以前は、ワインと料理の相性が良いときに、マリアージュ(Mariage:仏語)という言葉をよく使いました。
しかし、最近はそれほど聞かなくなりました。ちょっと前に受けた日本ソムリエ協会のセミナーでも、講師の方は「今はサービスの現場でマリアージュという言葉はあまり使わなくなっています」と言ってました。
マリアージュ=結婚。
料理とワインが結婚するほど相性が良い、という比喩表現。しかし、今や、幸せに生きている独身の方がとても多い時代です。それに、結婚しても離婚する人も多いです。
つまり、結婚こそが素晴らしい組み合わせの象徴であるとする価値観は、この時代にはそぐわないということなのでしょうな。
その代わりに使われるようになった言葉は、ペアリング(Pairing:英語)です。
ペアリング、と日本語でググると、ずらっと「ペアの指輪(Pair Ring)」が出てきますが、それじゃないです。
動詞のペア(Pair)=「ペアになる」に、ingをつけて現在分詞にしたのがPairing。「ペアになること」です。
つまり、あるものとあるものが一対になること、という単なる現象を指しているだけ。それが良いとか悪いとかの、主観は入っていません。
だから、使うときも、「このソーヴィニヨン・ブランとサーモンは、なかなか良いペアリングですね。」となります。
マリアージュよりも、ニュアンスがちょっと軽いんです。
マリアージュって、赤い糸で結ばれた強い絆感が出ますよね。添い遂げるべき相手、みたいな。
それに対してペアリングは、「私たちって、たまたまご紹介いただいて、一時的にマッチした間柄よね」と、軽く手を繋ぐ感じ。
例えるなら、フォークダンスで、たまたま巡ってきた女子と手を繋いだら、「あら、なんかしっくりくる」となった感じ。そんな経験ないけど。
つまり言いたいのは、マリアージュだとガチッとした正式な結びつきを連想させるのに対し、ペアリングは、相性の良さのグラデーションがあってよいニュアンスが含まれるってこと。
実際、ワインと料理をあわせてみたとき、伝統的に「これとこれはあうはず」とされている定番の組み合わせが、自分にとってはそれほど魅力的に感じないこともあると思います(僕はまあまああります)。
逆に、セオリーからするとそんなに相性が良くなさそうでも、「いや、これは自分にはしっくり来るぞ」というペアだってあります。たまに、意外な組み合わせが感動的にぴたっとあうこともあります。
そう考えると、たとえば店側が「当店のラム肉とピノ・ノワールの【マリアージュ】をお楽しみください」と言ってしまうと、ともすると、ちょっと押しつけがましいニュアンスが出るかもな、と思います。
お節介な近所のおばさんが「ラム男くんとピノ子ちゃんなら間違いない。誰が何と言おうと絶対にうまく行くわよ!」って決めつける感じ。
そうじゃなくて、「当店のラム肉とピノ・ノワール、きっと楽しい【ペアリング】になると思います」くらいにしておけば、あくまで店側からの一提案ですよっていう、ふんわり感が出る。
グループ交際の中で、「僕は、ラム男くんとピノ子さんって、もしかしたら一緒に楽しく過ごせるかもって思うんだよね。」みたいなことを言うヤツ、みたいな。真剣に受け止めることもできるし、笑い飛ばすこともできる、ってな感じかな。
どうでしょう。伝わりづらいかな。伝わりづらかったらごめんなさい。これ、あなたと僕のペアリングが試されるやつですね。
さて、なぜ、そんなチマチマしたマリアージュとペアリングの違いなぞを考えているかというと、実はボクモで「料理とそれにあわせたワインがセットになったコースメニュー」をやってみようということになったからです。
実はここ最近、お客さまからの「あうワインください」のオーダーが多いのです。
「牛ホホ肉の赤ワイン煮込みにあうワインをください」みたいな感じでワインを頼まれる方、増えています。「せっかく外食するなら料理とワインのハーモニーを楽しみたい」というニーズが増えていると感じます。
ならば最初から最後まで、コース料理にあわせるワインを提案するパターンもあってもよいのかも?と思い至ったわけです。
というわけで、来週からボクモでこんなのをやってみます。
「NZワイン4杯 ペアリングコース」
- Appetizer1:ギリシャ風サラダ&生ハムの盛り合わせ
- Appetizer2:NZ産マッスル(ムール貝)のパン粉焼き&スパイスにらオムレツ
- Pasta:ラム肉のトマトソース ペンネ
- Main:ボクモ名物 NZ産ラムチョップステーキ
- Dessert:NZ産アイス ホーキーポーキー&三河みりんのお米アイス
こちらのコース料理にぴったりだと私岩須が思うNZワインを4杯、料理とペアでお出しします。
例えば・・・Appetizer1にはソーヴィニヨン・ブラン、Appetizer2にはピノ・グリ、Pastaにはピノ・ノワール、Mainにはシラーをあわせる、みたいな提案をいたします。
ただ、やっぱり「こちらの提案するペアよりも、お客さまの好きなものを優先したい」と思うので、お好みに応じて、例えば赤ワインが得意でない方には、ぜんぶ白のペアもおつくりしようと思います。
甘口も好きな方には、デザートにあわせる甘口ワインも用意してみようかな。
脳内でオクラホマミキサーをかけて、あの子とあの子が手を繋いだら面白いことになるかも、むふふ、なんて妄想しながら組み立てたいと思います。