100円均一のお店で、ワインにまつわるグッズをよく見かけるようになりました。ワイングラスをはじめ、ワインを冷やすためのクーラー、紙製ワインバッグ、飲みかけのワインに蓋をするキャップなどなど。
きっと日常的にワインを楽しむ人が増えてきたってことでしょう。ワインの仕事をしている僕としては、ワインの裾野が広がっているように感じて嬉しいです。これからも、お手頃価格のワイングッズが充実していくといいなと思います。
ちなみに去年、ダイソーで発見した衝撃的にハイクオリティなワイングラスを紹介した記事はこちら。
▶ダイソーにとんでもなく本格的なワイングラスがあった!? ただ、ちょっと気になることも…
しかし、いくら100均でワイングッズが充実してきているとは言え、さすがに我らソムリエの商売道具「ソムリエナイフ」は、販売されていないだろうと思っていました。だって、僕が使っているものは2万5000円くらいだし、もっと高級なのは4万円くらいします。どんなに安くても、1000円はするというイメージがありました。
でも、「念のために・・・」と、セリアとダイソーをぐるっと回ってきたら、なんんんと!
普通にありました。セリアにも、ダイソーにも、ソムリエナイフが。
すごい時代になったもんだ・・・。
僕らソムリエにとって「ソムリエナイフ」とは、最も重要な商売道具のひとつ。「一生もの」と考える人も多いです。
僕はソムリエ試験の受験を決めたときに「実技試験で使い慣れたソムリエナイフで挑めるように」と、試験の1年前にソムリエナイフを購入しました。そこから毎日お店で使って、手になじませました結果、試験では、割と緊張せずに実技ができたと思います。それくらい、僕らの仕事では「手の一部」的な道具という位置づけなのが、ソムリエナイフ。
それが、今や100円均一でも買えちゃう。ひええ。でもいい。「ソムリエナイフを使ってワインを開けること」は、もはや日本の食卓では特別なことじゃないんだなあ、と実感します。
ちなみに「ソムリエナイフ」とは、もちろん、「ワインのコルクを開けるための道具」=「ワインオープナー」です。ただし、その構造には次の特徴があります。
- ワインのコルクを覆っているカバー部分(キャップシール)をカットするための「ナイフ」が付いている。
- コルクにねじ入れる金属の「スクリュー(ねじ)」が付いている。
- てこの原理の支点となる、瓶の口に引っかける金属部品が付いている。
この3点が必須となります。つまり、ナイフという名前がついてますが、実際は「ナイフ」+「ねじ」+「引っかける部品」という3つの部品をドッキングさせた道具なんですね。
写真をご覧になってわかるとおり、構造はけっこう複雑です。部品数が多い。だから、どこをどう工夫したら、これを販売価格100円で実現できるか、僕にはさっぱり分かりません。
しかし、現実に100均で売っているということは、ものづくりの世界というのは、僕の想像がまったく及ばないほど進歩しているんだと思います。すごいや。
さて、問題は、それら100均ソムリエナイフが、ちゃんと使えるかどうか。いくら形を整えていても、実際、使い物にならないのでは意味がありませんよね。なので、レビューしてみます。「曲がりなりにもワインを開ける仕事を11年やってる」不肖・僕が、ひとつひとつの特徴や使いやすさを検証してみたいと思います。
1)〜5)の項目に分けて見ていきましょう。
- ナイフの扱いやすさ、切れ味
- スクリューの扱いやすさ、ねじ込みやすさ
- てこの原理を使ってうまく抜けるかどうか
- 抜いてみて気になった点
- 王冠栓の栓抜きの機能の有無(本来はソムリエナイフにない機能ですが)
まずはこちら。
【セリア】「Sommelier Knife(ソムリエ ナイフ)」
柄の持ち手の部分がストレートなのが特徴です。おそらくフランス製の名品「デュルック(DELUC)」をモチーフにしていると思います。(デュルックのソムリエナイフはこちらで購入できます。)
では、早速さきほどの評価項目に基づいて、レビューをおこなっていきます。
1)ナイフに溝がついていて、力を入れなくてもスムーズに引き出せます。
ナイフの切れ味、悪くないです。
2)スクリューの長さは普通のものより短く、3巻き半です(一般的なものは4巻き半がほとんど)。こういう短いタイプのスクリューは、一気に最後までコルクにねじ込んでしまう方が良いと思います(抜くときに途中でコルク折れてしまうことが心配なので)。
コルクにねじ込みます。かなりスムーズに入りました。
