ゼロから1

ゼロから1を作ることができる人を心から尊敬します。

僕はラジオの原稿を書く仕事をやっています。今のレギュラーは月に10本くらいなのですが、そのうちの9本は資料さえ揃えることができれば自動的に書ける原稿です(もちろん切り口などの工夫は必要ですが)。

しかし1本は、資料などまったく役に立たない、何もない状態から物語をつくる必要があるのです。

これが難しい。引き受けてから5年経ちますが、今でも締め切りが近づくたびに引き受けなきゃ良かったと毎回思います。

僕はウソをつくのが下手です。

でも、物語を書くということは、ウソをつかなければいけません。

物語は、最初から最後まで、部品すべてがウソです。そのウソの部品が上手く組み合わさるとマコトになります。

ウソをつき通すのには、精妙なロジックが必要です。つじつま合わせの才能が必要です。

僕にはこれが欠けているんだな、と毎月落ち込みます。

しかし、仕事は仕事。

この仕事がやってきたのは、神様に「好きなことばかりやっていないで、苦手なこともやりなさい」と言われているんだろうな。

確かに、苦手なことを克服することで得られる達成感はあります。

でも、達成にたどり着くまでの、モヤモヤしている時間が非常に長い。物語のゴールが見つかるまでの時間がしんどい。

想像力が豊かな人は、「あ、こんなテーマで書きたい」と思いついたら、ゴールに向けてすらすらウソが出てくるんだろうな。すごいな。もしかしたら作家って、普段から息を吐くようにウソついてるんじゃないの。詐欺とか不倫とかしまくりなんじゃないの。違うか。

僕にはそれができない。ひとつのウソをひねり出すのにも時間がかかるし、そのウソを補強するためのウソもとんと出てこない。

親は、僕が正直者になるように、名前に「直」を入れたらしい。ああ、岩須嘘紀だったらもっとスラスラ書けたはずなのに。

こんなくだらんことを書いているのは、もちろん、次の原稿を一行も書けてないからでござる。

逃走はやめて、観念せよ!俺!

はい。ゼロを0.1くらいにする努力をします。

まずは、先人たちの素晴らしいウソを勉強するために、積ん読の小説を読もっかな(やはり逃走)。

 

(ちなみにこんなラジオドラマを書いています)

この記事の筆者

岩須
岩須 直紀
ニュージーランドワインが好きすぎるソムリエ。
ニュージーランドワインと多国籍料理の店「ボクモ」(名古屋市中区)を経営。ラジオの原稿書きの仕事はかれこれ29年。好きな音楽はRADWIMPSと民族音楽。

一般社団法人日本ソムリエ協会 認定ソムリエ

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ボクモワイン代表 岩須直紀

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