年末年始で6キロ減

ソムリエブログ

みなさんお元気でしょうか。

僕は、今は元気です。ようやく。

実は年末年始、体調を崩していました。

うまく言えないのですが、消化器の大部分がストライキを起こした感じ、とでも言いましょうか。あんまり物が食べられず、体重が6キロ減りました。

6キロというとずいぶんに聞こえますが、実際はガリガリになったわけではなく、ちょうど良くなった感じです。

そう、コロナ禍で、出かけてカロリーを消費する機会が減ったものの、食への探究心は減らず、摂取カロリーは増え、ぶくぶくと太りつづけておりました。恥ずかしながら、去年後半は過去最高スコアの更新を続けていたところだったのです。

そこへきての6キロ減。コロナ前に戻っただけ、と相成りました。

しかし、友人のパーソナルトレーナーにその増減のあらましを言ったら、「その減り方だと、減ったうちの半分は筋肉だよ」と冷静に宣告されました。まじか。

そりゃそうか。贅肉だけ都合良く切り離せるわけないか。

いかんぞ、これじゃあどんどん弱い体になっていっちゃうぞ。

という僕の不安顔を察してか、その友人が助け船を出してくれました。

「良かったら、うちの会社の新人研修がてら、モニターやってみない?」

おお、渡りに船。ありがたく乗船させていただきます。

そんなわけで、今月からわたくし、生まれてはじめてパーソナルトレーニングジムに通うことになりました。

さて、どうなることやら。

 

ちなみに、体重がぐんぐん減っていった3週間くらいは、ちっともお腹が空きませんでした。

今は薬が効いてきて、少しずつ回復し、ああそうだ、空腹感ってこんな感じだったなあとようやく思い出してきました。

デブ期にはうっちゃれなくて煩わしい存在だった空腹感も、食べられない時期を経た今では、ちょっとだけ愛おしく感じます。

 

しかし、この年末年始は、食欲がないどころか、痛みで震えている時間がまあまあありました。正直しんどかったです。

痛くてふとんで寝ているとき。

ああいう時間は、思考があらぬ方向へと転がり始めます。

僕は、日頃からラジオの仕事で、さまざまな人の人生について調べています。

たとえば歴史に名を残した偉人。たとえば広く知られてはいないけれど、ある界隈ではヒーローと呼ばれた人。

調べてみると、どの人も、きらきらと輝いている時間もあれば、陰に入ってしまう時間もある。

そして、最後は全員、命の時間が終わる。

その人生の一部である輝きや陰を誰かが書きしるす。そして、その書かれたものを頼りに、その人を残された人が解釈する。

そうやって、ひとりの人が生きた証は、人生そのものから切り離されて、こちら側に残る。しかし、やがて、その切り離された証も、消えてなくなるだろう。

そうだ、こうしてふとんの中で痛んでいる僕も、そろそろ世界から切り離されていくのかもな。

どうだろう、何か少しの間は残るのものがあるのかな。でも、証がどう残るかなんて、こちらは何もコントロール出来ない。

そしてその証も、良きにつけ悪しきにつけ、いずれは消えてゆく。時間が経てば、みんなみんな、きれいさっぱりさよなら、だもんな。

僕のさよならのタイミングは、いつかな。もしかしたら、明日かな。もうちょっと先だといいけれど。

でも、終わりがもうすぐ来ると診断されたら、やっぱりきついよな。

きついとは言っても、こちらの都合とは関係のないタイミングで、終わりは来る。それは仕方がない。仕方がないけれど、割り切れはしない。

ぐるぐるぐるぐる。

ああ、そうだ。やばい。体調がどうであれ、原稿の締め切りはやってくるんだった。

薬を飲み、キーボードにしがみつき、えっちらおっちらでも書かねば。

そんな正月。・・・なかなかしっかりと病んでましたね。

 

そして年明け、誕生日の1月5日。病院での検査の日。

横になった顔の穴という穴から液体が流れ出すのを感じながら、胃カメラのモニターに映るピンク色の我が内臓を見ます。

「大丈夫、ちゃんと薬飲めば治るよ。」と先生。

ま、まじですか、、、よかった、、

診察室を出る僕に、先生はにこりと笑って言いました。

「ハッピーバースデー。」

ヒーローか!

もうね、心底ほっとしました。

世界に戻ってきたんだ。なんだ、戻ってこられたんだ。よかった。

やっぱり、悪くなる前に掛かって、もっと早く薬をもらっておけば良かった。反省です。

そして、この世のみなさん、僕をまだ切り離さないでくれてありがとう。そう思いました。

 

今、食事は徐々に通常モードに近づけてこられています。ただ、まだワインは飲めていません。

そうです。1ヶ月も相棒のワインを遠ざけてしまっているのです。

奴は、僕を切り離さずにいてくれているだろうか。待ってくれているだろうか。少し心配だな。

そう思って、年明けの営業で、香りを確かめながら注ぎました。

こ、これは!

香りの粒が大きい。実際に粒なんて目に見えないけれど、そう感じる。

ワインの中に入っているさまざまな果物の香り、そして果物以外の香りの大きな粒が、勢いよくこちらに飛んでくる。

そしてその粒は、鼻の奥にびたーっと張り付いてくる。

日々だらだらと飲んでいたときよりも遥かに、豊かに香りを感じます。

これだけで酔える。気がする。

よかった、よかった。僕とワインはまだ繋がっているんだと思い、安心しました。

実際の口に含むテイスティング再開は、処方された薬を飲み終わる来週くらいになると思います。

復帰後最初は、どのワインにお手合わせをお願いしようか。手を繋いで、再びあちらの世界に連れて行ってくれるのは、どのワインかな。

それを考えると、今からちょっとドキドキします。

 

と、この顛末を書いている今、ラジオ制作の事務所から電話が。

「岩須さん、今週の原稿3本のうち2本しか届いてないですけど。」

「・・・え!あ!しまった。もう書けてます、今から送ります、スミマセン!」

ふとんの中で書いた原稿、送信するの忘れてた・・・

ごめんなさい、次から忘れないようにしますので、切り離さないでおくれ。

この記事の筆者

岩須
岩須 直紀
ニュージーランドワインが好きすぎるソムリエ。
ニュージーランドワインと多国籍料理の店「ボクモ」(名古屋市中区)を経営。ラジオの原稿書きの仕事はかれこれ29年。好きな音楽はRADWIMPSと民族音楽。

一般社団法人日本ソムリエ協会 認定ソムリエ

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ボクモワイン代表 岩須直紀

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