ニュージーランド最大の都市、オークランド(Auckland)。
NZの人口の1/3にあたる165万人もの人々が暮らすこの地域は、経済や商業の中心地でありながら、美しいビーチや緑の多い公園などの豊かな自然が残る、とても魅力的なエリアです。
私の友達は、ワーキングホリデーでオークランドに行っていました!
そういう方もけっこう多いと思います。NZの中でオークランドは大都会。海外から訪れる人が多い都市ですね。
たくさんの魅力がつまったオークランドですが、実はワインの隠れた名産地。
このエリアにある3つのワイン産地はそれぞれに違った個性があり、歴史のあるワイナリーも多く存在します。
では、さっそく詳しくみていきましょう。
オークランドのワインの特徴は?
まずは、ワイン産地としての大まかな特徴をお話をします。各項目の詳細は、のちほど説明していきますね。
- 20世紀前半に移住してきたクロアチア人により、ワイン産業の基礎が築かれた
- NZでも規模の大きいワイナリーの本社が集まる
- 3つの個性豊かなサブリージョンがある
- 温暖な気候を活かした、高級ワインの産地でもある
NZのワイン産地では、マールボロ地方やセントラル・オタゴ地方などが非常に注目されていますが、ここオークランド地方もNZワインの歴史の中で、重要な役割を果たしてきました。
まずこの地域のワインの歴史を語る上で欠かせないのは、クロアチア移民の存在です。彼らがこの地で、ワイン産業の基礎を築き上げました。その結果、オークランドには比較的規模の大きいワイナリーの本社が多く集まっています。
それぞれ異なる特徴を持ったサブリージョンが3つあり、オークランドの温暖な気候を活かした高級ワインも生産されています。
オークランドで栽培されているぶどう
オークランドは、南半球に位置するNZの中で北部に位置するため、気候は温暖です。
年間の気温を見ると、
夏…最高気温23℃
冬…最低気温7℃
ほどで、一年を通して極端に暑くなったり、寒くなったりすることはありません。
温暖な気候の産地では、どんなワインがつくられるんですか?
そうですね、NZといえばさらっとしたエレガントな「ピノ・ノワール」が有名なんですが、それは冷涼な地域での栽培が向いています。
反対に、温暖なオークランド近郊では濃厚で長期熟成可能なボルドーブレンドをお手本にした赤ワインがつくられています。
オークランド近郊で栽培されている主な赤ワイン用ぶどう品種は、
- メルロー
- カベルネ・ソーヴィニヨン
- カベルネ・フラン
- シラー
です。
中でもワイヘキ島のシラーは、近年世界的に高い評価を受けています。
白ワインの主要品種は、
- シャルドネ
- ピノ・グリ
となっています。
ボルドー系の白といえば「ソーヴィニヨン・ブラン」ですが、オークランドでは「シャルドネ」をメインに生産しています。それは、本場ブルゴーニュのワインにも勝るとも劣らない、品質の高さを誇っています。
湿度対策による苦労も…
オークランドの気候は温暖であると同時に、「湿度」も高いという特徴があります。
年間降水量のオークランドの平均は約1,240mmで、東京の平均が約1,500mmであるのと比べると、あまり多くはないように感じますが、冬の間は雨が多く土砂降りの日もあるほどです。
ぶどうは湿気に弱い植物なので、生産者たちは様々な対策に追われます。例えば、ぶどうに効率よく陽の光をあてるために、こまめにツルや葉を間引いたり丁寧な手入れを行います。そうすることで、湿気によるカビや害虫の発生を防ぐのです。
なるほど…、美味しいワインは、生産者さんたちの陰ながらの努力によってできているんですね。
そうなんです。少しでも品質の高いものをつくろうと、細かな手作業にこだわる作り手の方が多いんですよ。
オークランドのワインづくりの歴史
ワインづくりの歴史についても、もう少し詳しくみていきましょう。
この地域では1902年に、レバノン移民のアシッド・エイブラハム・コーバンがワインづくりをはじめ、1909年には自身がつくったワインを大量販売したという記録が残っています。そして、それが高品質なワインの普及に大きな影響を与えたとされています。
さらに、1920年代から、クロアチアの移民であるジョシップ・ペトロフ・バビッチがオークランド近郊でワインづくりを本格化させ、現在も続く「バビッチ」というワイナリーを創設しました。
他にも、この地域にはクロアチアの移民が創設に関わるワイナリーが多く存在します。
そのワイナリーには、
- モンタナ
- クメウ・リヴァー
- ヴィラ・マリア
- プロヴィダンス
のような、有名ワイナリーも含まれます。
その後、1970年代にマールボロ地方のぶどう生産量が飛躍的に伸びるまでは、NZでは主要な産地として名を馳せていました。