3)てこの原理を使って抜きます。器具の引っかかり部分が、ボトルの口からずれないように押さえながら、レバーの部分を上に上げます。
このとき、T字の接続している部分がすこしぐらっとしました。ちょっと作りが弱そうな印象。ですが、無事に抜けました。力はやや必要かなという感じでした。
4)ストレートな持ち手ですが、決して使いづらくはないです。ただ、やはり金属のつなぎ目に力をかけて、ぐらぐら揺すってみると、頑丈とは言えない感じ。堅めのコルク栓を何回も抜くと、つなぎ目から破損してしまうかもしれません。が、100均ならまた買えば良いか。
5)栓抜き機能もついています。便利。
総合点 4点(5点満点)
扱いやく、基本的な機能はすべておさえてあります。100均でこれはすごい。お手本にしていると思われる「デュルック」は市場価格4500円なので、価格だけで比較をすると1/45。ひええ。
つづいてもセリア。
【セリア】「アーチ型ワインオープナー」
1)ナイフには引っ張り出すための溝がついていますが、引き出す時に少し力が必要です。爪でグイっと。
下の写真よく見てください。スクリューの針がこちらを向いています!これは危ない。針が指に刺さらないように注意が必要です。
ナイフの切れ味は、悪くないです。
2)スクリューは4巻き半あり、十分な長さです。スクリュー自体がやや太いので、ねじ込むときにすこし力は要りますが、問題なく入っていきます。
3)4巻き半のスクリューの場合、てこの原理をつかって抜く動作は、2アクションで行った方がスムーズに抜けます。
まず、コルクにねじ込むとき、1巻き分くらい残しておくことが肝心です。その状態で、まず1アクション(抜く動作)。
それから、最後までスクリューをねじ入れてからもう1アクション(抜く動作)で抜けます。
最後は人差し指と親指を使って。問題なくするっと抜けました。
4)先述しましたが、閉じた状態でスクリューの先端の針の部分が出てしまっている。各作業中、この針が指に当たってしまう危険性ありです(実際ちょっと当たりました)。
デフォルトの状態で針が外向きに出てしまっている商品は、個人的にはけっこう危ないのではと思います。もしかすると商品の個体差によるものかもしれないですが。
5)栓抜き機能あり。
総合点 3点(5点満点)
作りは頑丈で扱いやすかったです。ですが、やはり針が指に刺さる危険性があるという点がネックかなと思います。
つづいて、ダイソーのソムリエナイフ。
【ダイソー】「ステンレス ソムリエ ナイフ」
さきほどのセリアの「アーチ型ワインオープナー」と形状はとても似ています。
1)ナイフ、引っ張り出すための溝がついています。ほんの少し力が必要ですが、90°まで展開したら、そこから180°への展開は簡単です。
ナイフの切れ味、問題ないです。
2)スクリュー、長さはちゃんと4巻き半あります。スクリューの太さはやや細く見えます。スムーズにコルクに入っていきます。
3)セリアの「アーチ型ワインオープナー」と同じ要領で、一気に最後までねじ込まず、2アクションで抜きます。
問題なく抜くことが出来ました。
4)ただ、ステンレスの角がちょっと鋭角で丸みが足りない気もします。力を入れたとき、エッジが手に食い込んで痛いと感じる人もいるかもしれません。僕はそこまで痛いとは感じませんでしたが。
5)栓抜き機能あります。
総合点 5点(5点満点)
まとめ
今回試してみた中では、いちばんこの「ダイソー・ステンレス ソムリエ ナイフ」が使いやすいと思いました。普段使いなら、なんの問題もなさそうです。ただ、エッジーなステンレスの角が気になる方は、セリアのものを選んだ方が良いかも。
全体としては、セリアのもダイソーのも「思ったよりも使える!」と感じました。どれも基本的な性能はクリアしているという印象です。ただ、もし自分のお店でレギュラーのソムリエナイフとして採用するには、ちょっと物足りないかなと思いました。いちばん点数を高くつけたダイソーのものでも、ずっと使うとなると、ステンレスのエッジの鋭さがどうしても気になってしまいます。
最後に:ソムリエナイフについて
ちなみに自分のお店で、アルバイトスタッフたちが使っている「とても抜きやすい」ソムリエナイフは、スペインのプルテックス社「プルタップス ソムリエナイフ」です。
手への馴染みもよく、ヘビーユースにも耐えられる頑丈な作りです。また、最初にスクリューを全部ねじ込んでしまってから、2段階のてこで抜ける「Wフック」を備えています。これなら初級者でも簡単に抜けます。1000円くらいで買えちゃうのもいい。
