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お弁当屋さんになってみて

店をはじめる前の自分に言ってやりたい。11年後、とんでもないことになるぞって。ただ、店なんてやめておけとは言わない。これはこれでひとつの経験だし、ここから復活する気力はまだ全然あるから。

ボクモは先週から飲食店じゃなくなりました。お弁当とワイン販売の店になりました。期間限定のつもりですが、いつまで続くかはわかりません。

「新型コロナウイルスの拡大防止のため、飲食店は営業を自粛してください」。これをどう解釈するかは、日本ではそれぞれの経営者に委ねられている格好です。

他の国みたいに「営業したら罰を与える」っていうやり方の方がいいと言う人もいます。でも、日本でそれをやったらどうなるでしょう。取り締まるのは警察でしょうか。営業しているところに乗り込んでいって違反切符を切るのでしょうか。あの店、闇営業してますよって通報する人も出てくるのでしょうか。嫌すぎる。暴力の匂いしかしない。

同調圧力っていう言葉が悪のように扱われていますが、同調圧力があるおかげで良いこともある。上からの強制力で押さえつけると必ず反発が出るから、押さえつけずに、日本人特有の同調圧力を利用して、行動を抑制しなきゃいけないムードを社会全体で作ればいい。そうすれば、社会の秩序は崩れにくい。僕はそっちの方が好きです。甘いでしょうか。

一方で、「今回の自粛をどう捉えるかで、経営者のセンスが出る」と言ってる人がいます。すごく嫌です、センスを問われるのって。僕はいつも何をやるにしても「自分の思う通りにやってみたら、こうなりました」としか説明できません。センスよくやろうなんて1ミリも考えてない。でも、あの店の選択はセンスが良い、あの店はセンスが悪いなんて、レッテルを貼る人が出てくる。そしてその声が大きければ、みんなそれに賛同してしまう。それって同調圧力じゃねの?やっぱダメだわ、同調圧力。

話を戻しますと、ボクモは飲食店営業を休止して、お弁当の店になったわけです。なぜそうしたのか。他の選択肢とどう比較したのか。そのへんをまとめて僕の選択の理由を話してみたいと思います。

今回の緊急事態宣言を受けて、飲食店がとれる選択肢は

  1. 飲食やめ、持ち帰りやデリバリーのみ
  2. 飲食は時短営業、持ち帰りやデリバリーもやる
  3. 飲食も持ち帰りもデリバリーもやらずに休業
  4. 店をたたむ

このどれかです。

ボクモは「1」。ロックモは少しの期間お持ち帰りをやりましたが、今は「3」です(ロックモはバー。県からの休業要請の業種に入ったので休んでいます)。

うちの近所ではまだ「2」の店がけっこうあります。何回か自転車でお弁当の配達に出たのですが、19時まで飲酒オッケー、20時までの時短営業、という店が多いようです。でも、見る限りお客さんはガラガラですね。通りもぜんぜん人が歩いていません。採算がとれている店はないと思います。

ボクモはなぜ「2」にしないか。もちろん採算がとれないのはありますが、それは「1」も同じことで、飲食店が急に持ち帰りやデリバリーをやってちゃんと儲けを出すなんてことはほぼ不可能です。飲食店の経営の成り立ちと、持ち帰りやデリバリーの店の成り立ちはまったく違うからです。つまり「1」と「2」、どっちを選択しても赤字です。

でも「2」にしなかったのは、スタッフと僕の健康のためです。その健康は心も含みます。 毎日のように新しい情報が出てきます。人によってその情報の受け取り方はぜんぜん違います。僕の家庭では、奥さんや娘は僕からするとかなりナーバスに見えた時期があって、それがもとで言い争いになったこともありました。そういう認識のズレからくる争いは世界でたくさん起こっていると思います。そして、当然ですが、スタッフにも人間関係があります。例えばスタッフ自身は営業する気があっても、家族が「あんたの職場、まだ閉鎖しないの?」って言うかもしれません。そう言われたら、確かにヤバいかもって思うでしょう。僕がスタッフなら思います。だから、とりあえず、「いろんな人が一つの空間で、長い時間滞在するという職場ではないですよお母さん」と僕は胸を張って言える必要がある。別にお母さんに限らないですが。僕は僕で、自分の家族に「ちゃんと三密にならないようにこうやってるよ」と説明できなければいけない。うちの店で飲んで食べてしていただくことに、時短であっても、今僕は胸は張れません。だから飲食の営業はやめました。

