このところずっと、YouTubeやInstagramなどの目で楽しむのが中心のコンテンツが流行っていましたが、ここへ来て、時代が音声だけにちょっと動いてきた!?やっぱそうだよね、音声だけの世界っていいよね!?なーんだ、みんな、音だけもやっぱり好きなんじゃん!って、この状況をニコニコして眺めております。
ただ、ニコニコ眺めているだけじゃあイカンので、参加してみた印象とか、今後はどうなったら面白いのかなあってことを、今回、ちょっと書いてみます。
Clubhouseの前に、まず音だけの大先輩であるラジオに関して。
今、人気があるラジオ(のトーク部分)は、次の3つの要素に集約されると思います。
- 有名人が他のここだけの面白い話をする=ネームバリュー(これが最強のコンテンツ)
- 専門家が専門的な知識を紹介する=特化
- 代弁者がリスナーの共感を呼ぶ話をする=共感
3つに分けましたが、人気番組がどれかひとつの要素だけで成立しているわけではなく、3つが強弱を持ちつつ「掛け算的に組み合わさる」ことで、コンテンツの魅力が作り出されているイメージですね。
で、Clubhouseをやってみると、この3要素の掛け算の法則がまったくそのまま当てはまると思いました。
たとえば、芸能人が雑談をしているルームはあっという間に人が集まるし(ネームバリュー型)、起業家やコンサルによる、自らの専門分野のトークも盛り上がっています(特化型)。地名をつけたルームでは、そこに住んでる人同士が「あーわかるわかる」という、井戸端会議に花が咲いています(共感型)。
で、この3要素がぜんぶ強いとさらに盛り上がります。
ネームバリューのある人が、なにかに特化して、共感を呼ぶことを話す。芸人さんのラジオ番組とかがまさにそのパターンですね。Clubhouseでも論客、音楽家、作家などがやってるルームに入ってみましたが、やっぱり大盛り上がりしていました。
じゃあ、ワインはどうか。
3週間ほどやってみて、Clubhouseやってる人の中に、ワイン愛好家がけっこういることがわかりました。
そうそう、ワイン愛好家って、一般的には「マニアな人」と思われていますが、実は、バカにできない人数がいます。「ソムリエ」、「ワインエキスパート」など、日本ソムリエ協会の認定資格を持っている人は、累計7万人を超えています(ワインの資格を持ってる人がこんなに多い国はあまりない)。
あの「カタカナの暗記だらけの筆記試験」、「自分にヨーロッパ人を憑依させて臨むテイスティング試験」を突破している人が7万人もいるのです。すごいこっちゃ。
もちろん、「試験に受からなかった人」、「これから受けようと思っている人」、「試験は別に興味ないけれど、ワインが好きな人」の数を足したら、もう、これはニッチとは言えない規模のファン層がいるのは想像に難くないです。
なのに、テレビやラジオのオールドメディアではワインの話題はほとんどない(年始特番の格付けはすごく面白いと思います!もっとやってほしい)。
普段は使わないけどマニアックな知識を、みんなと共有したいと思っている人は多いし、もっと知識を深めたいという勉強熱心なプロも多い。でも、今は、なかなか外食が難しい状況で、ワイン会などでワイン好きの人が集まる機会が少ない。人によってはほぼない。ワイントークによる「共感の快感」が得られないんですね。
で、そういう共感に飢えている人が、Clubhouseで盛り上がっているのです。やっぱり、わかってくれる人との出会い、これこそがSNSの真骨頂だなあと。
今日、飲んでいるワインを発表し合って、「それ美味しいですよね」「そんな特徴があるんですね」「料理はこれがあいそうですね」とか、そういう話を聞いているだけでも、ワイン好きにとっては楽しいものです。さらに、ワイン講師や醸造家のような専門家の話は、たまらない酒のツマミになったりします。
僕も何度かおしゃべりさせていただきましたが、「わかる!」や「へー!」と言ったり言われたりするのって、やっぱり、すごく楽しいです。「喜びを他の誰かと分かりあう それだけがこの世の中を熱くする by 小沢健二」を、まざまざと感じました。
もし今後、この「特化」×「共感」に、たとえば田崎真也さんとか、ワイン界の巨人が登壇すると、最強カードの「ネームバリュー」が掛け算されるので、どかーんと盛り上がるのは間違いないなと思います(ま、田崎さんはやんない気もしますが)。
