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作品を説明すること

「自分の作品を説明するのって難しいですよね。」

カウンターで男性が言いました。

その方は、書家として活動している方。

近所のギャラリーに作品を掲示した帰りにボクモに立ち寄ってくださいました。

「作品名と簡単な説明を書いた紙を、書の横に貼ってきたんですが、その文章、何を書いたら良いか、すごく悩んだんです。」

わかる!その気持ち、共感します。

芸術って、説明したとたんに面白くなくなってしまうことがあります。

たとえば、ミュージシャンのセルフライナーノーツ。自分がつくった曲の誕生秘話、とか、こんな気持ちで書きました、とか。好きな方もいるでしょうが、僕はあんまり見たくないです。

なぜかというと、受け取った僕の解釈が、そのミュージシャンの真意とは違ったことを知って、がっかりしたことが何度もあるから。

僕はこっちの世界に勝手に落とし込んで感動していた。でも、「その解釈、実は違います」と知ってしまった。その結果、その音楽が持つ奥行きが消えちゃった気がした。

勘違いのままの方が幸せだったのです。

でもその逆の、作品に説明が加わることで、楽しみ方が広がるパターンもあります。

僕は、絵画の場合、その時代背景と画家の人生を知って鑑賞したいタイプです。

たとえば、ゴーギャンの代表作『我々はどこから来たのか、我々は何者なのか、我々はどこへ行くのか』。

最愛の娘を亡くし、借金を抱え、逃げるように渡ったタヒチ島で絵を描き、完成したら死ぬつもりだった。その背景を知って、僕はあの絵が俄然光り輝いて見えました。

生きるってなんなのさ、死ぬってどうなのさ、みたいな苦悩。情報なしで絵を見るだけではわからなかったゴーギャンの心持ちが、闇の力となっておそろしくこちらに迫ってくるのを感じました。

ただ、よく考えたら、これもゴーギャン本人が「俺、こんなひどい状況でこの絵を描いてさあ」と教えてくれたわけじゃない。

作品が本人の手を離れてから、周りの人が説明を加えた結果、見ているこちらの心に落ちやすくなったわけです。

仮に、実際のゴーギャンが、悩んでいる風を装って、実は新しい彼女とよろしくやりながら「闇っぽい演出たのしー!」とか言いながら描いたのだとしたら(そんなわけないと思うけど)、それは知りたくない情報です。

やっぱり作家の手を離れたら、もう作品には作家本人が関与しない方が美しい。その方がこちらの想像が膨らむ。気がする。

でもなあ、もし自分が作り手なら。

自分の思っていることとぜんぜん違う解釈をされたら、むずむずするだろうなあ。ちょっとだけ説明して、想像の膨らむ方向性をアシストしたい気持ち、とてもよくわかります。

だから、書家さんが、作品の横に解説を書いておこうというのも共感します。そして、何を書いたら解釈の補助線になるのか、と悩むのもわかります。



後日ギャラリーに行って、作品と、その横の説明書きを見て来ました。

ほほう、なるほど。

それは、説明ではありませんでした。どちらかというとポエムでした。伝えたいことは特に書いていない。この作品を見た一人のお客さんがふと思ったこと、みたいな立ち位置の短文が書かれている。

なるほど、作品+作品から想起するポエムか。うまいな。解釈してもらいたい方向性をふんわり示した感じにもなるもんな。

書家さんが悩んで到達したというこのやり方、素晴らしいと思いました。これならばさりげない。

そうだ。

僕も、作品と言えるほど大げさなものではないですが、ラジオの原稿を書く仕事をやっています。

たまに見たいという奇特な方に、カウンター越しに放送原稿をお見せすることもあります。

今思えば、こういうとき、がっつりセルフ説明をしてしまっていることがあります。やばいです。

「その文章は、ええっとね、お客さまの話をタネに、自分の昔の経験とか加えて、最初の前振りを最後に回収する感じで書いてみました。」

・・・要らん。どうでもいい。作り手の事情とか、まじで知って得しないし、文章の構造の説明ってダサい。

ああ、僕の嫌いなセルフライナーノーツ、やっていたんだなあ。恥ずかしい。反省です。

ならば、僕も書家さんみたいな、ポエムっぽい感じで言えば良かったのかも。

「人って、あったかさも、つめたさも、持っているよねえ。人間だもの。」

・・・ダメだ。みつをっぽすぎる。ポエムの引き出しがスカスカで残念だ。。。

やはり僕の場合、黙っていた方がいいってことでしょうな。沈黙は金。

教訓。

送り出したものには、なるべく触らない。解釈は受け取る方に任せる。喜んでもらえたら、それを励みにする。それが美しい。



ちなみに件の書家さんは、万代学さん。奥様と「千華万香」という名前で書道の活動されています。

本職は、三重のお酒「作(ざく)」をつくっている清水清三郎商店の蔵人です。

書家と蔵人。日本の美を追究する人。一本通っていてかっこいいなあ。

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この記事の筆者

岩須
岩須 直紀
ニュージーランドワインが好きすぎるソムリエ。
ニュージーランドワインと多国籍料理の店「ボクモ」(名古屋市中区)を経営。ラジオの原稿書きの仕事はかれこれ29年。好きな音楽はRADWIMPSと民族音楽。

一般社団法人日本ソムリエ協会 認定ソムリエ

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ボクモワイン代表 岩須直紀

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