そして僕が「3」にしなかった理由は、休業しちゃったら、お客さんとのコミュニケーションが途絶えてしまう。それが嫌だったからです。せっかく11年近くこの場所でやってきて、顔と名前と性格と好みの味がわかるお客さんがたくさんいるんだもん。休んだらそういう方と顔を合わせる場所がなくなってしまう。それはとても寂しいです。お客さんの中にも、たいへんな思いをしている人がいっぱいいます。そういう方と、たまにあって(一瞬だけどね)、お互い頑張りましょうと言い合えるのは、細々とでも何かを販売する場所をつくるのがいいと思いました。

そして「3」にしなかった理由はもうひとつあります。それは「挑戦する気持ちを失ってしまうこと」がいちばんダメだと思っているからです。

今回、いよいよヤバいとなったとき、シェフは「お弁当でもなんでもやりましょうよ。僕、なんでもやりますんで。」と言ってくれました。サトミは店内のレイアウトを考えたり、シモジマで容器を買ってきたり、SNSの活用の仕方を考えてくれたりしました。

前向きなんです。この店でまだ挑戦しようと思ってくれているんです。とても嬉しい。小さな飲食店は、そういう個々のやる気がすべてです。それがなくなったら終わります。

だから今回、僕は僕で考えられる最大限の力で、お弁当屋さんにチャレンジしてみようと思いました。まず、期限付酒類小売販売免許を取りに行きました。これでお酒が瓶ごと売れるようになった。スーパーやコンビニのワインじゃ物足りない人もいるだろうから、ソムリエのいるワインショップは需要があるかもしれない。

そして、外で掲示するポスター、チラシ、スタンプカード、特典のお食事券、ステッカー、いろいろ作りました。知り合いに助けてもらって、ネットでテイクアウトの情報を出しました。会えないお客さんと時間を共有するためにZoom飲み会も2回開催しました。

そうして1週間が経ちました。

結果、やってよかったです。今のところ。

もちろん、飲食店営業のときの売り上げには遠く及びません。ですが、僕にとっては「難局をみんなで乗り越えようとしている今」は精神的に悪くない。シェフも、これまでレギュラーメニューでやってなかったメニューをお弁当用にバンバン作ってくれています。かっこいい。サトミもどうやったらお客さんに情報が届くかを日々考えてやってくれています。

経営者の仲間も、お世話になっている業者さんも、お弁当を買いがてら、助成金や融資の情報を教えてくれたりしています。ありがたいです。Zoom飲み会では、わざわざボクモでワインとお弁当を買ってから自宅に戻って参加してくださった方も多かった。東京や札幌やアメリカやニュージーランドとも繋いで情報を共有できた。ありがたいです。

そんなこんなで僕は、次に向かうべき方向を前向きに考えることが出来ています。どの方向かはまだ具体的には言わないですが、とりあえずやる気は満々だということだけはお伝えします。お金問題もぜったいに解決してやるもんね。

え?精神論に終始してるって?

そうです。僕はそういうやつです。

スタッフ、お客さん、お世話になってる方々。いっしょの人が楽しいのがいちばん楽しいのです。店舗をたくさん作るとか、物理的な展開にはまるで興味がありません。幅じゃなくて、奥行きを求めたい。それが改めて認識できたのだけはよかったな。コロナめ。

 

最後に。

 

お弁当を買いに来てくださった皆さん、ありがとうございます。

ワインを買いに来てくださった皆さん、ありがとうございます。

買わずとも気にしてくださっている皆さん、ありがとうございます。

僕らは、きっとまた「こんな面白いこと、どうだー!」って、やります。

ボクモを使って発表してくれているミュージシャン。

トークイベントをやってくれる人。

場はつぶしません。復活したらまたいろいろやりましょう。

 

それまでは、どうか、みんな、元気で。

 

「4」が来る日までは、ずーーっと前向きでいるつもりです。

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この記事の筆者

岩須
岩須 直紀
ニュージーランドワインが好きすぎるソムリエ。
ニュージーランドワインと多国籍料理の店「ボクモ」(名古屋市中区)を経営。ラジオの原稿書きの仕事はかれこれ29年。好きな音楽はRADWIMPSと民族音楽。

一般社団法人日本ソムリエ協会 認定ソムリエ

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ボクモワイン代表 岩須直紀

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