比喩を使うか。

僕はその技を磨くために、日々、テイスティングしたり、勉強会に行ったり、本を読んだり、ペアリングを考えたりして、自分の担当するワインセミナーでそれをまとめて言語化しています。まず自分で深く掘る。次に伝える相手の水位を探る。その水位に適した言葉を選んで伝える。この作業の繰り返しです。

それと同時に、人の趣向や特徴に興味を持ち、好みを推測しなければなりません。最近は心理学の本なども読んでいますが、正直、まだまだです。そっち側の努力はもっとしなきゃいかんなと思っています。節穴なんで。

ただね。この技、将来はAIに取って代わられると思います。普段食べているもの、好きなものをインプットすれば、膨大なデータベースの中から好みのワインが導き出せる。そんな時代はきっと来ます。でも、5年後じゃない。早くて10年後くらいかな。

そのとき僕は50代中盤。どうしようか。

そうですね、たぶんその年代のおじさんにしかできないお節介の仕方を考えているんでしょうね。円熟した節穴は、意外と用途があるかも知れない、とかなんとか言って。

 

この記事の筆者

岩須
岩須 直紀
ニュージーランドワインが好きすぎるソムリエ。
ニュージーランドワインと多国籍料理の店「ボクモ」(名古屋市中区)を経営。ラジオの原稿書きの仕事はかれこれ29年。好きな音楽はRADWIMPSと民族音楽。

一般社団法人日本ソムリエ協会 認定ソムリエ

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