「今度、仕事で研修に行くんですよ。」
そんなお客さんの話を聞くと、心底うらやましいと思います。いいなあ。研修。
「1泊で福岡なんですよ。いや、研修って仕事ですからね、ぜんぜん観光なんてできないですよ。まあ、夜、水炊きくらいは行きますけどね。」
そこ!夜、水炊きじゃん!それがうらやましい。
僕は、仕事柄、研修というものにほとんど縁がありません。ワインのセミナーにたまに行くくらい。でも、セミナーと研修って、僕の中ではちょっと意味合いが違います。セミナーは、自分の知識を深めるためにすすんで行くけれど、研修は、上司に「キミ、仕事に必要だから学びにいってらっしゃい」と言われて、行くイメージ。
いいなあ。上司いないもんなあ。言われたいなあ。「頑張って学んでこい」って。しんどい研修も、夜の水炊きのために頑張れるんだろうなあ。
しかし、そんな僕にも、念願の研修に参加するチャンスが巡ってきました。ワインショップをはじめるために必要な、「酒類販売管理研修」です。やったー!
場所は、福岡。じゃなくて、店のある矢場町から地下鉄で2区の東別院。近い。でもいいんです。近くても研修は研修。
そういや、東別院は、近いのにこれまであまり縁がなかった。これを機会にちょっと歩いてみよう。そうだ、早めに行って、どこかでランチを食べてから会場に行こう。
でっかい真宗大谷派名古屋別院の門前町だけあって、駅周辺は、古い町並みが残っているところがあります。桜も咲いていて、いい感じ。歩き甲斐があります。
そして、見つけました。 レトロな雰囲気が残る麺類屋さん。
「東京庵」。
そば、うどん、きしめん、丼物、いろいろあるお店のようです。ちょっとググったら、もともと東京にあった店が、先々代の時代に名古屋に移転したそうです。東京ではじめたのが大正14年。名古屋移転が昭和34年。創業96年だって。すごい歴史。店内は昭和まるだしで非常に落ち着きます。
僕は、こういう店にある「中華そば」が好きです。ラーメン専門店にはない、シンプルな味がいい。迷わず中華そばのセットをオーダーします。
出てきたのは、うどんだしの昔ながらのラーメン。これこれ。期待を裏切らない味でした。とても美味しかったです。幸福度なら、博多の水炊きに負けていないかも。ああ、やっぱりいいなあ、研修って。まだ研修してないけれど。
で、そこから、20分ほど歩いて会場へ。
研修の会場は、昭和の建物に、昭和のトイレ、昭和の机と椅子。
そして、きっと昭和前半生まれのおじさまが、マイクに口を最接近させて研修が始まりました。今日は、昭和デーだ。
机に置かれたハンドブックはけっこう分厚いです。140ページくらいある。
冒頭、昭和な方は言いました。
「今日は、スライドでやるから、この厚いハンドブックは閉じたままでも良いです。」
え?
「毎回、目を閉じている人もいるけれど、特に注意はしません。」
え?
よく見たら、まだ始まる前なのに、机には、研修を修了したことを証明する「受講証」が置いてある。
もう?
