機械が意志を持つ

ソムリエブログ

毎日カウンターでいろいろなお話をしています。

最近よく出てくる話題はAIです。

Chat GPTを実際に仕事に使っている方の話とか、とても興味深いなと思って聞いています。

そのうち、SFで描かれてきたような、機械が意志を持って、人間に指示をする時代になっても全然不思議じゃないですよね、なんていう話になったり。

そうそう、そんな「機械が意志を持つってこんなことか」という体験を、ついこの間しました。

 

わたくし、長年乗っていた車を買い換えることにしました。

息子が産まれる直前に買って、子どもたちの成長とともに、ずっと岩須家にいた存在です。家族で行った毎年のキャンプの思い出は、あの車とともにあります。

しかし、ここ数年は妻から「いつまで乗るの?」と言われていました。

たしかに、ファミリーカーとしてはちょっと大きめのサイズ。燃費はよくない。税金も車検代も高い。

あんなに毎年必ず行っていたのに、今は

「どう?キャンプに行かない?」

「ひとりで行ったら。」

です。

とほほ。子の成長は、親を寂しくさせます。

そして今は、近所の買い物がメイン。

ならば、妻の言うとおり、あんなに大きな車を持っている必要はないです。

でも、気に入ってるんだよな。フォルムも、乗り心地も申し分ない。道行く車を見ても、ああ、次はあれに乗りたいなあとか思わない。それくらい愛着があります。なんせ16年乗っているので。僕にとっては、移動する道具という存在を超えた存在なのです。

ただやはり、妻の意見は的を射ています。ガソリンを入れるたびに、税金の納付書が来るたびに、車検が来るたびに、ああ、こいつを維持するのって大変だな、と思ってしまいます。

そして、これから恐らくあちこちガタがくるでしょう。そのときの修理代も考えると・・・やっぱりそろそろ潮時かも知れない。お別れしなくてはいけないんだな。

そう思って、去年の夏くらいから真剣に買い換え候補を探しました。

 

ちなみに私、車は輸入車じゃなく、国産車にこだわっています。

なぜなら、大学生の頃、友人にこう宣言したから。

「たしかに輸入車は格好いい。でも自動車って、日本が世界に誇る立派な産業なんだぜ。だから俺は、まず国内の全メーカーを一周して、その良さをしっかりわかってから、輸入車に乗るんだ。」

・・・今考えるとかなり謎なマイルールです。

今、ワインはニュージーランドにこだわっているくせに、なぜ車は国産なの?

国産メーカーを一周するってことは、日野やいすゞも乗るの?

など、ツッコミどころ満載ですが、あの30年近く前に宣言したマイルールを破るのが、なぜかちょっと気持ち悪い気がしてしまうのです。

なんというか、昔のちょっとヘンだった自分も大事にしてやりたい、とでも言いましょうか。

で、大学生の頃乗っていたトヨタからはじまり、ホンダ、マツダと来たので、次は日産かな、と思っていました。

が、そこで妻がひとこと。

「うんと小さいのがいい。できれば軽。」

えー、軽か・・・

でも考えてみれば、娘が大学に入り、これから免許を取るとなると、軽デビューってのも良いかもな。遠出するときはレンタカーを借りればいいし。

そう思って、結局、日産ではなくスズキの軽に買い換えることにしました。マイルール遵守。

そして先月。

岩須家のお墓のことで岐阜に行く用事がありました。

きっとこれが16年連れ添った相棒との最後のロングドライブだな。今日は楽しもう。

そう思って、エンジンをかけようとしました。

・・・しかし、かからない。

えー!

これ、聞いたことがあるやつ!

買い換え直前に、車がだだをこねるっていうやつ!

これまでほとんどトラブルなしで16年間いっしょにやってきたのに、最後のロングドライブ前に、そうくるか・・・

JAFに来てもらった結果、単純なバッテリー上がりだったのですが、それにしても、このタイミングって。

そして、新しい車の納車前日。

いよいよ本当のお別れだな、最後にちょっと離れたスーパーに行こうと思い、いつも通り、カードキーの解錠ボタンを押しました。

が。

・・・鍵が開かない!反応しない!

えー!!!

最後にもう一回、だだをこねますか、君は!

としか思えませんでした。

結局、鍵のボタン電池の寿命が切れていただけだったのですが、それにしても、なぜこのタイミングなのさ。

「この車、いろいろ思い出があるよね。」

「キャンプの時は、ルームミラーで後ろが見えなくなるくらい、いっぱい荷物を積んで行ったなあ。」

「石川の千里浜海岸の砂浜、この車で走ったね。」

「あれは気持ちよかったなあ。」

そんな車内の会話を聞いていたのだな、君は。

そして、役目を終えて売られていく、ドナドナな気分になっていたのだな、君は。

最後の最後に、君が意志を持っていることを知りました。

 

たまたまバッテリーが上がって、たまたま電池が切れただけ。

事実だけ見ればそうなんですが、そこに意味を見出すのが人間です。解釈するのが人間です。

意志を持たないはずのものに、意志を感じる。そういう心の動きって、AIには理解できないんじゃないかな、なんて思いました。

ボタン電池を取り替え、ピッと音が鳴ってロックが開いた瞬間。

長い間ありがとう、の気持ちがこみ上げてきました。

岩須さんの車

この記事の筆者

岩須
岩須 直紀
ニュージーランドワインが好きすぎるソムリエ。
ニュージーランドワインと多国籍料理の店「ボクモ」(名古屋市中区)を経営。ラジオの原稿書きの仕事はかれこれ29年。好きな音楽はRADWIMPSと民族音楽。

一般社団法人日本ソムリエ協会 認定ソムリエ

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ボクモワイン代表 岩須直紀

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