※前回の続きです ▶ ブレナムで南無
ブレナムの街で2泊したのは安いモーテルでした。
部屋の入り口のドアは立て付けが悪く、カギも簡単に壊せてしまいそうなチープなもの。隣の部屋にはどこの国から来たのかわからない季節労働者らしい人が滞在していました。治安の良いイメージの国で、こんなところもあるんだ、ちょっと物騒だなと感じました。
隣の労働者は、朝早くにもういなくて、夜に汚れた作業着で帰ってきました。話し声も聞こえず、近くのスーパーで何かを買って部屋で食べているようでした。なんだかテンションが低い。
でもよく考えたら、どこの国であろうと、安宿には安宿に泊まる理由のある人たちが集まる、ただそれだけのこと。僕だってなるべく安くワイナリーを回るために安宿に泊まる必要があったわけで。
レストランには行かず、近くのスーパーでかろうじて売っていたうどんを買って、部屋についているキッチンで調理しました。これは、今まで食べたうどんの中でいちばんまずかった。
だからと言って「なんだこのうどんは!」と騒ぐわけでもなく、黙々とまずいうどんを食べました。テンションは当然低かった。きっと、隣の労働者からすると、こっちの方がなんだか気味が悪く思えていたかもしれないですね。
さて、宿ではあんまり良い思い出のないブレナムですが、ひとたび車を走らせれば、別世界が広がり、気分は高揚します。
そう、ブレナムを含むマールボロ地方はニュージーランドの巨大ワイン産地。走っても走ってもぶどう畑が続くその光景は、実に美しい。特に訪れたのが秋(3月)だったので、収穫を目前に控えたぶどうがたわわに実っているのが見えると、自然と「うひょー」と声が出ます。
「なんだこのうどんは!」は出なくても「うひょー」は出ました。
最初に訪れたワイナリーは、名門であり大手のウィザーヒルズです。貴族の邸宅のようなエントランスがかっこいい。お金がかかっています。
屋外にそびえ立つステンレスタンクはかなりの数。これは規模がでかい。「ニュージーランドは家族経営のワイナリーの国」という概念が覆ります。やはり巨大産地のマールボロには、巨人がいました。
案内してくれたガイさんは、ウィザーヒルズの広報担当です。大きい会社だから広報の担当者がいるんですね。ガイさんはその名の通りナイスガイで、ものすごく聞き取りやすい英語で身振り手振りをつけて案内してくれました。優しくてかっこいい。
まずは、見学者用のビブスを着用し、畑へ。ちょうど収穫の時期だったので、大規模農園のぶどうの収穫の様子を間近で観ることが出来ました。
これが機械収穫。でかい。トランスフォーマーか。
こんなに大きな機械を使うんだ。ガイさんはこれを「シェイキングマシーン」と言いました。
マシーンは、ぶどうの樹の列を1列挟んでゆっくり進みます。進みながら挟みこんだぶどうの樹をゆらす。ぶるぶるとシェイクしまくります。そうすると完熟したぶどうの粒だけが落ちる。それをキャッチしてマシーン胎内に取り込むのです。凄い!
マシーンが通ったあとのぶどうの樹を見ると、本当に未熟なぶどうはまだ枝に残っていました。ふと昔、柿の木を揺らして身を落としていたのを思い出します。なるほど確かに堅い実は落ちずに、食べ頃の実が落ちてきた気がする。
その「完熟した果実は揺らせば落ちる」というポイントに着目してこんなどでかい機械をつくる人がいるってのがすごい。ワイン産業奥深し。
そして、シェイキングマシーンは胎内に溜まったぶどうの粒を相棒の「バケツマシーン」に渡します。だばーっと特大バケツに収穫物を入れ、バケツマシーンはそれをワイナリーに運びます。
ワイナリーでは選果が行われます。シェイキングマシーンでは過熟な果実や傷んだ果実も入るため、ワインに適した健全なものだけを選びます。
この選果のマシーンもまたすごかった。ベルトコンベアに置かれた果実は、選果マシーンを通ると、不良と優良に瞬時に分けられて、優良なものだけワインにまわされます。
どういう仕組み?とガイさんに聞いてみると、センサーで粒を識別し、不良なものにエアを吹き付けて飛ばしているんだとのこと。
普通の選果は、何にもが選果台にたち、人力でこれはいい、これはだめと選ぶものですが、この選果マシーンを使えば、とんでもないスピードで正確な選果ができるってわけです。ガイさんは笑顔ですごいだろう?と言う。
すごいとしか言えない。
そのあとは、発酵タンク、熟成タンク、出来上がった赤ワインを詰める樽などを見学させていただきました。どこも非常に衛生的で、人が通ったあとには水で洗い流して菌の繁殖を防いでいます。
ウィザーヒルズは、まだ新しいタンクを新設しているというので、もっと生産量をあげてくることでしょう。日本にももっと入ってくるかも。日本ではメルシャンが取り扱っているので、ネットで買えると思います。また、気になった飲食店の方はメルシャンに問い合わせてみてください。
お土産にいただいたワインをブレナムのモーテルに戻って試飲します。
ソーヴィニヨンブランは、非常にピュアな柑橘系の香りが強い。これぞNZSBというフルーツ感の強い味わい。旨みも強い。
シャルドネは、樽のリッチな香りとパッションフルーツの香りが同居していて、まろやかな味わい。
ピノノワールは、ブルゴーニュに比べると色合いがずっと濃く、カシスやブラックベリーのフルーツが前面に出つつ、樽のスパイシーさが余韻を長くしている。
どれも、大自然から連想されるフルーツのニュアンスがしっかりと感じられるワインでした。
ウィザーヒルズを見学した感想まとめ
- マールボロは世界に誇るワイン産地だけあって、大企業が大規模にやっているワイナリーがあると知った。
- 収穫用のマシーンや選果のマシーンなど最先端の技術を導入して、大量生産を可能にしている。
- 全体を通して「工場見学」という言葉がぴったりくる体験だった。
- 大規模ワイナリーは、見せてなんぼだなあと思った。 エントランスや貯蔵庫をはじめ、見学できる場所が整備されていると、そのワイナリーへの印象はとてもよくなる。
- 案内役のガイさん、まじでナイスガイ。 もてなしの精神を感じると嬉しいのは、どこでも同じ。ワイナリーでいい体験をしたら、一生そのワイナリーの熱烈なファンになることだってあると思う。作る+見せる+もてなす。大事だな。
次回は、がらっと変わってマールボロの小さな生産者「グレイワッキ」の訪問記をお届けします。