今回ご紹介するワイン映画は、カリフォルニアのナパ・バレーが舞台の邦画「サイドウェイズ」。
2004年にヒットしたアメリカ映画「サイドウェイ」の、日本版リメイク作品です。
ナパ・バレーは世界でも有数のワイン名産地です。
このまえ見た「ボトル・ドリーム カリフォルニアワインの奇跡」の舞台もナパ・バレーでしたね。
カリフォルニアワインの実力を世界中に知らしめたのがナパ。今でもアメリカの最重要ワイン産地です。
主人公の道雄(小日向文世)は細々と活動しているシナリオライター。とはいえ、ヒット作を出せずにシナリオスクールの講師に甘んじ、さらに同棲していた恋人にも出ていかれて落ち込んでいます。
そしてもうひとりの登場人物である大介(生瀬勝久)は、道雄がアメリカに留学していた頃からの親友。若い頃は忍者役でアメリカ映画に出演し一躍有名になるもののその後は振るわず、ロサンゼルスのレストランで雇われ店長として働いていました。
そんなある日、大介は自分の結婚式に道雄を招待します。
場所は、アメリカワインの名産地ナパ・バレー。
ワイン好きの道雄は、ナパ・バレーのワイナリー巡りができるという楽しみと、「なにかしらの変化」を期待してカリフォルニアを訪れることに。しかし一方の大介は、結婚式前の1週間、道雄と「女遊びの旅」をしようと目論んでいたのです。
二人が訪れたナパ・バレーには、留学時代の思い出の女性・麻有子(鈴木京香)との再会と、その友人・ミナ(菊地凛子)との出会いが待っていました——。
【この記事の登場人物】
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みかさん
アパレル会社に勤務する35歳。ワインにハマり始めてる今、ワイングラスが気になってしょうがない。
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岩須
このサイトの監修を担当する、ソムリエ。自身が名古屋で営むバーでは、ニュージーランドワインを豊富に取り揃える。
「サイドウェイズ(日本リメイク版)」詳細情報
この作品は、映画配給会社20世紀フォックスとフジテレビの共同制作により、オール海外ロケ、海外スタッフというかたちで制作され、当時注目されました。
監督のチェリン・グラック氏は、日本生まれ、日本育ち。本作以外にも海外との共同制作の作品や、海外ロケの多い作品に携わってきました。2000年に自身の映像制作会社を立ち上げ、ロサンゼルスと上海を拠点に世界各国で活躍されています。
劇中で流れる軽快なサントラは、ハワイ出身の世界的ウクレレ奏者ジェイク・シマブクロが手掛けています。
更に要所要所に流れてくる、80年代アメリカのヒットソングは、主演の小日向さん世代の方なら懐かしく感じること間違いなし。中でもエンディングで流れる主題歌、シンディ・ローパーの「タイム・アフター・タイム」には、グッとくる方も多いのではないでしょうか。
みかさんにとっては全く懐メロではないかもしれませんが…(汗)
「タイム・アフター・タイム」は知ってます♪良い曲ですよね〜。
映画ジャンル | 恋愛ドラマ |
テーマ | 大人の青春、恋愛、人生について |
制作年/国 | 2009年/日本 |
時間 | 123分 |
監督 | チェリン・グラック |
脚本 | 上杉隆之 |
出演 | 小日向文世 生瀬勝久 鈴木京香 菊地凛子 |
公式サイト | フジテレビムービー作品紹介 |
キャストの紹介
主要キャスト4人を紹介します。
斎藤道雄 役:小日向文世
代表作を挙げればきりがないほど数多くの映像作品、舞台作品に出演してきた、日本の名優。バイプレーヤーとしてだけでなく主演も多く務める。近年ではドラマ「コンフィデンスマンJP」、「緊急取調室」シリーズなどに出演。上原大介 役:生瀬勝久
舞台出身で、20年以上にわたって数々の映画、ドラマに出演。ドラマシリーズ「ごくせん」の猿渡教頭、「TRICK」の矢部警部補など、コメディ要素の強い役が印象深い。バラエティ番組の司会なども務める。田中麻有子 役:鈴木京香
数多くのドラマや映画に出演。1995年の「王様のレストラン」から三谷幸喜作品に多く出演している。様々な役柄を演じ分ける実力派。ミナ・パーカー 役:菊地凛子
2006年にカンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した「バベル」に出演し、一躍有名に。その後も「パシフィック・リム」など国際的な作品に多く出演しながら、「獣になれない私たち」など日本のドラマにも出演し、印象深い役柄を演じている。「サイドウェイズ(日本リメイク版)」を見た感想
リメイク作品ということで、どうしても元の「サイドウェイ」と比べてしまいがちですが、こちらにはこちらの良さがあります。
