「いっしょに選ぶワインセット」の企画をやってみて

飲食店で働く僕にとって、ワイン選びのお手伝いは、日常的な業務です。

ソムリエは、バッティングピッチャー。バッターが打ちやすいところに投げて、ヒットを気持ちよく打ってもらう仕事です。

「この料理にあうワインをください」

「キリッとした辛口の白がいいんですけど」

「ちょっと重たい感じの赤がいいな」

僕は、みなさんのストライクゾーンにめがけて、「この球はどうでしょう?」と投げます。

カキーーーン!!

ホームランを打ったお客さまはニコニコ。「最高ー!」

ヒットなら、まあ及第点。「いいんじゃね。」

ストライクゾーンに入らず、「おいおい、今のは完全にボール球だぜ」ならば、ダメピッチャー。

打てない剛速球を投げるのも「裏方のお前が目立ってどうするんだ」なので、お呼びでない。

で、僕は、バッティングピッチャーを12年やってきて、打率で言うと、最近は6割くらいは、お客さまにヒット性の当たりを打っていただいている感覚があります(うぬぼれだったらごめんなさい)。

なぜか。

それはやはり、僕の店「ボクモ」が、ここ数年はずっと外に向けて「NZワインの店」という打ち出し方をしていることがいちばん大きいと思います。

うちはNZワインですよ、というメッセージがお客さんに届けば、「NZワインってどんなの?」とか、「NZワインを飲みに来たよ」というレスポンスが増えます。すなわち、「めがけて来店される」お客さまの割合が増えるわけです。

そうなれば、ご期待に添える可能性が高まります。

バッティングピッチャーで言えば、「高めのストレートしか投げません」、お客さんは「よし、高めのストレートは好きだから打ちに行くよ」。

と、野球のたとえが多すぎて、ちょっとひどいので、もうやめておきます。

つまり、ニッチであるという宣言をすれば、それを求める人が来てくれる。

だから、準備をする側は、そのニッチ好きな人が喜んでくれるものをしっかりと揃えておく。そうすれば自然と、満足度は高くなる。とんがった方が、やりやすくなるんですな。

そして、何回目かのマンボウ&緊急。飲食店やりつつ、ワインショップも立ち上げました。

「あ!ワインショップでも、同じように『ワイン選びのお手伝い』、できるかも!」

そう思って、先日実施したボクモワインのクラウドファンディングで、こんな企画をやりました。

【あなただけのNZワインセット】(2万円セット、3万円セットの2種類)

このセットは、対面 or オンラインで、僕と相談しながらワインの銘柄を決めるセットです。合計8人の方にご支援(ご購入)いただきました。ありがたや。ニッチ凄い!

相談のために、わざわざご来店いただいた方もいらっしゃいましたし、Zoomでやった方、電話の方もいらっしゃいました。

そして、昨日で8人中7人の相談が終わりました。

感想は「この企画、やってよかった!」です。

実は、飲食店では、ワインのお好みをうかがうとき、なかなか時間をたっぷりかけることはできません。他の業務もあるゆえ、タイトなラリーで即決、が基本です。「ああ、もうちょっとヒアリングしたかったなあ」と、もどかしく感じることがよくありました。

しかし、今回はじっくりマンツーマン。フェイストゥフェイス。じっくり話すことが出来るので、かなり、お客さまの趣向が掴みやすかった!

そして、今回、あらかじめ、質問リストを作っておいて、それに答えていただきながら話を進めるという方法をとってみました。これもよかった、よくやった、俺。

質問リストはこんな感じです。

  • どれくらいのペースでワインを飲みますか?
  • その中にNZワインが入ることはありますか?
  • 食事とあわせて飲みますか?
  • 和洋中、好きな食事はありますか?
  • 泡、白、赤、ロゼ、オレンジの好みを教えてください
  • 軽い、中くらい、重い、やさしい、強い、どれがいちばん好きですか?

