仕事は、どうせ失敗する?

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「岩須さん、私、最近、仕事がぜんぜんうまくいかなくて悩んでるんです。転職した方がいいのかなあ。」

カウンターによくいらっしゃる20代の女性がそう言いました。

そっか。それは困ったなあ。

そのお悩みを聞けば聞くほど、その方の今の境遇と、自分の人生があまりにも違いすぎて、僕には何も言えないなあと思いました。

で、そのあと、家に帰る地下鉄に乗っているときに、ふと、ある言葉が僕の頭に浮かびました。

『「仕事は、どうせ失敗する」と思っておいた方が良い。』

これ、経済学者の楠木建さんが著書「絶対悲観主義」で言ってることです。

SNSを毎日見ていると、発信者がキラキラ輝いているように見える。

それに活力をもらって、自分も頑張ろうと思う。でも現実は、そのキラキラには到底届かない。

自分はダメだと落ち込んでしまう。

そんな人は、「仕事なんてどうせ失敗するものなんだ」と思っておいた方が良い。

失敗が前提ならば、実際に失敗したときにダメージを受けることなく、淡々と仕事ができる。

たまたまうまくいったときには、喜びがぐんと高まる。

だから、基本を「悲観」に置いておけば、うまく行くこと多い。

そう提言しています。

これを見たとき、なるほどな、と思いました。

 

僕は社会人になって20数年。楽しいことも多かったけれど、数々の失敗もしでかしてきました。腹を立てることも間々あり、そのせいで落ち込むことしばしば。

そういう感情の乱高下があったとき。

「人に腹を立てるのは、その人に期待しているから」という考え方を知って、すこし気持ちが楽になったことがありました。

はなから期待しなければ、腹も立たない。だから期待せずに、自分のやるべきことを淡々とやる。それでうまくいけばラッキーじゃん。

今思うと、まさにこれが悲観主義ですね。

でも、現実はそう簡単にはいきません。急に予期せぬことが降りかかってきて、腹を立てることもあります。人間だもの。

めちゃめちゃショッキングなことが起きたとき、平気な顔で「悪いことが降りかかってくるのくらい当然だ。なんせ人生の基本は絶望なのだから」なんて、とても言えません。

言えたら、向いてる仕事はソムリエじゃなくて、お坊さんです。

 

ただね。僕もちょっとはお坊さんに近づいたかなという時も、たまにあります。

例えば、13年店をやってきて、これくらいのことでは腹を立てることはなくなってきました。

  • 泥酔したお客さまがワイングラスを割る
  • トイレに閉じこもって出てこない
  • カウンターで隣の女性が嫌がっているのにしつこく誘う

やっぱり、経験は人を強くします。何回か「ムムっ」という経験をすると、「平和に営業が終わる」という期待を捨てて、「最悪こうなるかもな」と察することができるようになります。そして構えをとることができます。

例えば、ベロベロの方がいらっしゃったとき。ボクモはワイングラスの中にランクがあるので、2軍か3軍の選手を選び、なるべく手元から遠いところに、にっこり配置します。

そして、今日は割れるぞ、消耗品なので仕方ないと腹をくくります。これで、だいたい腹は立ちません。

トイレに閉じこもった方は、お連れ様になんとかしていただくしかない、しゃーない、しゃーないと思います。もちろんどうにもならないときは、警察のご厄介になる選択肢も頭にあります(実際になったこともあります)。

嫌がるのにしつこく誘う方はね。以前はたまにいらっしゃいましたが、今はほぼゼロになりました。でも、コロナからの復活でそういう方の活動も復活になるのかなあ。

あ、これ、しつこい系だなと思ったときにどうするか。店によって色々やり方があると思いますが、僕の場合は秘策があります。うひ。これ、また別の機会に書きたいと思います。

というわけで、ボクモ店内では「仮に悲観的な方に進んでも、まあ想定内です」という余裕が、今は、ちょっとはあります。

でもこれ、悲観主義に基づいているというよりは、経験値が上がって対処法がわかるから、特に焦らなくなっただけなのかも、と思います。

本当は、ボクモ店内だけじゃなく、いつなんどきでも「絶対悲観主義」の考え方を取り入れて行動すれば、仮にドデカい不幸が降りかかってきたときにも、心にダメージを食らわずにすむのかもしれません。

ただねえ・・・

僕の場合、いつも悲観から入るクセをつけてしまうと、なんだか毎日が暗くなってしまいそうな気がするんです。

例えば家の中でちょっと落ち込むことがあったとき。

玄関を開けて太陽を浴びるだけで、まあいいや、今日も頑張りますか、と楽観的な気分になります。

お客さんがいなくてボクモががらーんとしちゃった日。ボクモワインのワインのご注文が入らなかった日。

「しゃあない、切り替えましょう。次は頑張るぞ」と、とりあえず声を出します。

ああ、だめだったか、と悲観モードになるとやっぱりきついです。

でも、意識的に楽観的になって、なんとかなるさって思ったら自然とパワーがでてくるもんです。

そのパワーを使って、ウンウン唸ってなんとかする方法を考えるのが、僕にはあっている気がします。

たしかにいつも悲観を貫くのは、心穏やかに過ごす秘策かも知れないです。

が、僕の場合は、楽観をうまいことブレンドして、あえて少しだけ波風を立てにいく方が、今のところは良さそうだなと思っています。

 

で、最初の「転職した方がいいのかなあ」の解は。

地下鉄に揺られながら考えたこの悲観主義の話。転職をした方が良いかどうかについては、あんまり役に立たないよなあ。

悩んでいる彼女に、「会社選びに失敗したと思っても、悲観主義に立てばそれは当然のことだよ」とか「転職したってうまくいくとは限らないよ」なんて言えない。そんなこと言われたら、きっと仕事へのモチベーションを失っちゃうよ。

そこに楽観をブレンドして?・・・いよいよわけがわからない。ああ、役立たずなわたくし。

でも、なにかお助けできないもんかなあ。

あ!

大学時代の同期にプロがいる!

キャリアカウンセラーをやっている頼もしいBちゃんがいるではないか。

連絡したら、岩須くんの紹介なら喜んで面談するよ、とのこと。

なんというありがたさ。

職のプロならば、具体的な手掛かりの見つけ方を教えてくれるでしょう。

やっぱり持つべきものは友です。

悲観とか楽観とか、人生の向き合い方について考えることも、たまには役に立つかも知れない。

けど、もっと大切なのは、信頼できる人がいるってことだなあ。

大学から20年以上、繋がってくれててありがとうね、Bちゃん!

この記事の筆者

岩須
岩須 直紀
ニュージーランドワインが好きすぎるソムリエ。
ニュージーランドワインと多国籍料理の店「ボクモ」(名古屋市中区)を経営。ラジオの原稿書きの仕事はかれこれ29年。好きな音楽はRADWIMPSと民族音楽。

一般社団法人日本ソムリエ協会 認定ソムリエ

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