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楽しませる楽しさ

やっぱり肉を焼くなら、道具が必要だ。

そう思って、まずホームセンターで焼き肉プレートを買いました。あの、穴が空いていて中に水を入れるタイプのプレートです。

そして、どうせならきちんと美味しい肉がいいと思って、飛騨牛専門店に行きました。値札を直視すると迷いが生じるのでなるべく見ないようにして、A5等級の飛騨牛を購入します。

次は、名古屋に北陸の風を吹かせるスーパー「アルビス」で、北の美味しそうな海鮮を仕入れます。そして車でボクモへ。

買ったものを冷蔵庫に入れていったん家に戻り、地下鉄で再び店へと向かいます(ワインを摂取するので)。

18時に集合すると、まずは養生を。油が飛び散っても大丈夫なように、みんなで床に段ボールを敷き詰め、カウンターや本棚にビニールをかぶせます。

そして、食材を机に並べ、いざスタート。

「最初はやっぱりA5の飛騨牛から攻めるべき!」

「シェフの秘伝スパイスをかけると、もう1ランク上がるぞ!」

そう。

その日はスタッフ焼き肉会を開催したのです。

事前にスタッフにどんなものが食べたいのかヒアリングしたところ、大学生男子は「カルビがいいです!」、静岡出身お酒好き女子は「イカをつまみに飲みたい!」と、それぞれの欲望を披露。

だったら若い男子には、白米にバウンドさせて最高にうまい肉を、海育ち女子のお眼鏡に適う海鮮を、と思って丹念に手はずを整えたのです。

結果、みんないい顔でした。ワインもぴったりすぎるくらいぴったり。ああ、楽しかった。

ところでその準備の最中、ハッとさせられることがありました。

それは、最初のホームセンターでのこと。

あれこれ物色しているときに、ふとガラスに写った自分の顔が目に入り、思わず吹き出してしまったのです。

もうね、それはそれは楽しそうに品物選びをしているおっさんの顔だったのです。おもちゃ売り場に迷い込んだちびっ子のように目をキラキラさせているではないか。

ああこれ、忘れかけていた顔だ。

僕ら飲食店は準備の仕事です。準備したものを楽しんでいただく商売です。準備を食べてもらい、準備を飲んでもらうとも言える。

普段の営業で、その肝心の準備をしているときの僕は、果たしてこのガラスに映ったちびっ子のようなおっさんの顔をしているだろうか。

こういうタイプのプレートだったら煙の量が抑えられるかな、とか。食欲くん用に、食べ出のあるソーセージも買っておこう、とか。飲み助ちゃんのアテはイカだけじゃなくて海老も要るだろう、とか。

そういう想像をしている今この瞬間が、なにより楽しい。人を楽しませる楽しさで心が満ちている。

それが毎日のこととなるとどうだ。ちゃんと想像力を働かせているか?

来て頂ける方の楽しんでいる様子を想像して、よーし、次はどんなふうに楽しんでもらおうかな、とわくわくしているか?

いや、そうでないときがある。いつものルーティンをただ手を動かしているやっているだけのときもある。集客システムのことばかり考えちゃってることもけっこうある。

それではいかんのだよ。

食べているとき、飲んでいるとき、人は自然と口にしているものに「準備の跡」を感じている。楽しんでやった準備は、きっと受け取る人にもじんわりと伝わっているのです。

だから、きちんと「この準備の結果、良い顔になってもらえるかな」と、いちいち思い描く必要がある。そして、その想像を楽しむことが、まさに僕の仕事なのだ。

僕は目の前の仕事がお客さんの喜びにまっすぐに繋がる、珍しい仕事をしている。だから日々の想像をサボってはだめなのです。

楽しませ上手な人のところに人は集まる。これは間違いのないことです。僕ももっと上手にならないと。

そんなことを再認識した焼き肉会でした。

みんなの「美味しい」の顔、今も鮮やかに焼き付いています。やってよかったな。

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この記事の筆者

岩須
岩須 直紀
ニュージーランドワインが好きすぎるソムリエ。
ニュージーランドワインと多国籍料理の店「ボクモ」(名古屋市中区)を経営。ラジオの原稿書きの仕事はかれこれ29年。好きな音楽はRADWIMPSと民族音楽。

一般社団法人日本ソムリエ協会 認定ソムリエ

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ボクモワイン代表 岩須直紀

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