まずなによりも、抜群の親しみやすさ。小日向文世さん、生瀬勝久さんという、日本で知らない人はいないというほどの二人を起用していることで、ぐっと親近感がわいてきます。
さらに、二人が演じる「道雄と大介」は、オリジナル版の「マイルスとジャック」に匹敵するハマり役だと思いました。
小日向文世さん演じる道雄の特徴は、日本人らしすぎる日本人であるということ。彼はアメリカ留学経験があるにも関わらず、こてこてのカタカナ英語しか話せません。更に自己紹介のとき、「ミチオ・サイトウ」ではなく「サイトウ・ミチオ」と名乗ることにこだわっています。「細かいことにこだわるなよ」と茶化す人に、強く言い返すシーンもあり、全体をとおして異文化に馴染めない、頑固な日本人というキャラクターが貫かれています。
そんな道雄とは反対に、アメリカ生活が長く、すっかりアメリカにかぶれてしまったナンパな親友・大介(生瀬勝久さん)も、こんな人いるいる!とクスッとしてしまいます。
そして、女性陣。道雄の留学時代の片想い相手・麻有子を演じる鈴木京香さんの醸し出すオトナの落ち着いた雰囲気と、対照的にちょっと破天荒気味なミナを演じる菊地凛子さんのキュートさは、どちらもとても魅力的です。
鈴木京香さんは黙って微笑んでいるだけで美しいですし、菊地凛子さんはひとこと喋るだけでそのシーンがパッと華やかになります。この対照的な二人の組み合わせも、とてもセンスの良いキャスティングなのではないでしょうか。
余りあるほど魅力的な四人。
それにプラスして、風光明媚なナパ・バレーの景色が非常に映えます。
ぶどう畑を眺めながらワインで乾杯するシーンは、思わず「いいなぁ」と、惚れ惚れしてしまいました。
ただ、映画のキーとなるワインに関係するシーンやセリフは、アメリカ版よりライトになっている印象です。うんちくが語られるシーンなどは、ほんのわずかでした。ワインに対する情熱というよりも、ワインをきっかけに、登場人物たちが自分の人生について迷ったり、考え直したり、ということが主に描かれています。オトナの青春、という言葉がまさにしっくりきます。
また、道雄の「ワインは分かち合う飲み物だよ」というセリフからは、「何を飲むか」よりも「誰と飲むか」ということが大切ということも伝わってきます。
更にクライマックスの展開は日本のトレンディドラマ的な要素が加えられていて、より共感しやすく、見やすくなっているように思います。
ところで、アメリカ版では気になっていた飲酒運転が、こちらではNGになってました(笑)
コンプライアンスを考えたら当然そうなるでしょうね(笑)
アメリカ版では当時の法律や取り締まり方の違いから、運転しながら堂々とワインを飲むという、日本人にとってはちょっと衝撃的なシーンが目立ちましたが、こちらの日本版は大介がはっきりと「飲むなら乗るな、飲んだら乗るな」と宣言していました。
現地では送迎付きのワイナリーツアーなど、観光客向けのサービスが充実しています。ナパ・バレーはワイン好きなら一度は訪れたい場所のひとつです。
「サイドウェイズ(日本リメイク版)」の撮影裏話
実は、ワイナリーでのロケは難航したというエピソードがあります。
ナパ・バレーで行われたプレミア試写会に出席したチェリン・グラック監督は、「ほとんどのワイナリーにロケを断られてしまった」と語りました。
理由は、アメリカのオリジナル版「サイドウェイ」の主人公マイルスの有名なセリフに「僕はメルローなんか絶対飲まない」というものがあったから。
彼はピノ・ノワールを特に好むワインオタク。ワインに対するこだわりが強いがゆえにこのようなセリフがあったと思われますが、様々な品種を扱う現地のワイナリーにとっては、このセリフは面白くなかったようなのです。
この映画のヒットで、ピノ・ノワールが爆発的に売れたという事実もありますが、このときにマイルスが「飲まない」と言ったメルローを、わざわざ買う人は少なくなってしまったそう。ワイナリーとしては映画の影響によって自分たちの商売が良い方向に向くとは限らないと考えられているようです。
ただ、この「サイドウェイ」の日本リメイク版は、脚本が変えられています。主人公・道雄のキャラクターはごく一般的なワイン好きにとどまり、「メルローは飲まない」などという強いこだわりはないことになっています。むしろメルローをおいしいと褒めるシーンすらあります。
しかし、日本リメイク版の制作サイドがそのことを説明しても、撮影を承諾してくれないワイナリーがほとんどだったそうです。
他にも撮影は可能だけれども高額な使用料を求められたこともあり、予算の関係で断念したということもあったそう。
ナパ・バレーには数多くのワイナリーがありますが、結局、劇中に登場するのは、「歓迎」してくれた数少ないワイナリーだけ。
特に麻有子が働く「フロッグス リープ」は、撮影交渉が難航するなかで一番最初に快諾してくれたワイナリーなんだそうです。美しいテイスティングルームで麻有子がワインの説明をするシーンはとても印象的なので、注目して見てみてください。