そしてこの地で創業したワイナリーが、NZ各地にぶどう畑とワイナリーを広げていったことから、この場所は「ワイン生産者たちの原点」と言われているのです。
個性豊かなサブリージョン
オークランド近郊の広大な土地には、多くの上質な小規模ワイナリーが集まっています。
この地方には3つのサブリージョンがあり、どの地域のワインも個性的です。
産地 | 特徴 |
---|---|
クメウ | 火山性土壌由来の粘土質。 NZを代表するシャルドネ生産者「クメウリヴァー」が有名。 |
マタカナ | 湿気が多く温暖で亜熱帯のような雰囲気がある。 幻のワインと呼ばれる「プロヴィダンス」のワイナリーがある。 |
ワイヘキ島 | 高級リゾートでワインの島と呼ばれる島。 ボルドー系の高級ワインの産地として名を馳せる。 |
では、それぞれの地域について詳しく見ていきましょう。
NZで初めてシャルドネの栽培に成功した「クメウ」
クメウ(Kumeu)は、オークランドの市街地から北西に車で30分ほどの場所にあります。
20世紀初めからクロアチア移民によってNZワイン産業の礎が築かれた、歴史的に重要な地域です。
この地でつくられるのワインは、
- キリッとした上品なシャルドネ
- スタイリッシュなメルロー
のようなスタイルが代表的です。
クメウリヴァー(Kumeu River)
「クメウリヴァー」は、国内で初めてシャルドネの栽培に成功したことで有名なワイナリー。
1944年にユーゴスラビアから移住してきたブロコヴィッチ家が創立し、彼らがアメリカやヨーロッパで学んだ知識と経験を活かしたワインがつくられてきました。
クメウリヴァーのシャルドネは、ブルゴーニュスタイル。ブルゴーニュスタイルのシャルドネは、豊かな果実味とキリッとした酸味のバランスの良さが特徴です。
本場ブルゴーニュにも匹敵すると賞賛される高品質なワインが、この地でつくられています。
幻のワイン「プロヴィダンス」が生まれる「マタカナ」
マタカナ(Matakana) は、オークランド市街地から北へ車で1時間ほどの距離にある、湿度が高く緑が多い地域です。
海からの距離が近い場所にぶどう畑が点在していて、太陽の光を最大限に受けるためにそのほとんどが北向きの傾斜地にあります。ちなみにNZは南半球なので、北向きが日当たり良好になります。
この地域の主な品種とその特徴は、下記のとおりです。
- ピノ・グリ…洋ナシの香りがスパイシーなニュアンスのある、肉厚で重厚な味わい
- メルローやカベルネ・ソーヴィニヨン…リッチで土っぽい特徴をもつ
このマタカナという地域は、ファーマーズ・マーケットも有名。NZのパーマカルチャーやオーガニックに対する意識をリードするエリアであるとも言えます。
幻の高級ワイン「プロヴィダンス」
マタカナの中で特に際立つ存在「プロヴィダンス(Providence)」は、 “幻のワイン” と呼ばれる高級ワインをつくり出すワイナリーです。
ボクモで保管をしている「プロヴィダンス プライヴェート・リザーヴ1996」。
プロヴィダンスでは除草剤や化学的な肥料を一切使わず、有機肥料のみを使用しています。さらに、醸造では野生酵母が使用され、収穫は全て手摘みで行われています。
ぶどうへの愛を感じますね!
岩そうですよね。このような丁寧な栽培・醸造方法は、もともとは欧州で何世紀にも渡り培われてきた伝統的な方法なんですよ。それをNZで実践し、成功させたのがプロヴィダンスです。
このプロヴィダンスのワインは、日本ワインの父とされる麻生宇介氏にも大きな影響を与えたとされ、日本ワインの発展にも寄与しています。
代表的なものはカベルネ・フラン、メルロー、マルベックをブレンドした*「プライベート・リザーヴ」*という名のワイン。少量生産な上、そのほとんどが世界のワインコレクターに渡ってしまう為、国内ではほとんど出回らず「幻のワイン」と呼ばれています。
世界中から観光客が集まるワインの島「ワイヘキ島」
NZの中でも屈指のリゾート地として知られるのが「ワイヘキ島」。ここは別名「ワイン・アイランド」と呼ばれるほど、ワインづくりが盛んな島でもあります。
ビーチや宿泊施設も充実し、別荘地やリゾート地として人気で、ワインフェスティバルも毎年開催されています。
ワイヘキ島は本土よりも暖かく乾燥した気候です。夏の気温は最高30℃以上になりますが、夜になると肌寒くなるほど冷え込み、寒暖差がしっかりあります。また、島全体の土壌は水はけが良い痩せた土地が多く、そのような環境で育つぶどうは、たいへん凝縮感が出ます。
そんなポテンシャルの高いぶどうからつくられる赤ワインは、しっかりとしたタンニンが感じられるフルボディタイプのワイン。濃厚でリッチな味わいがこの島の特産品となっています。
マン オー ウォー(Man O’ War)
島内に20軒ほどあるワイナリーの中でも最大規模を誇るのは、「マン オー ウォー」です。