なんだか、この研修がゆるいものに思えてきました。
酒税法は、「お酒の販売所」に「必ずひとり以上研修を受けた人が必要」と定めています。だからこの研修は、酒屋だけじゃなくて、スーパー、コンビニ、ドラッグストア、家電量販店に勤める人もいるでしょう。もしかしたら、会社に言われて、嫌々来ている人もいるのかもしれない。そういう人向けに、「寝ていてもいい」って言ったのかもしれない。
でもね、昭和さん、ここに、いいますよ。研修だー!と意気込んでるやつが。自分のワインショップを立ち上げるので、鼻息荒く参加しているやつが。
こっちは、中華そばで機嫌を良くして、意気揚々とやってきているんですよ。受講料5,000円払ってるんだから、それ相応のものをゲットしたいし。
しかし、あれだな。自分もワインの講師の仕事をさせていただくことがあるのだけれど、間違っても「あまり真面目に聞かなくて良い」的な態度を取らないように注意しなきゃな。他山の石。
ということで、初めて受けた「酒類販売管理研修」、はじまってみれば中身は決してゆるくなく、ハンドブックの中の重要なことをスライドで説明していく形でした。知らないことがとても多かったです。中でも重要だと思ったことをメモしたので、ざっくりとシェアします。
・未成年者飲酒禁止法に則り、20歳未満の人に売ってはいけない。その表示をしっかりしなければならない。近く、成人の年齢が18歳に変わるので「未成年者に販売しない」という表現は使えなくなる。
・陳列棚のアルコールとノンアルコールの商品をしっかり区切る必要がある。明確な区切りがない棚に、2つの商品を隣同士に並べてはいけない。やってる店は指導対象となる。
・「お酒コーナー」という表示の文字の大きさに注意。100ポイント以上。つまり35mm×35mmくらい以上の文字。かなりでかい。
・独占禁止法で禁止されている「不当廉売」に注意。あまりに安く売るのはダメ。売れ残り品の「原価割れ販売」にも注意。
・景品表示法で禁止されている「不当な表示」に気をつける。いつもと変わらない値段なのに「今日だけこの価格」などはNG。
・帳簿をちゃんとつける。5年保存。保管は電子じゃなくて、印刷したもので、と言われた。まじか、紙の保管スペースを確保しないと。
ただし、この日、僕の頭の中にいちばん残ったのは、やはり、あの中華そばです。
あの美味しさ、満足感で、僕のコンディションが良くなりました。そのあとの研修を受ける姿勢に大いに影響を与えたと思います。
そうだ!
美味しいは、人をやる気にさせる。
気分を良くしてもらったおかげで、ゆるめの研修でも、前のめりで参加できたんだ。
そうか・・・、飲食店を11年やっていながら、飲食店がもっている力を忘れていたな。自分の店でも、ちゃんと美味しいもの、なるべく満足できるもの、これからも用意していこう。それは、誰かがやる気を起こすためのお手伝いなんだから。改めてそう思いました。
こんな気持ちにさせてくれたあの店、また行きたいな。東別院、もうちょっと散策したいし。
行くなら、やっぱり、研修という名目が良いから、そうだな・・・「老舗飲食店の魅力をさぐる研修」、ということにしよう。
今度は、きしめんが食べたい。
ちなみに、家に帰って、もらった受講証をよく見てみたら、 印刷がナナメにずれていました。
やっぱり、ゆるい・・・。
今週のワインとおつまみ
Mahi WARD FARM PINOT NOIR 2014
僕が心から大好きなニュージーランドワインがこの「Mahi」です。その中でも、ちょっと高級なのがこのワードファーム・ピノ・ノワール。いわゆる単一畑もので、「ワードファーム」という区画のみの厳選ぶどうを使っています。野生酵母での発酵。15ヶ月樽育成。
味はとても複雑。抜栓直後はほろ苦さが目立ちますが、2日目、3日目くらいで見事にまるく調和します。最初は控えめだった果実の風味が、あとから追いかけてくる感じ。
すぐに飲みたいならデキャンタージュ必須ですね。実際にMahiのワイナリーを訪れたとき、オーナーのブライアン・ビックネルさんが試飲させてくれたのですが、そのときも自らデキャンタに移してからグラスに注いでくれました。そもそも、開くのに時間がかかるように設計されているわけですね。
時間とともに変わる香りや味わいが楽しめる、楽しいお酒です。
あわせるならやっぱりお肉かな、とも思ったのですが、ふと、「ピノ・ノワールは醬油と相性がいい」という僕の中の法則を思い出し、こんなものをあわせてみました。
伊勢うどん。
お粥を思わせるほどに、だるんだるんな極太うどん+黒く濃い醬油のタレ。もうのびているから、のびる心配をせずにゆっくりおつまみとして食べられるのがいい。
期待通り、ピノと醬油はちゃんとあいました。卵黄もいい仕事。やっぱ、お家でやるペアリングは遊んだほうがいい。意外性のある国際結婚、楽しいです。