「サイドウェイズ(日本リメイク版)」に登場するワイナリー
ロケは主にカリフォルニアのワイン名産地、ナパ・バレーで行われました。
ナパ・バレーはカリフォルニア北部のノースコースト地方に位置する地域です。
昼間は強い日差しを受け、夜には太平洋からの冷涼な風を受ける。この1日の寒暖差によりしっかりと熟したぶどうは、力強く濃厚なワインになります。
主に栽培されている品種は、シャルドネ、カベルネ・ソーヴィニヨン、ピノ・ノワール、メルロー、シラーなど。果実味たっぷりの味わいのワインが多くつくられています。
フロッグス リープ(Frog's Leap)
劇中で麻有子が働いていたワイナリー「フロッグス リープ(Frog's Leap)」。麻有子はワインの資格をとるための勉強をしながら、テイスティングルームでワインの紹介をする仕事をしていました。
難航していたワイナリーでの撮影交渉を、最初に快諾してくれたワイナリーなんですよね。好感度高いなぁ。
オーナーのジョン・ウィリアム氏は来日経験もある親日家のようです。生産量が多くなく若干プレミアム路線ですが、もし手に入れば特別な日に開けてみてはいかがでしょう。
ウィリアム氏は酪農一家に産まれ、大学ではチーズづくりを学びました。その大学時代にたまたま働き始めたワイナリーで、彼はワインに魅了されてしまいます。その後、アメリカ各地でワインづくりの経験を積んだ後、1981年に友人と共にフロッグス リープを立ち上げました。
決して裕福ではなかった彼は資金調達に苦労したり、現在のワイナリーがあるラザフォードという地が当初ぶどう栽培に適していなかったりと、様々な苦難に遭いました。しかし、ワインに対する情熱で困難を乗り越えていきます。
一流のワイナリーとして成功した今、世界的に高い評価を受けながらも、彼は決しておごることはありません。商業的な成功を追求するのではなく、あくまで楽しみながら、自然を尊重したワインづくりをしていく、ということにこだわっています。
ダリオッシュ(Darioush)
「ダリオッシュ(Darioush)」は、劇中で麻有子が離婚した夫との結婚記念のワインを引き取りに行ったり、大介の結婚式で出すワインを買いに行ったりと、何度も登場するワイナリーです。
イラン産まれのオーナー、ダリオッシュ・ハレディ氏は、カリフォルニアでスーパーマーケットを経営しているビジネスマン。スーパーの事業に成功した後、1997年にワイナリー設立という子供の頃からの夢を叶えました。また、長年のワインコレクターでもあり、大量生産の商業的ワインではなく、少量生産のプレミアムワインにこだわっています。
劇中に登場したテイスティングルームも綺麗でしたが、2004年に建てられたゲストセンターは古代の宮殿のようなデザインで有名です。
ワインの値段を見たら、さすがプレミアム路線という感じでしたが(汗)
劇中でも結婚式のワインとして選ばれていましたし、お祝い事にはぴったりのプレミアムワインだと思いますよ。
ベリンジャー(Beringer)
「ベリンジャー(Beringer)」はなんといっても、カリフォルニアの地で150年の歴史を持つワイナリーとして有名です。
ドイツ移民のベリンジャー兄弟が1876年に設立。その後1918年から15年の間、アメリカでは「禁酒法」という酒類の生産、流通、販売などを禁止する法案が施行されました。数多くのワイナリーが苦境に立たされるなか、ベリンジャーは唯一許された教会での礼拝用のワインを醸造するなどして乗り越え、今の成功に至ります。
現在はカリフォルニアに広大な自社畑をいくつも持ち、それぞれの気候や土壌に合わせたぶどう品種を栽培。彼らのつくる高品質なワインは、いくつもの国際的な賞を獲得してきました。
毎日でも飲めるようなテーブルワインから、こだわりのプレミアムワインまで、幅広いラインナップで世界中のワインファンを楽しませています。
サッポロビールと共同で、日本人向けのシリーズも発売しています。千円代から手に入る気軽さが魅力です。
近所のスーパーでも売っていたので、ぜひ買ってみます!
まとめ
世界的にヒットしたアメリカ映画「サイドウェイ」の日本リメイク版「サイドウェイズ」は、日本人らしさを加えて、より親近感を持てるような内容にリメイクされています。
キャストも豪華で、マニアックなワインにフォーカスを当てるというよりは、ワインが出てくるヒューマンドラマというタッチになっていて、それほどワインに詳しい方でなくても楽しめる映画となっているのではないでしょうか。 懐かしい洋楽のBGMも、作品にばっちりハマっていると思います。
まずライトに観られる日本版を観てから、原作のアメリカ版を観てみるというのも楽しいと思いますよ。
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