この島の約20%の土地を保有し、60ヘクタールにもおよぶ丘陵斜面のぶどう畑では、バラエティー豊富なワインが生産されています。
マン オー ウォーで最初にぶどうが植えられたのは1993年。そして、初のヴィンテージが2007年と比較的新しいワイナリーですが、世界中から非常に高い評価を受け、注目を浴びています。
「アイロンクラッド ボルドーブレンド」というワインも、ボルドーで使われる6種類をブレンドした、まろやかでコク深い味わい。
濃厚な赤ワインがお好きなら、ぜひいちど試していただきたいですね。
ストーニー・リッジ(Stonyridge)
続いてご紹介するのは、高級ワイナリーとして名を馳せる「ストーニー・リッジ」です。
特にメルロー、カベルネ・ソーヴィニヨンなどでつくられるボルドーブレンドの「ラ・ローズ」は、「ニュージーランドでこんなワインがつくれるのか!」と世界中のワインファンを驚かせました。
近年ではエレガントなシャルドネ、果実の凝縮感たっぷりのモンテプルチアーノとプティ・ヴェルド、そして香り豊かなヴィオニエとピノ・グリが評判です。
ニュージーランドを代表する歴史あるワイナリー
「ワイン生産者たちの生まれ故郷」といわれるオークランド近郊地方には、現在も世界的に有名なワイナリーがあります。
ここではNZのワイン産業を支えてきた歴史あるワイナリーのうち、オークランド近郊に本社を持つ2つの特色あるワイナリーを紹介したいと思います。
バビッチ(Babich)
2016年に創業100周年を迎えた「バビッチ」は、NZ最大の家族経営ワイナリーのひとつです。
オークランド発祥で現在も本社とぶどう畑の一部をオークランド近郊に持ち、ホークス・ベイ地方とマールボロ地方にもぶどう畑を持っています。
特にマールボロのワイナリーは2013年に新設されたもので、広大なぶどう畑に加え最新鋭の設備と6,000t分ものステンレスタンクを備えるなど最先端の技術を導入しています。
それはバビッチが「ぶどう栽培に適した条件の良い畑に、最適な品種を植える」という非常に合理的な哲学を持っているからです。
オークランド郊外で栽培している品種は主にピノタージュ、ピノ・ノワール、シャルドネで、本社に併設のワイナリーで小規模ながら伝統の銘柄を守っています。
現在、実際にホークス・ベイ地方で収穫されたぶどうを使用した代表的な銘柄は、ピノタージュ主体の赤ワイン「East Coast Vintara」で、この「Vintara」という銘柄は60年以上に渡りオークランド近郊で愛されてきた伝統的なワインです。
ヴィラ マリア(Villa Maria)
2011年に創業50周年を迎えた「ヴィラ マリア」は、NZ国内各地に拠点を持つ最大手のひとつ。
ぶどう畑は北島のギズボーン、ホークス・ベイ地方、オークランド近郊と南島のマールボロ地方にあり、それぞれの地域で最良の畑を所有し高品質なワインをつくっています。
リーズナブルなものから高級なものまでラインナップは豊富ですが、特に高級ワインは世界中で多数の賞を獲得しています。
現在は世界60ヵ国に安定的に輸出していて、日本でも1,000円台から購入することができますよ。NZワインにチャレンジするのにぴったりなワインです。
1,000円台からで、NZのワインが飲めるのは嬉しいですね。
また、ヴィラ マリアはNZのワイン業界で初めて女性従業員を雇用したり、家族経営でありながら、高品質なぶどうを栽培する専門家「ぶどう栽培家」を採用するなど、雇用に対しても積極的な改革を行ってきました。
2001年に世界に先駆けて全商品にスクリューキャップを採用したことでも有名です。
スクリューキャップを採用することで、従来のコルク栓で問題になるカビの発生や長期保存の難しさなどが解消されることや、ワイン自体の品質への悪影響がないことも分かったため、現在NZではほとんどのワイナリーで採用されています。
このような様々な改革とワイン業界への貢献が讃えられ、2009年、創業者であるジョージ・フィストニッチ氏にNZのワイン業界初の「ナイト」の称号が授与されました。
まとめ
オークランドはワインの生産量こそあまり多くはありませんが、NZワインを語る上ではなくてはならない重要な産地です。
ソーヴィニヨン・ブランやピノ・ノワールなど、アロマティック系やエレガント系の品種に注目が集まりがちなNZワインですが、ボルドーブレンドやブルゴーニュスタイルのシャルドネなど、濃厚でリッチなワインがNZでもつくりだせることを、このオークランドが証明してくれています。
また、ここオークランドを拠点としたワイナリーが世界的に名声を得てきたおかげで、NZワインが世界から注目を集めるようになったという点もNZワインを語る上で重要です。
今後も、大手ワイナリーの拠点として、またプレミアムな「濃いめのワイン」の産地として、存在感を放っていくことでしょう。