その夜の大発見

私の日常は、あなたの非日常。

店をやっていると、そんな気分になることがあります。

店は僕にとっては毎日行く職場。でも、お客さんにとって、店で外食するいうのはやはり日常では味わえない体験をしに行く場所(の場合が多いと思います)。

僕らの日々やっている仕事は、誰かにとっての特別な時間になる可能性がある。遠方から来た方にとっては、うちの店で過ごした時間が「名古屋での思い出」になるかも知れない。

そう思うと、身が引き締まります。

今週、特にそんな気分になりました。

 

SNSで知り合ったニュージーランド在住の日本人の方が、はるばるボクモに来てくださったのです。

セントラル・オタゴのワイナリーで働くToshiさんというその方から、日本に旅行に行き、ボクモに寄りますという連絡を頂いたのは数ヶ月前。

SNSでしか知らない、しかも1万キロ以上離れた海外に住んでいる方と会うというのは、僕にとっては初めての体験でした。

Toshiさん曰く、今回の日本の旅のメインの目的がボクモに来ることだと言っても過言でない、と。なんとありがたいことでしょう。

そして当日、Toshiさんは友人のニュージーランド人Angelaさんといっしょにボクモにご来店。

SNS→リアル対面を経験した方にはわかると思いますが、面白いもんですね。なんだか、輪郭しかわからなかった人の表情が見えた、みたいな感覚になりました。

お土産も頂き、話は弾みに弾み、あっという間に時が過ぎました。

しかしToshiさん、とっても自由な方で面白かった。途中から、Angelaさんそっちのけで、飲みに来たボクモワインスタッフ佐藤の隣に移動して、盛り上がっておりました。「AngelaはAngelaで楽しめば良いんだよ」って。

結果、Angelaさん、カウンターでぽつーん。でも、これが僕にとってはラッキーでした。カウンター越しに、拙い英語でニュージーランドの街の話や食べ物の話、それから日本を旅してみてどこがよかったか、何を食べたのか、いろいろお話をうかがうことができて、非常に興味深かったです。

中でも特に印象的だったのは、「日本の文化には多様性を感じる」と仰っていたことです。

沖縄、長崎、京都を経由して名古屋に来たそうですが、彼女にとって、建物や食事など、それぞれの場所でぜんぜん違った印象を持ったようです。地方によってあんなに違う個性があるのだと知って驚いた、と。そして、それぞれの場所に独自の歴史があると知って、さらにワンダフルだ、と。

なるほどなあ。

多様性。独自の歴史。そこが驚きやワンダフルのポイントなのね。

ボクモは開業14年。まだ独自の歴史って言うには浅すぎる。でも、人によっては「名古屋なのにニュージーランドって、そんな多様性も面白いね」って言ってもらえることもあるのかも。もっとこの個性を深掘りしていかなきゃな。

 

「Have a nice trip!」とお見送りしてからちょっと経って、AngelaさんはGoogleでボクモに口コミを書いてくれました。

「What a great little find . Your place is very nice with a great selection of NZ Wines . Food was also very yum . Thanks for your hospitality.」

わお、ありがたいです!

彼女にとって、初めての名古屋が良い印象になったのならば、本当に良かった。

この経験に自惚れることなく、また誰かの非日常のお役に立てるよう、コツコツやっていこう。

 

そう、「旅が人生を豊かにする」とはよく言いますよね。

でも、自分が旅しなくても、旅人に触れることで、豊かな気持ちにさせてもらえることもある。それが、その夜の大発見でした。

 

 

この記事の筆者

岩須
岩須 直紀
ニュージーランドワインが好きすぎるソムリエ。
ニュージーランドワインと多国籍料理の店「ボクモ」(名古屋市中区)を経営。ラジオの原稿書きの仕事はかれこれ29年。好きな音楽はRADWIMPSと民族音楽。

一般社団法人日本ソムリエ協会 認定ソムリエ

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ボクモワイン代表 岩須直紀

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