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ワインとお料理のペアリングのお話

相変わらずコロナで毎日ヒイヒイ言ってますが、今日は、久しぶりにコース料理のご予約をいただきました。しかも、ワインセミナーつきで。料理とのペアリングを楽しみながら、ソムリエの話が聞きたいというオーダーをいただきました。喋りたがりの私からすると、なんともありがたいオーダーです。

普段そういったコースの設定はないのですが、持つべきものは、「岩須ならこれくらいやってくれるだろう」と話をふってくださるお客さまですね。もちろん快く引き受けさせていただきました。本当にありがたいです。

ただ、この時期なので、ちょっと考えなきゃいけないところもあります。

まず、ディスタンス問題。今回は10名様のコース料理です。本来、ひとつの長いテーブルでセッティングしたいところですが、そうなるとやっぱりお客さま同士の距離がぎゅっとなりがちです。

なので、今回は、3つのちょっと離れたテーブルに別れて座っていただくことにしました。さらに、それぞれのテーブル内でも少し間隔を開けた椅子の配置にしました。とりあえず、うちの店では最大限の距離感を保ったセッティングです。

ただ、こうすると、ワインセミナーが難しい。

普段やってるジュンク堂書店さんでのワインセミナーは、プロジェクター+パワポのスライドで進めています(現在休止中ですが)。これだとみなさん、前の画面を見ながら進むので、話に集中できます。みなさんの視線が自分の方を向くので、喋る方もやりやすい。

しかし、今回は3テーブルに別れていて、その3テーブルはL字形に点々と配置されている。テーブル間の距離がちょっとある。よって、「それぞれの席からの正面の向き」がバラバラ。よって、プロジェクター+パワポが使えない。うーむ。困った。

ならば、皆さんの視線を集めるのは諦めて、昔ながらの「紙のレジュメ方式」にするしかないか。ペンも用意して、気になったことを書き込んでいただく感じにして。あんまり集中力が続かない可能性もあるけれど、致し方ないですね。

それからもうひとつ、声の問題もあります。席が離れているので、僕の声が届くかどうか、やや心配。マスクを着用して喋るので、声が籠もって聞き取りにくい可能性もある。飛沫ケアの観点から、あんまりお客さまの近くにも行けない。

ちょっと離れた位置からマイクを使うという手もあるけれど、そうなると、今度は、店内にいる他のお客さまに迷惑がかかってしまう。

どう考えても、「紙とペン」+「フェイスガード越しの声」では、弱い。伝えたいことが伝わらない可能性がある。それじゃあ、この時期にせっかくセミナーつきのコースをオーダーしていただいたのに申し訳ない。

むむむ。なにか良いアイデアは。と考えつつ、そのままセミナーを決行しました。

しかし、思いついたのです!

そうか、このブログがある!ブログに要点をまとめて、掲載しておけばいい。

もし、紙のレジュメにメモをし損なったり、僕の声が聞き取れなかったりしたら、あとからこのブログを見ていただいて、復習できるようにすればいいんだ。

そうしよう。

もちろん、このブログは、今回のコースにご参加いただいた方以外もご覧になる。無料で閲覧できるここで中身を載せたら不公平になると感じるお客さまもいるかもしれない。

でも、ワインセミナーというのは、実際にワインを飲んでみて、そして今回の場合は、お料理との食べあわせを体験していただいて、はじめて成立するもの。文字情報だけでは体験にはならないでしょう。よし、そうやって言ってみて、参加者の皆さんの了解がもらえたら、ブログにアップすることにしよう。

と言うわけで、了解いただけたのでした。ありがたや。

ここからは2020年8月20日に行った、ペアリングセミナーの内容です。


ワインとお料理のペアリング会

2020.8.20 @ ボクモ

「ペアリングを知ると、食事の楽しみ方が変わる。」これは、僕の実体験です。あ、その前にペアリングという言葉について少し。

以前は、マリアージュ(フランス語で結婚)という言葉がよく使われていましたが、最近では、「飲み物と食べ物の組み合わせ」を「ペアリング」という言葉であらわすことが多いようです。

もしかしたら、この言葉が生まれたフランスでは結婚よりも事実婚を選ぶ人が増えているというご時世を反映しているかも?

