とても美味しいです。
プリンを食べながら、7年くらい前の出来事を思い出しています。
彼女が初めてボクモに来たのは、アルバイトの面接のとき。
その姿に僕は驚きました。なんと高校の制服姿で現れたのです。
これまで若いアルバイトスタッフはいたけれど、さすがに高校生はいなかった。
高3女子にワインを注ぐ仕事をやってもらうのはちょっとどうかな、と思ったのですが、話してみて考えが変わりました。
「将来、管理栄養士になりたいんです。だから、飲食店で働くことを経験してみたいなと思って応募しました。」
なんてまっすぐな。その視線は僕を突き抜けて、はるか先の将来を見ているようでした。
ボクモの仲間になった彼女は、仕事をテキパキとこなしました。とにかく頭の回転が速い。相手の気持ちを察するのも上手で、常連さんからも好かれました。
高3の最後から大学生活まるっと4年間ボクモで活躍してくれた彼女。
たまに、「管理栄養士って就職先の選択肢がいっぱいあって、どの道に進めばいいか迷ってるんです。」
そんな話も聞きました。
でも、4年生で教育実習に行ってみて「自分がやりたいのはこれだ」とビビビときたそうです。特に管理栄養士の資格は必要ない仕事だけれど、子どもたちに栄養のことを教えることが面白いと思ったようで。
しかし、当初の目標だった管理栄養士の資格もちゃんと取得して(教員免許、採用試験、管理栄養士のトリプル合格ってすごいことらしい)、今は、高校で家庭科の先生として頑張っています。
ありがたいことに、社会人になってもたびたびボクモに来てくれています。カウンターで常連さんの教員の方と隣の席になったときには、バイト時代の店員とお客さんじゃなくて、同じ悩みを持つ先生同士のトークに花が咲きます。
そんな彼女。
先日、嬉しい報告をしに来てくれました。
「生徒たちといっしょにアイデアを出しあって、地元企業とのコラボ商品をつくるプロジェクトをやることになったんです。」
聞けば、授業の一環でつくった企画が、自治体が開催したコンテストで最優秀賞をとったそうで。
それが今食べている、西尾の名産品をつかったプリン。松坂屋のごちそうパラダイスに期間限定で出店していて、さっそく購入してきました。
高校生だった彼女は、時を経て、今高校生を教えている。セーラー服を着たあの日の目線は、ボクモを通過して、生徒たちを見つめている。そしてプロジェクトを指揮する頼もしいリーダーの目になったんだ。
そう思ってスプーンを口に運ぶと、なんだかとてつもない尊さを感じます。
「あいばぷりん」と名付けられたこのプリンは、西尾の饗庭(あいば)の塩田で作られたにがりを使っているそう。そのにがりで豆乳を固め、西尾の抹茶を加えたんだそう。
しかし、まったく豆乳が原料とはわからない濃密なミルク風味です。どろっとしていて、舌触りは実に滑らか。
地元のものを使って組み立てた、他にはない絶妙なバランス感。これは料理を知ってる人の仕業です。
なあに、やっぱり、管理栄養士を目指していた頃に身につけた調理の知恵をちゃんと活用してるじゃないの。素晴らしい。
食べ終わった後、ああもうなくなっちゃった、もうちょっと食べたいなと思いました。でも、余白がちょっと残るくらいの方が品が良くていいとも思います。
余白は次への期待を含みます。また次に彼女がどんなことをやっていくのか、楽しみです。