「ワインショップの開店にあわせて、クラウドファンディングやりましょうよ」
ミーティングでスタッフにそう言われたとき、僕はとっさに「あ、そうですね」と答えました。
しかし内心、うーん、あれかあ。ちょっと性に合わない気がするんだけどなあ、と思っていました。
クラウドファンディングって、あれでしょ。「僕、困ってるから、みなさん助けてください」っていうのを、今どきの言い方に変えたやつでしょ。
苦手だなあ。
振り返れば、僕は昔から「助けてください」が言えないやつでした。
少年野球をやっていた頃。
どうも、投げ方がヘンで、僕の投げるボールはいつも微妙にカーブしていました。球速も遅い。遠投なのに近投になる。困ったなあ、どうやったら直るんだろうなあと悩んでいました。
でも、友だちや監督に「正しい投げ方、教えて」とは聞けなかった。そのせいで、結局、僕は最後まで補欠でした(いや嘘。打撃も足もいまいちだったからレギュラーになれなかった)。
あと、絵を描いていたとき。
僕の目は色覚異常があって、ちょっと判別が苦手な色があるのですが、そのくせ、水彩画を描くのが大好きでした。図工の時間、パレットの上の絵の具でいろんな色を作っては、るんるん気分で画用紙に塗っていました。しかし、出来上がった絵を見て、先生はびっくり。
「おい岩須、なんで顔を緑で塗ったんだ?」
やってしまった。パレットでいろんな色を合わせてるうちに、何色か分からなくなったけど、まあ肌色ってこんな感じかな、で塗ったら、まさかの緑だった。「これ、何色ですか?」と先生に聞けなかった。
今でも、洋服を買ってくると、妻に「こんな色、買ってきたの?」と驚かれることがある。しまった、これって紫だったのか・・・店員さんに聞けば良かったな、なんて後悔することもしばしば。
「僕、困っているんです」
このひと言が言えないんだよなあ。なんでだろうなあ。
そんな話を妻にしたら、こう言われました。
「プライドが高いからでしょ。」
ずしーーーん。
ああ、そうだ。ド直球の正解。ちょっとくらいカーブ投げてくれてもいいのに。ストライク、夫、アウト。
そうです。僕は、余分なプライドが邪魔して、助けて欲しいとか、そういう弱みを人にさらけ出すことができないんです。
助けて欲しいって言えるのって、本当は弱みをさらすことじゃなくて、人として強さがあることなのにね。
僕のプライドは「恥をかきなくない」っていう、ショボい「プライドもどき」で、本来、プライドって、恥をかいたくらいじゃあびくともしない「誇り」とか「自尊心」のはず。
理屈では分かるんですよ、それは。分かるんだけど、どうも、実践となると難しい。
しかしまあ、やはり妻は長年一緒にいるだけあって、そういうのをやすやすと見破りますなあ。
そもそも、「応援してください」「助けてください」なんて胸を張って言えるほど、僕はこれまで徳を積んでいない。「ギブ・アンド・テイク」の「ギブ」が足りていないって思っちゃう。
これまで社会に貢献しまくってきた人なら言う資格はあると思うけど、どう考えても、僕はそんな立派な行いをした記憶がないもんなあ。
やっぱり、クラファン、僕には向いてないよなあ。これを、どうやってミーティングで言えばいいかなあ。
そして翌週。定例のZoomミーティングにて。
スタッフ「さて、クラファンを、どう進めるかの話ですが・・・」
僕「(やっぱり、やることになってる)」
スタッフ「今回は、基本的に利益をもらわないやり方がいいと思います。」
僕「(はいはい、利益をもらわない、と。)
え!??
利益をもらわないやり方!?そんなのあるんですか?」
スタッフ「まだまだニュージーランドワインって知られていないから、まず、いちど飲んでいただく機会をつくるっていうのを目的にすれば良いと思います。
だから今回は、「お金で支援していただく」のではなく、「NZワインがすごく美味しいものだと認知していただく」ことをゴールにしたらどうでしょう。そのゴールが達成できたら、それは僕らにとっては大きな支援になるんじゃないでしょうか。」
天才か!