ついでに、僕が仕事で使っているソムリエナイフも紹介しましょう。もう8年以上使っていますが、折れたり曲がったりすることなく、元気に働いています。
「ラギオール・アン・オブラック」というブランドです。「ラギオール」と言えば、ソムリエナイフや、テーブルで使うナイフやフォークなどのカトラリーを作るフランスの「村の名前」。このラギオール村には、テーブルウェアをつくる職人やメーカーが集まっています。日本の「新潟の燕三条地方」のようなイメージと言えば分かりやすいかもしれません。
僕が使っている「ラギオール・アン・オブラック」のソムリエナイフは、美しいカーブが特徴です。手にフィットするこの形状は、抜くときの安定感につながっていると思います。僕はかなり気に入っています。
▶グローバル オンラインショップ (ラギオール アン オブラック バッファロー)
ラギオール村の中で、トップの知名度を誇るブランドは「シャトー・ラギオール」です。
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1993年にフランスの名ソムリエ「ギー・ヴィアリス」と共同でつくったソムリエナイフは、世界的ベストセラーになり、日本のプロやワイン愛好家でも定番ソムリエナイフとして知られています。伝統、作り、使いやすさ、値段、どれをとっても、この「シャトー・ラギオール」こそがオリジナルであり、一流であると考えるソムリエも多いと思います。
ちなみに、同じラギオール村には「ライヨール」という高級ブランドもあります。正式には「フォルジュ・ドゥ・ライヨール」といいます。ラギオールもライヨールも、同じ「LAGUIOLE」村のことを表していますが、ラギオールは、フランス北部の読み方、ライヨールは、フランス南部の読み方です。ライヨールは、少しふくよかな丸みを帯びたデザインが特徴です。こちらもソムリエからの人気が高いです。
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100均ソムリエナイフでも、「目の前のワインのコルクを抜く」という、その目的は果たします。ラギオールの高級品は4万円以上で、セリアやダイソーはその1/400以下の100円。ですが、ワインを飲むために抜栓するという機能面だと、価値はとても1/400以下とは思えません。100円だって、ちゃんと抜けるのですから。
しかし、やっぱり、ワインは歴史とともにある飲み物です。何千年にもおよぶ文化のストーリーがあって、今のワインの形があります。職人が親から子へ技術を伝えて作られてきて、今のワインの形があります。ワインの必需品であるソムリエナイフっだって、同じように、ナイフ職人が誇りを持ってつくってきたのは、容易に想像できます。
時代が変わり、今やワインは、遠く離れたここ日本でも気軽に楽しめるお酒になった。それと同じように、ソムリエナイフも手軽に入手できるものになりました。
手作りにこだわったフランスの高級ワインもあれば、500円のデイリーワインもある。ラギオールもあれば、セリアやダイソーもある。工芸品もあれば量産品もある。そんな多様性の時代になったんだなと思います。
僕の意見としては、小難しいことはナシ、気軽にワインを楽しみたい派 = 100均ソムリエナイフでじゅうぶんだろうと思います。
一方、ワインが持つ多様性や文化的な面白さもちょっと掘り下げてみたい、そんな方向に進むならば、ちょっと奮発してもいいかもしれません。これから何度も開ける機会がありそうだな、と思ったら、ラギオールなどの工芸品の世界に触れてみるのも良いかなと思います。
ちなみに、僕が大好きなニュージーランドワインは、99%がコルク栓を採用しておらず、「スクリューキャップ栓」です。僕の店は、ここ数年の主力はニュージーランドワインなので、ソムリエナイフを使う機会はぐんと減ってしまいました(NZだと、1万円以上の高級ワインでもスクリューの場合があるんですよ)。
でも、ワインの世界では、これからもコルク栓はなくなることはないでしょう。いくらスクリューが普及しても、やっぱり、ヨーロッパの高級ワイン=コルク栓という図式は、ほぼ揺るがないと思いますし。
なので、普段はスクリューの僕でも、いざ、ソムリエナイフを使う大事なシーンが訪れたとき、「あのソムリエ、抜くの下手くそだな」と思われないようにしなければ。コルク抜栓の「コソ練」は、怠らないようにしたいと思います!