質問が終わったら、まず、いちばん好きなジャンル(泡、白、赤、ロゼ、オレンジ)の中で、どんな特徴のワインが好みかをヒアリングをして、銘柄を決めていきます。次は、二番目に好きなジャンル。その次はちょっと冒険したいもの。そんな感じで進めました。

お薦めは?と言われたときには、好みに合いそうなイチ押しを選びつつ、対抗馬、穴馬も紹介する。やっぱり選択肢がある方が納得感が生まれると思うので。

最後の1本を決めるときには、ちょうど予算内でぴったりハマるものを提案したり、やっぱり、さっきのをやめて、ラスト2本から考え直したいな、みたいなことも度々ありました。

これって、いっしょに買い物をして、カゴに入れたものをもう一回棚に戻して考え直す感じ。ゲームみたい!

最後、ラインナップが決まると、なにか、二人でいっしょにことを成し遂げた感覚がうまれました(僕だけかもしれませんが)。

そして、相談していただいた方も様々で楽しかった。

NZワインが初めてという方もいれば、飲んだことはあるけれど忘れちゃったという方もいました。以前NZに住んでいて、現地でワイナリー巡りをしたこともあるという、猛者もいらっしゃいました。

自宅セラーのNZワインリストをあらかじめ送ってきて、「これ以外で」と言われ、猛者オブ猛者だ!と、ビビったけど、実はめっちゃ優しい人だったり。

まあとにかく、ひとりひとりのツボが違って、たいへん勉強になりました。

ただ、飲食店と違って、ワインショップだと、飲んだときの反応が直に見られないのが、ちょっと心配にはなります。どんなふうに感じるかな、予想通りかな、期待外れかな。やはり気にはなります。後日、感想を教えていただけたら、ありがたいなと思います。

でも、やってみて、「納得のいくものを選ぶこと」に関しては、僕的には、全投球のうち、7割くらいはストライクゾーンに球を投げることができたんじゃないか、と思っているのですが、どうかなあ。

会話してる最中に、芯に綺麗に当たる音が聞こえた気がしたんだけれど、気のせいかなあ。

あ、いかん。最後、また野球に戻ってしまった。

今週のワインとおつまみ

Southern Cross Hawkes Bay Merlot Cabernet Sauvignon 2013 サザンクロス ホークス・ベイ メルローカベルネ2013

サザンクロス ホークス・ベイ メルローカベルネ2013

熟成感のあるNZワインはなかなか珍しいです。

しかもリーズナブル路線のワインならなおさらです。

「赤ワインは、時を超えて果実から土になる」というのを聞いたことがありますが、そう考えると、ちょうどこのワインは、果実の時期を終えて、土になる途中と言えるかもしれません。

フルーティーさはやや薄れ、落ち葉や腐葉土のような複雑な香りが全体を覆います。

良い!

こんな熟成感の味わえるNZの古系のお手頃ワイン、貴重です。

(たまにボクモでもグラスワインで出していますよ!)

こてっちゃん

おうちであわせたのは、こてっちゃん(ホルモン焼き)です。

嚙めば嚙むほど味が出てくる、元気な若者の味。

そして、飲み込んだ直後に、熟成赤ワインを流し込めば、ああ、それは野球部系の弾力性のある男子(ホルモン)と、枯れかかっているがなまめかしい熟女(熟成赤ワイン)の、一見、いびつなようにも見える関係。

実は、需給バランスのとれたナイスカップル!?

・・・ちょっと妄想が過ぎました。

この記事の筆者

岩須
岩須 直紀
ニュージーランドワインが好きすぎるソムリエ。
ニュージーランドワインと多国籍料理の店「ボクモ」(名古屋市中区)を経営。ラジオの原稿書きの仕事はかれこれ29年。好きな音楽はRADWIMPSと民族音楽。

一般社団法人日本ソムリエ協会 認定ソムリエ

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ボクモワイン代表 岩須直紀

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