ただ、そっちの大きめの盛り上がりは、どちらかというと「セミナー寄り」ですね。聴衆が多いほど凄い会、みたいな感じ。質問タイムで挙手して指されたらドキドキラッキー、みたいな。いいんだけど、新しさはあんまりないかも。
それより僕が注目したいのは、「マニアックな愛情を持っている人が、Clubhouseで出会って化学反応が起きること」。「特化」×「共感」の力が異常に強いルームです。ここに新しい価値があるんじゃないかと思います。
Clubhouseをある程度の時間やった人ならわかると思うのですが、世の中には「知られてないけど凄い人」って、かなりいます(凄いだろーっていう見せかけの人もいますが)。
「これまで表に出ていないけれど、めちゃくちゃ面白い話を喋れる人」や、「とんでもなくトークを回すのが上手なモデレーター(司会的な立場をやる人)」が、いるんです。
ワインのルームでも、自分だけの専門的な知識があって、お話が上手で、聞くのも上手っていう人がいます。
そういう人の喋りを、たとえば、レストランオーナーが聞いていたら「こんなに知識があって、伝える能力の高い人なら、うちで働いてほしい」と思うかも知れないし、ワインをつくる会社の人が「うちの広報を手伝ってほしい」と思うかも知れない。
あるいは、「いっしょにワインを輸入しましょう」とか「日本ワインを広めるメディアを作りましょう」とか、そういう話になる可能性もじゅうぶんあると思います。
つまり、偏愛の人と偏愛の人が出会う。それを聴いている偏愛の人がいる。それこそがClubhouseの面白いところじゃないかな、と。
喋りって、嘘がバレやすいし、真心込めて喋っていないと、やっぱり、胡散臭さがでてしまう。その人が、どれくらい本心で語っているかって、非常にわかりやすい。僕は、そういうむき出しっぽくなるのがラジオの生放送なりClubhouseなりの、「生の音声メディア」の特徴だと思っています。だから、むき出しの面白さ同士が共鳴したら、面白いプロジェクトが始まることもあるんじゃないかな、と。
近い将来、「Clubhouseでこの人面白いな〜と思って声を掛けて、今、いっしょに仕事やってるんですよ」なんてことも普通にありそうな気がします。
え?ラジオの今後は?
だいぶ角度の違う話になっちゃいますが、きっと今頃、ラジオの編成や制作をやってる人は、Clubhouseで「すごく喋れる、すごく面白い人」を発掘する作業に入ってるんじゃないかでしょうか。だって、「みんな、音だけもやっぱり好きなんじゃん!」が再確認できたんだもん。音だけでも楽しめる人たちがいるってわかったんだもん。
たぶん、この千載一遇のチャンスを利用して、「喋りの才能ある偏愛の人」をラジオに集めて、「音だけのトップレベル=ラジオで喋ること」のブランディングを構築していくしかないですよね。
今週のワインとおつまみ
INVIVO × SARAH JESSICA PARKER SAUVIGNON BLANC 2020
飲んで最初に出てきた言葉は「ご苦労様でした!」
これは、俳優サラ・ジェシカ・パーカー監修のニュージーランドワイン。2020年のマールボロ産ソーヴィニヨン・ブランです。
2020年ヴィンテージのワインは、コロナ禍でのはじめての栽培、収穫、醸造となりました。特に、収穫は多くの人を使って一気にやらねばいけない作業です。このワインの原料のぶどうは、おそらく2020年の(南半球の秋である)2月とか3月に収穫を迎えたはずで、当然、その時期は、働く人数を制限しつつディスタンスを保ってやらなければいけなかったはずです。例年通りのことを、感染症対策をしながら進めることは、想像を超える苦労があったに違いありません。
そうして出来上がった製品が、こんなに素晴らしい!だから、一口飲んで、ああ、よかった、ご苦労様でした、ありがとうございます、となりました。
味わいは、どちらかというと、グレープフルーツのような柑橘類よりもパッションフルーツやマンゴーのような亜熱帯フルーツを連想させる香りです。心地よい酸味。複雑な果実の味わいがしっかり感じられます。
冬に暖かい部屋で飲むソーヴィニヨン・ブランもいいもんですね。
田崎真也さんシールのついた、白いソーセージと合わせてみました(田崎さん印に弱いので、スーパーでついつい手に取ってしまいます。たぶん、知らず知らずのうちに「ネームバリュー×特化×共感の掛け算」にヤられています)。
コショウがきいているスパイシー系のソーセージ。マスタードをつけたらめちゃくちゃ合いました。
ありがとうございます、ご苦労様でした。