それに、イマドキは「結婚がベストのマッチングであるとも限らない」っていう意味も含めて、「単にペアであること」を表すペアリングって言葉がしっくり来る世の中になったのかな・・・ま、これは私見ですけどね。

まあそれはさておき、今日のテーマは、ワインとお料理をペアで楽しむ、ペアリングです。これを知ると、どんないいことがあるか。

まず、たとえば、料理をつくったとき、あるいは選ぶときに、それにあうワインを考えることができるようになります。

それから、逆にワインを買うときに、合わせる料理を想定して買うこともできるようになります。

そうなると、イマジネーションがぐっと広がって、お料理のひとつ、おかずみたいな存在にワインが入り込むようになるんです。それはそれは楽しいですよ。

ちょっと訓練が必要になりますが、繰り返しやっていると、だいたい上のふたつのいいこと、ちゃんと楽しめるようになります。

料理がワインによって、ぐんと美味しくなる。また、ワインが料理によってさらに美味しくなる。そんな体験をしてしまったら、もう、食事の楽しみ方ががらっと変わってきますね。

ただ、もともと日本人は、このペアリングという概念がなかなか理解できないところがあります。たとえば、日本酒とつまみのペア。元来、つまみによって日本酒が美味しく感じる、とか、日本酒をあわせることで、つまみに新たな美味しさが加わるという観点は、実はあまりなかったようです。

でも、ヨーロッパでは、ワインは食卓に1本あって、料理とワインをいったりきたりで楽しみながら、「この料理にはあうね」みたいな会話をするのが日常的に行われてきました。つまり、彼らにとってのワインは、白いご飯のペアである味噌汁のように、毎日の食事に入り込んでいるひとつのおかずみたいな立ち位置だったわけです。僕ら日本人は、これをあとから学ぼう、それがペアリングを知る、ということなんですね。

さあ、もうお腹がすいてますよね。前置きはこれくらいにして、最初のペアリングを試してみましょう。

最初の料理は、ボクモ・プラッターという名前の「前菜の盛り合わせ」です。

今日は、

  • トマトバジルのブルスケッタ
  • ツナエッグ
  • 夏野菜と小麦ブランフレークのチョップドサラダ
  • チェダーチーズとドライマンゴー

です。

このように、軽く食べられる前菜、とくにサラダのようなあっさりしたものには、爽やかな白ワインかスパークリングワインが合います。

最初に、食前酒として、イタリアのプロセッコ(スパークリングワイン)を飲み、それが終わったら、ニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランをあわせてみましょう。どうでしょうか。

続いては、「ニュージーランド産のマッスル(大粒のムール貝)のパン粉焼き」です。これにあわせるのは、ニュージーランド産のロゼワイン。

さあ、ここまであわせてみて、どんな感想をお持ちですか?

あう、あわない、は皆さんの舌の個性によるところもあります。これはひとつの提案であり、完璧な提案ではありませんので。

ただ、「あう、あわない」は、どうしたら、わかりやすいかというヒントはお伝えすることができます。

それは、こうです。

まずお料理を口に入れます。嚙みます。そして飲み込みます。その直後です。飲み込んだ直後、ワインをひとくち飲みます。

ここが大事。

お料理の余韻がまだ口の中にある状態のとき、ワインを口に含む。

そこで、「お料理の余韻がさらにふくらんで美味しい!」「ワイン単体で飲んだときより、お料理の直後に飲んだ方が美味しくなった!」こう感じたら、ペアリング成功です。

「それほどでもなかった。」これは平凡なペアリング。

「逆にマズくなった。」これはダメなペアリング。

ね?非常に簡単でしょ。お料理の余韻にワインをあわせる。この法則だけ守れば、あとは、自分の感覚に従って、あう、あわないを判断してください。

では、次は、「トマトソースのペンネ」、つまりパスタ料理です。これは、赤ワインにぴったりだと思って選んでみました。

このパスタは、それほど濃くないトマトソースなので、ワインもさほど濃くない方があいそうです。

そう、お料理の味の濃さと、ワインの味の濃さ、これを揃えるとよいペアリングになることが多いです。

ニュージーランド産のピノ・ノワールをあわせてみましょう。

さあどうでしょう。これは皆さん、納得のペアリングになったのではないでしょうか。白ワインのときよりも赤ワインの方が、しっかりと「ペアリングの妙」である「余韻のふくらみ」が感じられると思います。

では、ここでもうひとつ、ペアリングを成功させる面白い手法をお伝えしましょう。

それは、ワインを「ドレッシング」もしくは「ソース」だと考えてみるという手法です。

さきほども言ったように、ワインは、「料理を食べた直後に口に含むと、ペアリング効果が期待できる」という飲み物です。

それは、すなわち、「ワインが、料理の最後の仕上げを口の中でしてくれている」とも言えます。つまり、ワインは、完成した料理に最後に振りかけるドレッシング、あるいは、最後に追加するソースのような役割をしているのです。

この考え方を頭に入れておくと、たとえば、ワインを単体で飲んだときに、このワインは、「どんなドレッシングになるかな?」「どんなソースになるかな?」とイマジネーションをふくらませることができる。そして、そこからぴったりのペアリングのお料理が導き出せるというわけです。

では、それを踏まえて、最後の料理に行ってみましょう。

最後は、「スペアリブのWロッソ煮込み」という料理です。Wロッソというのは、僕の造語で、ダブルの赤、つまり「赤ワイン」と「赤味噌」を使って煮込んだという意味です。

どうでしょう。ホロホロに煮込んだスペアリブに、赤ワインと赤味噌のコクのあるソースが絡み合って、美味しいでしょう?僕も大好きなメニューです。

これにあわせるのは、ニュージーランド産のメルロー&カベルネ・ソーヴィニョンのブレンドワイン。フランスのボルドー産の赤ワインに近い、コクと渋みのある味わいが特長です。