そんなクラファンの使い方があるとは!
たしかに、僕がワインショップでまずやりたいのは、NZワインの美味しさを伝えることです。それがお店のオープン時にできるなら、それは僕にとって、めちゃくちゃ嬉しい。
助けてください、じゃなくて、知ってください。それならば、僕のショボいプライドセンサーももちろん無反応。
クラファンをやることで、ちょっとでも興味のある方に、NZワインの素晴らしさをダイレクトに届けられるなら、すごくいい!
いやあ、持つべきものは、見識ある仲間ですなあ。
僕たちがやりたいのはまず、知っていただくこと。だから、ワインといっしょに、NZワインの魅力を書いた冊子を同梱しよう。
それだけじゃ足りない。ワインってのは、「瓶+液体」だけの飲み物じゃないんだもん。「+情報」が必要なんだから。
香りや味の特徴、飲み頃の温度、どのような食事が合うか、そんな情報を知りながら飲むと、俄然面白くなる。だから、届けるワインのプチ情報を書いた「ワインカード」もつけよう。
ええい、ワイングラスもつけちゃえ。
届いてダンボールを開けたら、みんなワクワクするぞ。きっとNZワインファンになってくれる人も増える!(といいな)
こうして、僕らは、クラファンを「思いを届ける装置」として使わせてもらうことにしました。
そして、これを書いている今、思ったよりもたくさんの方にご支援(ご購入)いただいております。わー、よかった、ありがたいです。
実際に届くのは、クラファン期間である~6/14が過ぎてからになりますので、ご支援いただいた方、しばしお待ちください。まだの方、ウィンドウショッピングで良いので、一回見ていただけると嬉しいです。
(追記1)
あとで、クラファンのことをちゃんと調べてみたら、「困ってるから応援してください」のパターンよりも、今はむしろこういう「購入型」が多いみたいですね。無知でした。
でも、お店の準備の一環で、クラファンにこういう使い方があることが知れてよかった。たくさんの方に思いが伝わるのならば、本当によかった。
あと、クラファンについて考えているうちに、僕のショボいプライドもあぶりだされたので、それもよかった。自分の弱みに向き合えないショボいおっさんにならぬよう、気をつけようと思います(サンキュー奥さん)。
(追記2)
色覚の異常はありますが、ワインの色の判別に関してはさほど支障はない、と思っています。あ、いかんいかん。それじゃダメだった。今度から、分かりづらかったら、プライドをポイ捨てして、ちゃんとまわりの人に聞こうと思います。
今週のワインとおつまみ
INVIVO CENTRAL OTAGO PINOT NOIR 2018
インヴィーヴォ セントラル・オタゴ ピノ・ノワール2018
このワイン、クラファンのリターンにも入れました(【NZワインの王道を美味しさを知る4本セット】と【マニアも垂涎!ピノ・ノワール好きのためのピノオンリー6本セット】)。
開けたばかりの時は、ちょっとヨーグルトみたいなミルキーな香り。そのあと、いちごやラズベリーのフルーツの香りが広がります。飲んだら、あら滑らか。ベリー+カカオのニュアンスあり。後味に心地よいホロ苦さも。
ピノとしてはややどっしり。全体的にフルーツのニュアンスが強いのは、NZらしい。濃縮感があるのは、しっかりと完熟したぶどうを使っていることがうかがえます。
ちなみに、セントラル・オタゴは、寒いけれど日照量が豊富な、谷と丘だらけの産地です。ああ、また行きたい。
あわせたのは、これ。
サバ味噌です。ドンピシャのペアリングです。もう、このマッチング思いついた俺、天才。サバ味噌で手前味噌!てへ!
味噌の甘さ、魚のうまみ、コク。もう、これは濃いめのピノのためのアテと言い切ってよいでしょう。
NZピノとサバ味噌を食卓にのせることができる日本人(庶民)でよかったなあ。