「おじさん」にまつわる問題

 

「さあ、“おじさん”とは、何歳からを指すと思いますか?」

テレビでアナウンサーとコメンテーターとアイドルが、そんなテーマで話しています。

なんという空気のような話題。極めてどうでも良さげな話題。

嫌いじゃない。

コロナの憂鬱も、通帳の残高も、原稿の締め切りも一瞬忘れさせてくれる、その時間。大事です。

「博報堂が調査したところ、43.24歳という結果が出ました。」

へえ。まあ、妥当なところかなあ、と思っていると、画面は切り替わって街頭インタビューの若者。

「昔の自慢話をしはじめたら、おじさんだよね~」

年齢ではなく、内面で区切った。そう来たか。

僕は思わず、「でもさあ、おじさんってさ、色々頑張ってきたんだから、ちょっとくらい自慢話をしたっていいと思うけどな」と漏らす。すると、横にいた妻が「そういう考えが、まさにおじさん」とぴしゃり。僕は、しゅん、です。

「たぶん、おばさんに弱いのが、おじさんだ」と思ったけれど、それは口にはしませんでした。

そう言えばたしかに、社会に出て間もない頃の僕は、「昔はこうだったんだぜ」的な自慢話をする人を、すごくおじさんだと思っていました。

特に、僕が就職氷河期世代なせいかもしれないけれど、「バブルの頃は万札を振ってタクシーを止めた」的な話を聞くと、(はあ・・・、それで、今、その経験をどう活かしているのです?)と心で突っ込んでいました(嫌なやつ)。

でも、突っ込んでいた側の僕も、年齢的にはもう確実におじさんの領域に入りました。まわりには若い人ばかり。アルバイトスタッフからしたら、僕はダブルスコア以上の大おじさんです。

なんか今日は調子よく喋ったなあと思った日、シャワーを浴びながらトーク内容を振り返ると、若い頃はこうだったという話をしまくっていた自分に気づいて落ち込むこともしばしば。

(はあ・・・、それで、今、その経験をどう活かしているのです?)のブーメランで後頭部を強打です。

はずかしいですが、振り返ってみると、僕は、自慢体質かも知れないです。

前職では(ラジオのディレクター時代)、名の知れた人に会う機会が多くありました。

で、家族で歌番組を見ているときに「あの人と仕事をしたとき、すごく感じのいい人だったよ」という話をしたら、娘から「じ、ま、ん!じ、ま、ん!」と、手拍子つきで囃されました。東京フレンドパークのダーツの「パ、ジェ、ロ!パ、ジェ、ロ!」みたいに(その説明がおじさん)。

凹みました。ああ、そうか、僕の話は、有名人と仕事した自慢話だったんだ。娘は、歌を聴いていたいだけなのに、はあ、それで?な自慢をぶっ込まれた。そりゃ嫌だよなあ。

そう言えば、昔の自慢話をするのは、その昔の出来事がその人の人生のピークで、それ以降にたいした活躍をしていないからだ、と聞いたことがあります。

もう頑張り終えてしまった人。過去の自分を超えられない人。そういう人が自慢話をする。そう考えると恐ろしいです。

自分より優れた他人を褒めるんじゃなくて、自分より優れた過去の自分を褒めるって、だいぶ残念な行為な気がしてきます。やはり、なるべく自慢話は避けなければならない。

おじさんと言えども、世の中には、きっと自慢話をしないタイプのおじさんもいるわけで、僕はなるべくそっちに入りたいです。気をつけよう。

と、思っていた矢先、僕の自慢自制心が試される出来事が起きました。

ある新聞社の方から、「僕を取材したい」という申し出をいただいたのです。ボクモワインのオープンにあわせたクラウドファンディングをたまたまネットで見つけ、興味を持ってくださったようで。

こ、これは、公式に自慢話ができるチャンス・・・いや、違う違う、記者さんは、どんな内容のクラウドファンディングかを知りたいんだ。余分な自分語りなどしてはいけない。

と、思って、いざ取材の日を迎えました。

・・・結果、惨敗。危惧したとおりになっちゃった。

実に3時間、気づいたら盛大に自分語りをしまくっていました。

終わったときには、最近カウンターでお客さんと話していないこともあって、喉がビックリ、声が枯れていました。

記者さんは20代の女性。引き出し方が上手すぎました。現部署に配属になる前は、警察担当の記者さんだったそうです。僕は、生い立ちから、ラジオの仕事の話、ワインとの出会い、飲食店をはじめたきっかけ、ワインショップ開業のいきさつなど、すべて自供しました。

喋っている途中はハイになってるから、「聞かれてない部分まで語って酔っている自分」に気づく余裕はゼロ。よって今回も、シャワーを浴びながら反省です。俺、有罪だあああ。

そして、思うのでした。あの記者さん、終始、こちらの目を見て、ニコニコとインタビューしてくださっていたけれど、もしかしたら、内心では「じ、ま、ん!じ、ま、ん!」と手拍子を打っていたのかもしれない…、と。

はあ、自制心を持ったおじさんへの道は、遠いなあ。

コロナ、通帳、原稿、自制心。考えることは増えてゆく。

今週のワインとおつまみ

OSAWA WINES FLYING SHEEP MERLOT / CABERNET SAUVIGNON 2016

大沢ワインズ フライングシープ メルロー / カベルネ・ソーヴィニヨン 2016

OSAWA WINES FLYING SHEEP MERLOT / CABERNET SAUVIGNON 2016

日本人オーナー大沢泰造さんの大沢ワインズ。ワイナリーのあるホークス・ベイはNZの中では比較的温暖で、赤も白もやや濃いめのワインが生産されるリージョンです。

フライングシープは、大沢ワインズの中ではベーシックなシリーズ。飛ぶヒツジとストライプ模様がなんとも可愛いですが、中身はきっちり本格派です。

このワインは、メルロー / カベルネ、つまりボルドーブレンド。色も味も濃厚なタイプですね。

香りは、カシスとブラックベリーが中心で、カカオのようなようなニュアンスもあります。

濃縮感はしっかりありますが、アルコールが12%と高すぎないのがいいですね。まろやか。多くの人が「飲みやすい」と感じるワインだと思います。

あわせたのは、名古屋の鶏料理の老舗・三和の焼き鳥です。デパ地下で購入。

タレの焼き鳥

甘辛いタレの和食には、フルーツ感を持ったまろやかな赤ワインがあうという、セオリー通りのマッチングです。

日本の伝統的なおつまみと、日本人オーナーのワインで、幸せなひととき。

この記事の筆者

岩須
岩須 直紀
ニュージーランドワインが好きすぎるソムリエ。ラジオの原稿執筆業(ニッポン放送、bayfm、NACK5)。栄5「ボクモ」を経営。毎月第4水曜はジュンク堂名古屋栄店でワイン講師(コロナでお休み中)。好きな音楽はRADWIMPSと民族音楽。最近紅茶が体にあってきた。一般社団法人日本ソムリエ協会 認定ソムリエ。
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