この組み合わせは、いいんじゃないでしょうか?余韻の長いお肉料理に、それにあわせる赤ワイン。なんと言っても、お料理の中に赤ワインが入っていますから、それに呼応させるように、濃いめの赤ワインを選べば、間違いなく良いペアになります。

それでは、最後に、ペアリングのヒントをもう一つ。

ワインをドレッシングやソースと考えると良い。そこまでは、なんとなくおわかりいただけたと思います。しかし、いざ、そのワインを飲んでみたときに、それが、どんなドレッシングなのか、どんなソースなのか、具体的にイメージすることが難しいと思う方がいらっしゃるかもしれません。

そんなときは、こう考えましょう。

ワインの中に入っている、何十、何百という複雑な要素の中から、「自分がいちばんピンと来るキーワードを抽出する」。

もっと大胆に言ってしまうと、「ワインの中から、自分が感じるフルーツをひとつ思い描いてみる」、です。

そして、そのフルーツを使ったドレッシングやソースを料理にふりかけるというイメージを持つのです。

たとえば、今日のワインのうち、白ワインのニュージーランド産ソーヴィニヨン・ブランは、僕の場合「グレープフルーツ」を感じるので、「よし、このワインは、グレープフルーツドレッシングの役割をしてもらおう」と考えるのです。

そうすると、今日、お出ししたような「夏野菜のサラダ」には、グレープフルーツドレッシングならあいそう、と想像することができます。「真鯛のカルパッチョ」「豚しゃぶサラダ」でも良さそうですね。

最後にお出しした赤ワインの中には、僕は「カシス」の要素が入っていると感じます。なので、カシスソースをかけたらあう料理、それはやっぱり「じっくり煮込んだお肉料理」、となるわけです。「焼き肉」や「熟成したチーズ」なんかも良いかもしれません。

もちろん、ペアリングの世界というのは、これだけではなく、もうちょっと複雑な要素が多分にあります。このやり方では説明のつかないナイスペアもあるでしょう。

でも、まず、最初に料理とワインを結びつけたいと思ったら、こういうシンプルな考え方だとすんなり入れるのではないか、と僕は思っています。

もう一度おさらいしておきますと、

  1. 「ワインの中から、自分が感じるフルーツを思い描く」
  2. それを「ドレッシング」「ソース」に置き換えて、お料理をイメージする。

この反復練習で、ペアリングはどんどん楽しくなります。

できれば、好きなワインを何本か買っておいて、そのワインの味わいを覚えておくといいですね。飲んでいるうちにフルーツを見つけたら、次の休みはスーパーへGOです。あのフルーツのドレッシング、ソースにあう料理は何かな、とスーパーの店内で考える。「あ、北海道のタコが特売になってる!これってグレープフルーツドレッシング(=NZ産ソーヴィニヨン・ブラン)にあうかも!」みたいな。そうしたら、きっとお料理づくりがぐんと楽しくなると思うんです。

実際に、僕が自分のお店でペアリングを考えるときには、まず、ワインを頭の中でドレッシングやソースに変身させて、それを料理にふりかけるイメージでペアを見つけることが多いです。けっこううまくいくんですよ。

いかがでしょう。すこし、ペアリングについて、興味が出てきましたか?今日が、皆さんのペアリングを考えるきっかけの日になったのなら、幸いです。

あ、そろそろ皆さん、酔っ払ってきましたね。お顔がロゼの方、赤の方、いらっしゃって楽しそうです。あとは、ご歓談タイム。どうぞゆっくりしていってください。


こんな感じのセミナーでした。

実は、実際のセミナーは、これ以外にも「ペアリングの裏技」や「よくある誤解」などのお話もしましたが、ま、それは参加していただいた方へのスペシャルなヤツということで。

もし参加された方で、内容を忘れてしまった方は、いつでもリピートでお伝えしますのでご連絡ください。

というわけで、今回は、「ボクモでやったペアリング講座つきのコース料理」の内容をまとめてみました。価格は税込でお一人様5,000円。気になる方、どうぞお気軽にお問い合わせください。(結局宣伝!すみません、こんな時期なんで!)

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この記事の筆者

岩須
岩須 直紀
ニュージーランドワインが好きすぎるソムリエ。
ニュージーランドワインと多国籍料理の店「ボクモ」(名古屋市中区)を経営。ラジオの原稿書きの仕事はかれこれ29年。好きな音楽はRADWIMPSと民族音楽。

一般社団法人日本ソムリエ協会 認定ソムリエ

詳しいプロフィールはこちら

ボクモワイン代表 岩須直紀

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